Text-Revolutionsアンソロジー「猫」

arasuji
第3回Text-Revolutions 参加サークルさん有志によるテーマアンソロジー!
テーマは「猫」
白猫、黒猫、ミケ猫、斑猫、色々な猫の詰め合わせ!

※過去の感想はこちら
 アンソロジー「猫」-「或る黒猫裁判の速記録より」
 Text-Revolutionsアンソロジー「猫」


kansou

『「訣別の宵」抄』野間みつねさん(千美生の里)

別れを前に語らう土方と沖田。激動の時代、戦場に身をおく者として心構えはできているにせよ、欠けてゆく同志に心動かぬはずもなく。ましてや才能ある若者が死病の床にあるとは、やるせないものでしょう。それでも両者ともに、内心の弱みを見せずに相対し、言葉を交わしている。そこにある矜持が切ないです。

『ニフーを待ちながら』間川るい子さん(羊網膜傾式会社)

ニフーが可愛い。現れては消え、消えては現れる猫。その不思議さ、掴み所のなさがまさに「猫」。触れたがゆえに消えてしまう、その気紛れな気位の高さも。本屋という空間とニフーの存在が織りなす幻想、日常の揺らぎが印象に残りました。

『ネコは、怒っている。』せらひかりさん(hs*創作おうこく。)

むんずと抱きしめてぐりぐりしたい可愛さのネコ。まだ子猫だったのでしょうか、「猫であることが自慢」と猫っぽいところを見せる一方で、雷針の不在ににゃんにゃんするのがかわゆいのです。

『ピートの葬送』凪野基さん(灰青)

_(:3∠)_

『世界で一番かわいいこ』まるた曜子さん(博物館リュボーフィ)

本編を読了しているので、親戚のおばちゃん気分で幼少期のまおとなあを楽しませていただきました。そうなんですまおはこの頃からしっかり者でぽややんのなあの面倒をよく見てくれて。
地に足の着いた女の子が実際的な努力で望みを勝ち取る、まるたさんエッセンスのぎゅっと詰まったお話でした。
しかしヤコ父、そのネーミングはどうなの……(笑)

『猫の言い分』森村直也さん(HPJ製作工房)

迎えるはずのない変声期を迎えてしまったデザインチャイルド。牡の三毛猫。DNAは不変のものではなく、微細な変異を繰り返して今に至るわけで、変わること、それが生命の本質であるとすれば「永遠のボーイソプラノ」を作り上げ、科学の力で神の領域に踏み込んだIGL社よりも、生命はもっとしたたかで狡猾で不屈のものだったということでしょうか。
生命倫理とヒトのエゴ。重厚なSF、楽しませていただきました!

『なんでもない猫の日』青波零也さん(シアワセモノマニア)

この「なんでもなさ」が愛おしい、日常の一コマ。イケメン不機嫌スキンヘッドがぬいぐるみ作りつつ「にゃーん」て言う絵面を想像するだけで吹きます(笑)
生き生きしたキャラクターと「そう来たか!」とニヤニヤしてしまう掛け合いがたまりません。

『喪に猫を放つ』坂鴨禾火さん(ねこまた会)

タケシが死んだから髪は昇天ペガサスMIX盛りだと派手すぎる。ものすごいインパクトのある導入部、三回くらい読み直してショックから立ち直ってからはラストまで一気に連れて行かれました。ピアノの鍵盤の上を走ってるみたいな、半端ない疾走感と爽快感。

『桜池の鈴』Nagisaさん(Black69cross)

桜と猫と呉服屋の美しい母娘。絵になる……と思いきや何だか怪奇っぽい展開に。呉服屋に起きた一連の出来事は、小町の愛情だったのか、それとも幼くして亡くなった絹江の無念が小町を化け猫にしてしまったのか。触れない方がいい真実かもしれません。

『長靴を履いたスコの恩返し』たつみ暁さん(七月の樹懶)

スコとは何ぞや? と思っていたのですが、なるほど、それでスコ。「ネコ」には「スコ」が含まれるよなーというしょうもないことは置いといて。恩返しに来たはずなのに態度がLサイズのスコ、さすが猫(?)といったところでしょうか。ほのぼのファンタジー。

