『Transporter』シリーズ


鉄道貨物輸送を生業とする「輸送管理官(トランスポーター)」。
カートはその職業に誇りをもっていた。帝国が倒れ、世の中が変わろうとしているとき、カートは厄介な荷物と巡りあう。
(公式サイトより)

※過去の感想はこちら
Transporter ~Operation Skyblue~
Transporter ~Save the Princess~

sanka

――物流は血流である。肝要の一箇所を止めてしまえば、鬱血し壊死するのだ。
(経済学者 Akim Anagate の言葉より)

血が心臓から全身へ届き、また還るように、この物語の世界では鉄道が活き活きと巡っている。
Transporterは、革命の只中に巻き込まれた者達の群像劇だ。
鉄道の支配者が旧い帝国から新政府へすげ変わり、職務への誇りを見失い嘆く鉄道輸送管理官(トランスポーター)の男カート。
革命を左右する分岐点へと、男に『運ばれ』、そして男を『運ぶ』青き皇族の少女。
政治活動に燃える強き女でありながらも、男とのすれ違いに揺れる恋人。

この作品に触れて真っ先に感じた事を正直に言う。それは「ああこの作者の男(事前にそう知っていた)は仕事もデキるモテ男なんだなこんちくしょい」だ。

第3巻「Love Letter」では、カートの恋人ローズ女史をメインに物語を繋げていく。
変わり行く情勢に翻弄され自身の望みを見失いかけながら、彼への手紙に筆を取るシーンから始まるのだ。
旧帝国体制下から仕事の誇り一本で生きてきた、旧いタイプの不器用真面目男と、やや熱の上がりがちなレディの組み合わせだ。ケンカが起きない筈が無い。カート・シーリアス。ローズ・ホーリックス。彼らの姓はそのまま彼らの性格だと、素直に受け取っていいだろう。

創作作品の起源がプライベートに直結していると勘ぐるなど、ナンセンスにも程があろう。
だが「ああ仕事絡みでモメた女を上手くほだした事があるなコイツ絶対」などと下世話に想像させるくらい、女性視点での(特にローズ女史の)心の揺れ動きは生々しい。
そして荷物(注:女性の事ではない)の扱いがリアルな所も、カートの仕事人間らしさの描写に一役買っている。

食生活が乱れれば血が淀み滞るように、国家は端から少しずつ傷む。
血の巡らせる者の一員として、男は最後に何を選ぶのか。
恋愛模様もさる事ながら、社会情勢に巻き込まれつつも『働く』道を自問し続けるカートの姿には、読み手が社会人であるならば何かしらの共感を見出せる筈だ。
全五巻。革命の線路はどこへ辿り着くかを、ひと息で追い切るに足る魅力ある物語だった。

皇族姉妹の心の交流にスポットを当てた外伝作品『氷の花の香りは』は、レールの焼ける香りに満ちたTRANSPORTERの群像劇に、ひと時の涼やかな休息を加えてくれる。
個人的には2巻から3巻の間、もしくは4巻から5巻の間に、この短編を挟む事をオススメしたい。
表紙のエロスに惑わされる事なく(いや惑わされたならそう正直に言うが良いさ!)ぜひ併せて読まれたし。


発行:MisticBlue
判型:A5 44~64P
頒布価格:300円
サイト:MisticBlue
レビュワー:トオノキョウジ

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