花と魁


 江戸・吉原遊郭を舞台に綾なす遊女たち、禿たち、そして男たち。腐った水のような世界をひらひら泳ぐ女たち。苦界と呼ばれる格子の向こうの女たちの世界を切り取る小景。「泳ぐ蝶になれ」(ひより)、「露乱れて、花となれ」(祈)の2本収録。

 エロティック。エロい、でもなく、いやらしい、でもなく、エロティックです。吉原遊郭の舞台性はもちろんあると思うのですが、2本とも雰囲気がすさまじくエロティックです。それなりにコトの描写もありますが、そこは大してエロくない。むしろシチュエーションや環境によって女は興奮するのだと念を押されるようなエロス。なるほど18禁指定はしないわけですね。  

「泳ぐ蝶になれ」は少女の視点から醒めた描写で女同士の確執を描いています。姉女郎と見習いの少女の間にある折り合わない溝。優しかった元の姉女郎が死んだ後ついた姉女郎・葉桜の底意地の悪さと、それとよく似た藤尾の底意地の悪さ。女同士あるある、ではあるのですが、雰囲気がすごくいいですね。梅嶋の手の描写がとても好きです。

「露乱れて、花となれ」は遊女と男の愛憎の物語。自分以外の男に女をあてがって酒を飲むというシチュエーションのエロスときたらもう……姉妹女郎の話が女同士の愛憎であるとして、こちらははっきり男女の対決構成です。遊女白露のいじらしさと、それに比例するような彼女の意地っ張りで見栄っ張りな自我は、結局男に素直に身を投げ出すってことをさせないわけで、それが辛かったり、理解はできたりします。素直に身をさらすことって単純なようでなかなか難しいわけですが、そこにプライドが加わるともうドツボへまっしぐらなんでしょうね。

2篇ともレベルも高く、とにかく読んでいてくらくらします。酩酊感とでもいうのでしょうか。けれど世界にハマる、という小説のよいところを味わえます。和物好きな方にもそうですが、愛憎劇が好きな方には是非おすすめしたい本です。


発行:マゼンタ
判型:A5版 52p 
頒布価格:300円
サイト:マゼンタ

レビュワー:小泉哉女

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