『猫の王』孤伏澤つたゐさん(ヨモツヘグイニナ)

世間や常識、日常とは切り離された王国の様子がまさに孤高を好む気高い猫であるように感じました。ヒトとは異なる、猫という種に属するいきものたちの王国において、猫ではなく、けれどヒトとも言い切れぬ「男」と「ぼく」は互いの服と人間を剥ぎあって、純粋なけものになってゆく。その背徳感と、そこはかとなく甘美な絶望のかおり。

『奥州平泉猫騒動』ひなたまりさん(時代少年)

さっぱりと気持ちのよい性格の那津。鷹揚な基衡と従者の季春。小夜との出会いを通じて、三人のバックグラウンドが示される構図は長編小説のスピンオフとしてとっつきやすかったですし、故郷を想う那津の描写などから、ひなたさんが彼らをとても大切に思っているんだなあと感じました。歴史は詳しくないのですが、本編も気になります。

『溝になく花』領家るるさん(小金目創庫)

吉原、という語句から連想する、朱と金色の絢爛なイメージが梅井にぴったりで、華やかでしなやか、甚一郎を叱るさまも格好良かったです。飲めや歌えの宴も一夜の幻、酔いから醒めた甚一郎がまっすぐにお竹ちゃんと向き合えますように。

『笑う窓』烏合某さん(シャリヴァリ)

ああ、好きな感じだー、と。とらえどころのない不安定さ、純粋さ。「揺り籠を揺らす手は瞬いて」がいっとう好き。

『僕の守りたいもの』Kyo-asuさん(goodycole)

フミとミカを案じるハルがいじらしくて可愛いです。一方で、運ばれたきり戻らないフミはもしかして結構深刻な事態なのでは……?
ハルの素直さや頑張りが報われますようにと祈らずにはいられません。

『迷い猫の告白』sunny_mさん(白玉)

前回掲載作と同じ世界観ということで、覚えのある人名がちらほらと。「アタシ」のつんとした、でも可愛げあふれるおしゃまな感じがたまりません。

『白猫魔法店』seedsさん(星明かり亭)

肝っ玉魔女猫ペルル、いいですねえ。「ずっと同じ格好をしてたから体が痛くなっちゃった」っていうフランクさ。ラヴィーナに注がれた魔力を上回る愛情を感じます。それでも、いつか魔法は終わってしまうんでしょうか。そんな微かな切なさも含みつつ、いまをエンジョイするペルルはすごくたくましくて、さすが魔女の相棒だな、と思うのでした。

『【まお】』玖田蘭さん(創作サークル綾月)

マオがマオという名前になったのも、マオが死んでしまったのも、まおさんが隣に越してきたのも、そしてコーヒーを振る舞ったら越してしまったのも、恐らくは何の因果もないことなのでしょうけれど、記憶どうしがふと結びつくことに理由なんてないんだろうなあとぼんやり思いました。
七瀬はまおさんとマオを重ねることで、マオにできなかった何かをしたかったのかな、とか。それでもまおさんは、猫のようにするりと姿を消してしまって。温もりがすり抜けていってしまったときの空虚が切なく残ります。

『その男、猫好きにつき』亀屋たむさん(たむや)

水澤君の、突き抜けた真面目さ(?)が面白かったです。その臆病さまでもが「猫が好き」という性格にすべて肯定されているというか。
端から見たら、猫に逃げられようが大したことないとか、別の猫には好かれるかもとか思うわけですけど、当事者の水澤君にしてみれば、今この時が大切なわけで。読みながらニヤニヤしてしまいました。

『黒ねこのしっぽを切った話』壬生キヨムさん(cieliste)

「黒ねこのしっぽを切ったら」という、どことなく不安を抱かせるフレーズから、ページをめくったときの「犠牲」という言葉の重み、「他人ちの子」として結ばれていて。何か大切なものが剥がれ落ちてしまって、その戸惑いや痛みに慣れることができないでいるうちに、自分とは関係のないところで世界が完結してしまう恐れと寂しさを感じました。
黒ねこを撫でたくなる、そんな言葉たち。

『相思相愛』夜海月亭ちーず。さん(ちーず書店)

