幻想 ──エリュシオンの終焉


 舞台は19世紀末のウイーン。自堕落に暮らすヴィクトールは、ふとしたことでフレデリックと出会う。ヴィクトールの庇護のもと、フレデリックは声楽の才能を開花させ、その歌声がヴィクトールの生活を変えてゆく――

 幻奏華さんの十八番とも言える、ヨーロッパが舞台の歴史小説。端正な文章と緻密な構成が一気に読ませる。
 クラシック音楽鑑賞を趣味とする方の手になるだけあって、冒頭のカストラートの歌声、作中のおりおりで歌うフレデリックの歌声が、行間から「聴こえて」くるのが快い。
 終盤における作中人物の決断は、ヨーロッパ人ならではの思想に基づくもので、それを描けた手腕には唸らされた。

 2011年11月現在で残部僅少とのことなので、早めの入手をおすすめしたい。


発行:幻奏華
判型:文庫版 176P 
頒布価格:400円
サイト:幻奏華

レビュワー:みちる

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