青インキの絵はがき

ときどき開けてみるお菓子の缶のなかに
學修がくしゅうさんからの絵はがき

學修というのは祖父で
私が物心つく以前に脳溢血を患い
右半身が動かなくなった
左手で箸や万年筆を持つように訓練した祖父の字

　　　いずみちゃん
　　　２歳のお誕生日おめでとう
　　　毎日いいこにしているのですよ
　　　もうすぐたかひこちゃんも生まれますからね
　　　お母ちゃんはレインボーママになりますね
　　　二児の母です

祖父は冗談が好きだった
今は何で笑ったか思い出せないけれど

祖父は本や世界の事象によく取り組むひとだった
日記には医療や世界情勢や
文芸誌を読んでの思索ばかり書かれている
青いインキで

祖父の闘病は長く続き
私の高校生活の翌々日に亡くなった
卒業式に参加出来るように待っていてくれたみたいだと
勝手に思っている

最後の絵はがきはどれだっただろう

研究のことばかり書かれた遺品の日記帖に一行

　　いずみが７歩あるいた

愛されていたと知る

入院してからも施設の高齢者向けレクリエイションには参加せず
病室には文藝春秋

學修

學を修めた人生

學修さん
私は大きくなりました
もっと生きています
そしていつか死にます
もしも
もう一度孫娘に生まれることがあったら
抱っこしてください

沢山の絵はがきありがとう