コネコビトカフェ開店の日
「よいしょ、よいしょ、にゃ」
コネコビトが何やら重そうに運んでいます。
コネコビトっていうのは、ニンゲンになりたい、昔はネコだった存在。ニンゲンの子どもとネコが合わさったような外見をしています。
不思議とどの家の玄関も無い路地のどん詰まりに、頑張って運んだ机や椅子を並べて、机にテーブルクロスを広げます。
その上にガスコンロとヤカンを用意して、マグカップを拭いて。
「にゃにゃ」
いびつな字で
コネコビトカフェ
って書いてある板きれを、レンガで支えるようにしてどん詰まりになる手前の角に置いてみます。
さあ、カフェのはじまりです。
最初のお客さんは、三毛猫でした。
おうちで可愛がられているけど、昼間は自由にそこかしこを歩き回っているのです。
「にゃあ」
コネコはにうにうを小鍋でぬるくして出しました。
三毛猫は、机の上に乗って、ぴちゃぴちゃとにうにうを飲み干しました。
「またお待ちしていますにゃ」
三毛猫はしっぽをぴんとして、カフェを後にしました。
二番目のお客さんは、なかなかきません。
そろそろ帰ろうかにゃ、眠くなってきたにゃ、とコネコが思い始めた頃にやってきたのは小鳥です。
「コンニチワコンニチワ!キッコチャンダヨ!」
黄色くて喋る鳥でした。
鳥はコーヒーを飲まないよにゃ、と考えて、コネコはマグカップになみなみとお水を入れて出しました。
小鳥はマグカップの持ち手に器用に掴まると、ちっちっちっ、とお水を飲んで、また羽ばたいて行きました。
「ゴチソウサマデシター! シュワッチ!」
「にゃあ、ありがとうございましたにゃ」
そろそろ日が暮れる頃、通りかかったのは犬でした。
小柄な柴犬で、首輪を脱いで脱走するのが趣味です。今日も首輪をしていません。
「こんにちわん」
「こんにちにゃあ、カフェですにゃ。何かのみますにゃ?」
「お水を下さいわん」
コネコは、今度はお水をボウルに入れて、古新聞をランチョンみたいにして地面に敷いて、犬の前に置きました。
「どうぞにゃ」
「ちょうど喉が渇いていたわん。良いお店ができてうれしいわん」
そう言われると、コネコも嬉しくなってしまいます。
わざわざ一回沸かしてから冷ましたお水なのにゃ、お口に合いましたかにゃ、ともごもご言っているうちに、犬はどこかに駆け出してしまいました。
家の外には楽しいことがたくさんあるのです。
いよいよ空が半分くらい暗くなってきて、下の方には星も幾つか見え始めてきました。
今日は店じまいかにゃ、とコネコが思い始めたとき。
小さな歩幅でとちとち、と杖をついて歩くおばあさんがきました。
「おばあちゃん!」
「あら、コネコちゃん、どうしたの」
「あのね、カフェなのにゃ」
おばあさんは微笑んで、コネコの用意した椅子に座りました。
カセットコンロでお湯を沸かして、マグにインスタントコーヒーを入れます。
「にうにうは多めですにゃ?」
「そうなの、知ってるのね」
「にゃにゃ」
狭い路地に今日はじめてのコーヒーの香りが漂います。
「お熱いですにゃ」
おばあさんはマグを両手で包むようにして、ふうふうして飲みます。
「コネコスペシャルカフェオレ、ですにゃ」
「おいしいわー」
「カントリーマアムもありますにゃ!」
コネコはカントリーマアムを紙皿の上にのせて、おばあさんにすすめます。
いつの間にか辺りはすっかり暗くなって、街灯の下でマグカップの湯気がほわわ、と光るように立ち上っています。
「また来るわね」
カフェオレを飲み終わると、杖を手に持って、おばあさんはよいしょ、と立ち上がろうとした時、コネコは尋ねました。
「おばあちゃん、おじいちゃんは退院したにゃ?」
「明日なの、退院」
「にゃあ!」
コネコは小躍りしました。というのも、おばあさんと一緒に住んでいるおじいさんがもう何ヶ月も入院していると聞いていたのです。
「今度は二人で来るわね。次の開店日はいつかしら?」
「明日にゃ!明日は朝からやるにゃ!明後日もやるにゃ!」
悪いわねえ、うれしいわ、二人して足が悪いのに、こんなに素敵なカフェーでデートできるなんて、夢みたいだわ。
あのひともコーヒーが好きなのよ、私と違ってブラック党なのは、若い頃に通ってたジャズ喫茶のせいなのよ。
泥水みたいなコーヒーを飲んで、珍妙な面持ちでジャズを聴くのよ。おかしいでしょ。
一歩歩くごとに小さな声でそう言って、おばあさんは路地の一番奥の家に裏木戸から入っていきます。おばあさんとおじいさんが、二人で住んでるお家。庭に生えてる大きな木は、桜の木です。
木戸が閉まるのを見届けてから、コネコは慌てて閉店準備です。
明日も明後日も、やるにゃ。
みんなも良かったら、きてにゃ。
タヌキリス舎(Twitter)直参 カフェ-03(Webカタログ)
執筆者名:相沢ナナコ一言アピール
コネコビトのサークルです!今回のテキレボではカフェをやるので、みなさんもぜひいらして下さいね。うろろんとかにゃあとかもあります。