人魚姫の憂鬱


生まれつき足の不自由な八咫(やた)は、ある夏の夜に海から現れた少女に出会う。少女は自分が半人半魚であると告げ、彼に泳ぎを教えて欲しいと頼むが…… 人魚姫を下敷きにした掌編。

 綺麗な話だ。アンデルセンの人魚姫のストーリーの救いのなさときたら思い出しても滅入ってしまうが、これはうまく転換されていて、現代版おとぎ話として柔らかくまとまっていると思う。

 八咫に泳ぎを教えてくれと頼んだ少女・華鱗(かりん)と、足の障碍をきっかけに別れてしまった恋人を想う八咫の会話は兄妹のようにほの明るくて 優しい。夏の夜の海がぬるく身を包む程度の温度感がちょうどいい。

  去って行った恋人を責めない八咫の優しさは大人の配慮を持ったそれで、華鱗がそれに対して憤慨している様子は微笑ましい子供の優しさに見え、うまく対比されていてほろ甘い。華鱗はこれから大人になっていくわけですが、八咫の心根の優しさを理解するのはいつなんでしょうね。
 年齢と経験を両方重ねないと理解できないことはあると思うのです。
 誰も悪い人がいない、切なく温かなお話でした。


発行:黒川庵
判型:A5 26P 
頒布価格:100円
サイト:黒川庵

レビュワー:小泉哉女

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