ド直球の「ねこらぶ」掌編。このストレートさは全編一、二を争うと思われます。作中の「ズキューン!」にやられた読者は多いと見ました。私もその一人ですが。猫が飼いたくなる、猫に会いたくなる、そんな魅力あふれる一作です。

『冷たい雨が生温い』緑川かえでさん(黒の貝殻)

主との関係を、まともではないと冷静に理解しているのにどうにもできない、捻れて歪んだギュスターヴが魅力的。それでも、雨に濡れる猫と彼自身を重ね合わせていたように思えるのですが。

『昨日の猫は、トリの友』ヒビキケイさん(シュガーリィ珈琲)

オカメインコってオウムだったんです!? という動物に無知な人ならではの驚きもありつつ、徐々に距離を詰めてゆくおかちゃんとゴージャスが可愛いです。ともだち、という言葉の暖かみを再確認した気分です。
ところで、キリシマのネーミングセンスは神ですね。

『Kato plenigita』藤和さん(インドの仕立て屋さん)

猫のとらえどころのない雰囲気を感じる、すこしふしぎ・ほのぼの掌編。猫のぬいぐるみというと、どうしてもジブリ版「魔女の宅急便」のアレを思い出してしまうのですが、このお話のイメージとはそう違っていないのでは、と言い訳をしておきます……。

『泡盛さん・猫』つんたさん(みずひきはえいとのっと)

動物(というか猫)変身もの。メインストーリーを知らなくても気軽に楽しめるのがいいですね。猫に変わっても性格は変わらない……のかな。ドタバタコメディ。

『高殿に座して』庭鳥さん(庭鳥草紙)

短い作品ながら、描写の端々まで行き届いた気配りが醸し出すしっとりした夕暮れの空気感が素晴らしいです。鮑玉、は真珠のことでしょうか、ふくふくとした子猫の首もとに控えめに輝く様子が目に浮かぶようです。(知識不足なのでそれなりに、ではありますが)

『赤い瞳』藤ともみさん(藤つぼ)

孤独なジャックと猫のほのぼの触れ合いかと思いきや、持てる者と持たざる者、奪う者と奪われる者の隔絶が描かれ、不穏な結末を迎えています。ジャックと王子が同じ瞳の色というところや、ラストの赤い瞳など、長編の番外編なのでしょうか、語られていない背景が気になります。

『どれが元祖で本家かわからないけれど、あの日手に取ったそれは確かに偽物だった』こくまろさん(漢字中央警備システム)

パチもん、ダメ絶対。初代ゲームボーイや初期のスーファミの頃にはものっっすごい不条理ゲーとか鬼畜難易度ゲーとかゴロゴロしてましたね……(遠い目)

『『猫に関する考察』より、名前について』海崎たまさん(チャボ文庫)

前回のアンソロ掲載作を拝読して、作品のセンスや語調、作風の手触りにメロメロになってしまったのですごく楽しみにしていました。上品な翻訳文学のような艶と、そこはかとない背徳感、気まぐれなのは猫だけではなく。この悪魔的な少年の魅力……! ほんと、たまりません。

『一生、毎晩。』笠原小百合さん(文芸誌「窓辺」)

甘酸っぱさより、切なさで心がキュッと縮むよう。ニャン太への恋心が純粋すぎて、気持ちを切り替えることに慎重になりすぎている「わたし」の心の時計が動き出すのはいつなのでしょうか。終わらない冬、記憶の銀世界に心穏やかな春が訪れることを祈って。

『落とし物』藍間真珠さん(藍色のモノローグ)

天真爛漫なチャロと睦美ちゃんとの対比が鮮やかな博士。彼が単なる物知りな野良猫ではないと明かされる中盤以降の展開がややヘビーですが、チャロの明るさ、優しさに救われている気がします。

『花咲く頃には』風城国子智さん(WindingWind)

色鉛筆で丁寧に描かれた絵本のような世界観。コウサの言葉がないからこそ、より一層悲しみがひきたつように思います。花壇のチューリップが咲くのを、黒髪のコネコもきっと楽しみにしているんだろうなあ。

『黒猫奇譚』右月泰さん(創作サークル綾月)

