しょせん、この世は空と色!


中3のクラス替えで江崎想一郎は美人・変人・成績優秀な菊池美弥と隣の席になる。草食系の想一郎は肉食獣・美弥に引きずられて寺を案内することになってしまったが、訪れた寺で成り行き上組んだ坐禅の末に、妙な世界へ迷い込む。戸惑う二人の前に現れた留学生アニータが告げる。「閉じかけた第3の眼を再び開眼せよ」と。 仏教系ライトノベル開幕編。

 面白いものをみつけた。孔雀王を代表とする密教系アクションではなく、禅を基本としているという説明をスペースで受けたが、それにしても仏教とラノベ。まぁ今は聖☆お兄さんなんて漫画もあるからおかしくはないが、なかなか珍しい取り合わせだ。
 仏教の教義はかなり哲学的で、あれは宗教というよりは思想体系なのだと思うことが多いのだけど、それがどうラノベに変換されているのかワクワクしながら本を開いた。

 ストーリーはあらすじに大体あるとおり、基本は異世界トリップに近い。寺で座禅を組んだ際に見たリアルな夢を境に、世界がずれたように変わってしまうのだ。完全な異世界ではなくて、例えば学校も友達もちゃんと存在しているのにクラスメイトの思考や反応が変わっていたり学力至上主義になっていたりという、ほんの少しずれた世界。安心した。ちゃんとラノベだ。
  ストーリーは肉食系女子の美弥が引っ張り、想一郎はそれに付き合わされているような段階から始まるが、想一郎もちゃんと自分で考え行動を起こしていくし、美弥の家庭の事情やら想一郎の幼馴染女子なんかがかすめるように絡むあたり、先はまだまだ長く楽しみだ。学校生活を中心にしているので、学園ものとして読んでいくのもありなんじゃないかな。

 さて仏教だけどもそれもきちんと織り込まれている。諸行無常は割合理解しやすい概念だけども、諸法無我は馴染みがない人も多いだろう。ま、この二つを完璧に理解したらそりゃ悟りだろとも思うんだけど、仏教の基本概念としてキャラクターの口から解説させ、しかも主人公に「よく分からない」と言わせているのがいいと思う。ここで主人公が理解しちゃったら、読者まで理解した前提でこの先の話を進めていかれてしまうからだ。

 私も仏教は勉強を始めたばかりなのであまり大したことは知らないし、入門書の亜流としてこんな本もいいのじゃないだろうか。ドラッカーの入門書が「もしドラ」だったように、仏教とラノベが成立すれば面白いと思うのだ。 あまり仏教の説法説法アンド説法という感じではなく、あくまでも小説の範疇にあって話も小難しくはないので、物は試し的に読んで見て欲しい本。


発行:ふろむえっくす
判型:A5 112P
頒布価格:不明
サイト:ふろむえっくす。

レビュワー:小泉哉女

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