燃えかすに空を灯して

arasuji
炎を中核として機能する都市に、炎人形のクルシエは暮らしていた。いつかは母なる炎とひとつに――それこそが人形たちの願い。しかし黒い瞳に黒い髪、燃えかすのような少年が、彼女たちの世界を塗り替える。
「ならば私たちは、みな、あのとき燃え尽きてしまえばよかった」
人と人形、崩壊へと臨む都市の物語。

※著作者様サイトからの転載です。

kansou

 息苦しさ。まず感じたのがそれでした。世界はまるで違うのに、酷く身近に感じられる、人が生きてゆくことに対する息苦しさと言うべきもの。
 自分ではない誰かの息苦しさを、ここまではっきりと感じられるという点で、この本のパワーを感じます。

 母(ママ)と呼ばれる炎から生み出される、少女のかたちをした炎人形だけが存在する地下世界。そこに生きる炎人形の一人であるクルシエの前に現れた、唯一「少年」のかたちをしたフェリト。それが、クルシエの永遠に変わらない日々に変化をもたらし、クルシエが信じて疑わなかった何もかもの「終わり」を導くことになります。
 クルシエの中に浮かんだ、今までの彼女にはありえなかった強烈な「恍惚」、フェリトが内側に抱え続けていた目的と激情、そしてクルシエが得ることになる「理解」。それらによって導かれた結末は、空虚ながらも鮮烈な印象をもって目に焼き付けられることになります。

 それでも、世界が開けた後も、息苦しさは付きまとって離れないのです。クルシエの「あり方」とフェリトが払拭できないでいる感情によって。
 足を取り、喉にまとわりついてくるような感覚が少しだけ軽くなるのが、「火花のあとさき」の結末なのかもしれません。
 何もかも、そんなに簡単に変わるわけでもなく、変えられるわけでもない。過去はそこにあり続けるけれど、ただ、前に歩んでいく。遠い先ではなくて今ここで踏み出す一歩を見据えて生きてゆく。
 そう決めたフェリトと、そんな彼に付き従うクルシエの物語は、先を想像させながらも、ここで終わるのが相応しいのかもしれません。
 これは、彼らが己や相手の「あり方」と、その付き合い方を確かめるまでの物語だったのではないだろうか。
 そんなことを思いながら、本を閉じたその後も、彼らが歩んでいくであろう未来を、ふと考えるのであります。

 最初から最後まで、静かながら確かな熱を感じる物語でした。面白かったです。

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発行:移り気つばくらめ
判型:文庫(A6)  136P
頒布価格:600円
サイト:移り気つばくらめ
レビュワー:青波零也

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