野間みつねさんと同じく、沖田と黒猫を題材にしていますが、こちらは黒猫視点ということもあり、伝奇風の味つけです。沖田の、人(猫?)当たりの良い中にも離脱せざるを得なかった無念。……もしかしてこの猫、義経や沖田の怨念のようなもので長生きしているのでは? と薄ら寒さも覚えつつ。

『ミケを探して』小高まあなさん(人生は緑色)

幽霊のマオ、猫探しをがんばるの巻。機嫌が悪かったのに女の子に頼られて俄然やる気になったり、隆二に甘えたり、感情の起伏が激しいのがまさに猫っぽいです。誰にも存在を認めてもらえない世界で生きる(幽霊だけど)マオにとっての隆二の存在の大きさたるや。

『猫邑』星谷菖蒲さん(創作サークル綾月)

人畜無害なように思える「僕」ですが、こんな不思議体験をするということは、実は何か良からぬことを考えていて(あるいは実行していて)、でも薄茶猫を気まぐれか何かで助けたことがあって……? など、勝手に想像を膨らませてしまいました。

『完成!猫型機獣試作機』迫田啓伸さん(侍カリュウ研究所)

どうしてか招き猫型にしか思えない……。オチまでしっかり笑わせていただきました。そして、猫ビームとカニ光線が登場した某お船のゲームを思い出したりしたのでした。

『おさんぽや』猫春さん(ばるけん)

単に「おさんぽ」するだけじゃなくて、日々の気忙しさで失念していた心のひっかかりをほぐしてくれる、ほっこりするお話。田中さん、研修中だけど優秀だなあ。「おさんぽ」の後は身も心も軽くなってるに違いなく、なるほど大切なお仕事です。いいなあ、おさんぽしたいな。

『まこと』八重土竜さん(七人と透明な私)

静まった校庭、沈みゆく太陽、猫を連れ帰ろうとする少女。めちゃくちゃ不穏で、「猫と少女」の組み合わせが禍々しくも魅力的。

『狩人』鳴原あきら(Narihara Akira)さん(ボーイミーツアラブ)

能ある鷹は爪を隠すと言いますが、優秀な狩人は自然体のまま、ゆっくりゆっくり獲物に近づいて、油断せずにじっと機会を待てるのだなあと、そんな見当違いのことを考えていました。引き金をひく時、それは勝利宣言に等しく、獲物を捕らえた確信はとても美しい。百合なのがさらに素敵だし、百合百合しくないのがもっともっと素敵。シャープでスマートな大人の掌編。

『善人を食らう悪魔について。』十一さん(StrangeGhost)

世界から悪が絶えないのは、悪魔が善を食らっているから。烏と黒猫、悪魔という不吉トリオが心理的に不気味でした。「私」は魂を食われてしまった=悪人になってしまったのでしょうか。すっきりしないまま終わるラストが、いっそう不気味さを増幅しているようです。

『又八物語』奥田浩二さん(un-protocol net)

お馴染みの、アレから生まれたソレがコレして……ん? というごった煮コメディ。乙姫様、やるなあ(笑)もうホント「若いもんはええのう」ですよ。めっちゃ笑いました!

『化け猫クロ』天野はるかさん(HAPPY TUNE)

化け猫になって噛みついた相手を殺せることよりも、天界で竜に飼われることのほうがだいぶ大事のような気がするのですが、竜の兄弟のほのぼのした空気にうやむやにされてしまったような。さすが大物。人になるより、寒くなくて飢えない猫の方がいい、というのはまさに猫らしくてほっこり。

『傍らのしあわせ』桂瀬衣緒さん(SiestaWeb)

ひろちゃんがほんといいです。出オチだって桂瀬さんは仰るけど、「だがそれがいい」とレシーブしますよ! 空行による間の調節や前半と後半でのテンポの違い、そんな丁寧な作りが温かみを作っています。名作ですよ!

