願いの先のもう一歩

蒸気船が海を渡り、蒸気機関車がレールの上を行く時代。
白髪紅眼の魔法使いセイクリフは、付き人ツィセと共に、ガソリン車走り回る街へ降り立った。
――義兄を連れ戻す。その目的の元に。
(作者様サイトより転載)

sanka

 森村さんの作品は、一から十まで、初めから終わりまで、常に驚きと発見に満ち溢れている。次の展開は、一体何をしてくれるんだろう――という期待でわくわくします。

 今作「願いの先のもう一歩」の主人公は、魔法使いの少年・セイクリフ。
 大魔法使いではあるが、故郷の里を出ていった義兄・ケイマストを故郷へ連れ戻すために来た街は、魔法のにおいがしない、科学技術の発達する街だった――から始まる、少年の成長物語。 

 最初ご本を手に取った時、科学と魔法という文句に、最初は「なになに? 科学と魔法の融合したなんか呪文とか唱えちゃうタイプのもの?」なんてひっじょーに最近のライトノベルな発想をしてしまったのですが(申し訳ありません)
 「科学」と「魔法」を軸にして。若人の目を通して見えてくるのは、働く矜持を持つ者の物語でした。
 魔法が出来る事、出来ない事。科学で出来る事、出来ない事。
 魔法は即ち、個人の能力だと言い換えてもいい。一人で出来る事、出来ない事。
 若い少年主人公・セイクリフの目を通して、魔法の世界から科学の世界へのグラデーションを見ることが出来ました。
 何故大魔法使いだったケイマストが科学を研究し始めたのか。「魔法使い」という血を持つ存在の謎とは、と、いろいろな伏線が随所に貼られており、全ての謎が解けていく後半の盛り上がりは、本当に素晴らしかったです。
 そして、話を彩るキャラクターたちの個性豊かな事! 
 主人公のセイクリフ、通称セイ君は、少年らしい純粋さと、思春期の反抗心を併せ持つ可愛らしい少年。義兄のケイマストへの反抗心は見ていて微笑ましいくらいです。
 セイ君の義兄であるケイマスト氏は、登場からすでにセイ君を翻弄する、かなり飄々とした人物なのですが、彼が本当に目指しているものを知った瞬間、私の中でザ・ベスト・オブ、お兄さん、に決定しました。
 セイ君を支える付き人のツィセちゃんのかわいらしさや、ケイマスト氏が所長を務める「科学技術研究所」のメンツも一風変わった人物ばかりで、特に金髪美青年のアイクは、常にツンツンしてるセイ君でさえ落ちる……ほどの魅力を持つ人物。
 
 少年の成長譚としても、科学と魔法の融合前夜の物語としても、満足出来る、非常に完成度の高い作品でした。
 とりあえず、ケイマスト氏を兄に下さい。


発行:HPJ製作工房
判型:新書 138P 
頒布価格:200円
サイト:HPJ製作工房
レビュワー: 服部匠

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