『飴と海鳴り』オカワダアキナさん(ザネリ)

逃げ出すように家を出てきた郡司の住まう寮にやってきた猫。猫との距離感は姉とのそれとはまったく異なっている。猫との共同生活に慣れた頃の、突然の喪失。「心臓が左にあるからなのだろうとぼんやり思った」のくだりが好きで好きで。磯のにおい、重い海風や曇った白い空の様子が手に取るように感じられるところも素敵。本編が楽しみです。

『クレイズモアの幽霊』たまきこうさん(Couleurs)

アンガスのキャラクターも、全寮制(?)の学園という舞台、すこしふしぎ系の探偵もの、全部ときめきます……。塔のてっぺんに住む「探偵」、規則も無視できるその特殊な役割は、例えばホームズのような職業探偵ではなくて、もしかするとクレイズモア校の「なにか」に選ばれて「なる」ものなのじゃないか、とか想像をたくましくしていました。

『アキとネコ』にゃんしーさん(ボーイミーツアラブ)

ふかふかとやさしい言葉に和む詩ですが、「あかるいものが 空をちゃんとささえてる」「いろんなかたちの しいのみがあるので」「よろこぶか? しあわせ て顔をするか?」「手持ちぶさたに ただからだだけ」ってざくざく刺してくる鋭さもあって。ネコはただそこに居ながら、いろんな真理を知ってるのですよね……。路地から、天使の梯子がかかる区切られた空を見上げて、お家に帰ってココアをふうふうしたい。音読しても楽しくて、娘に絵本を作ってあげたい感じ。

『御猫様祀り』鹿紙路さん(鹿紙路)

ビルのはざまの小山のような御猫様、享保の改革でしれっとご飯がエコモードになっちゃう御猫様(そして痩せる)、「かしこみかしこみもーす」の猫っぽい投げやりさ。そして顕現する片割れ様……! ちゃんと作り込まれているからこそのとぼけ具合がたまりません。

『猫だって恋をする』蒼井彩夏さん(風花の夢)

スズににべったり、ジェラシー全開のトラは可愛いと言うよりもむしろヤンデレぽいかな、と感じました。その執着心が「化ける」方にいっちゃうのかな、と。ご主人ラブの可愛い話なのだろうけど、若干ホラーのように思えてしまいました。すみません……。

『丘の上のありす』ひじりあやさん(CafeCappucci)

児童書がつなぐ、ふたりの少女の友情。人見知りで内気、と自認する月海が外に開かれていく物語とも読めて、本好きとしては嬉しいです。ちょっとしたミステリ風でもあり、こんなふうに「本」がキーワードになるシリーズものにもできるのでは? とわくわくします。

『変人伯爵のこぼれ話』青銭兵六さん(POINT-ZERO)

伯爵めっちゃ可愛いです……! 猫グッズをちゃんと用意しておきながら肝心の猫がメードによってもらい手を探されてしまうところとか。一言「猫飼いたいねん」て言えば済みそうなものを、「飼いたい」→「解体」に解釈されてご主人様ご乱心騒ぎになってしまうのかな……。
長年伯爵のおそばにいるらしいメードと以心伝心のように思えて、微妙にすれ違ってるところもニヤニヤしてしまいます。

『神様』雲鳴遊乃実さん(創作サークル綾月)

今回のアンソロ掲載作の中では、一番好きな作品でした。二人称小説は好きなのですが、書くとなるとすごく難しいので敬遠気味……。この作品、究極の二人称小説とも言えるんじゃないでしょうか。
子猫の成長、人との関わり、死の恐怖と孤独。宗教や信仰を越えたところにある根源的な欲求と、原始の記憶。言葉など意味をなさない、混沌そのものの本能、自立を描いた傑作。

『日常回帰「猫の足音」』霧木明さん(My set-A)

猫と話す愛煙家の死神、ニヒルで我が道を行く感じがカッコいいです。増税で懐が圧迫されたり、服が経費で落ちなかったり、なかなかに世知辛いところもあり。猫がすり寄ってきたのではなくて、人間が助けを求めてきたとかなら関わり合ってなかったんだろうなあ、とぼんやり思います。世界が滅んでしまっても動じず、飄々としているのも素敵。

『猫マンのライジング』進常椀富さん(創作サークル綾月)

猫マンおさむ、何じゃいなと思ってたら普通にヒーローじゃないですか!
(何故に猫+おっさんスペックなのかという疑問は残りますが)六年生男子の地味に鋭い言葉の暴力にへこたれつつも、正義感は人一倍。他にもHOPEがいるって、波乱の予感しかありません……。

『我輩はセンパイである』西乃まりもさん(a piacere)

頑張れお兄さん! 来人とナオのコンビもすごくよかったですし、ポンスケのセンパイぶりも可愛かったです。来人の一人称で語られるお話が違和感なく小学生のスケール感なので、物語にすっと入っていけました。

『猫を彫る』氷砂糖さん(cage)

謀殺された大帝の愛猫と、ライオンを彫るという依頼とともに持ち込まれた大理石。時代も国も異なる二編のそこはかとないリンクが想像をかきたてます。大理石の赤みは帝の血? 「私」が見た彫るべきライオンは帝の猫? そして「私」こそが帝の……? いくつもの示唆が「もしかして」という形で二編をつなぎます。読み手によって解釈が違いそう(そのどれもが氷砂糖さんの意図と異なっていそう)だけれど、どの読まれ方も許容されるような、そんな懐の広さも感じます。幻想的な物語、ラスト一文がはっと胸を衝きます。新生児の泣き声って猫に似てるんですよね。

『ありきたりな猫』伊織さん(兎角毒苺團)

冒頭で「ありきたりなどこにでも居るふつーの猫」と自己紹介してくださるソラさん、おしゃべりが進むにつれ「ありきたりとは?」「ふつーとは??」とツッコミ不可避ですが、ソラさんの見てきたものの大きさがいっそ愉快です。それをソラさんがちっとも気にしていないところも。手触りの良い、心地いい幻想譚。

『ねこといぬ』水成豊さん(倉廩文庫)

甘い! すごく甘い! ごちそうさまですお腹いっぱい! おいしいごはんのあとの極上デザートのような、甘みとキレがぎゅっと詰まった一編。うん、それで、何を買いに行ったのかなぁ?(笑顔で)

『Only a white cat knows』姫神 雛稀さん(春夏冬)

バディもの、そして異能バトル! 燃えますねー。設定もしっかりと作られているようで、今回はあまり語られなかった敵方、千夜鐘サイドの事情も気になります。

『猫と女人』高麗楼さん(鶏林書笈)

譲寧大君の逸話は、何とはなしにこういうオチを迎えるのではないか……と予想しながら読んでいて、そしてめでたしめでたしとなったわけですが、最後の李大統領のパートでの二段落ちには唸らされました。国政の中心人物だけが優れていればよい政治ができるかと言えばそうではなく、やはり優秀な人材、時には苦言を呈し、諫言してくれるような人物が必要なのでしょうね。

『シュヴァルツカッツェ』そば猫さん(息を吐くように死に絶える)

常識や論理を越えたところで事件は起きる。当日、会場に行けないのですがワインボトルは見てみたいなあ。

『南泉さんの猫事情』藤木一帆さん(猫文社)

ああ、ここにも猫好きなのにままならない現実に身悶えしている方が!お宝ざくざくと噂の徳川美術館の片隅に、こんな微笑ましい一幕があったなんて。刀のゲームのブームが落ち着いたら、是非一度訪れたいものです。

『Black Cat』天川なゆさん(七夕空庭園)

夜の黒猫の恩返し。情けは人のためならずというか、無意識の善行が巡り巡って我が身を助けるというか。ほっこり心温まる物語。

『流星猫と狩人』とやさん(さらてり)

冬の夜、満天の星空から降るひかりの猫。幻想的でとても美しい光景なのに、生きていくための資源として猫を狩らねばならない残酷な現実を目の当たりにした少年の逡巡と躊躇、良心の呵責が寒々しく苦しい。彼もまた、この苦みに慣れ、麻痺してしまって、平然と引き金を引けるようになるのでしょうか。

『私と僕の異世界旅行記~猫編~』黒塚朔さん(Neumond)

番外編なのでしょうか、いくつも世界があってそこを行き来(?)するうちに出会った二人の掛け合いが可愛いです。猫の居る世界、居ない世界。常識も知識も少しずつ違うけれど、誰かを想う気持ちは共通のもの。

『幻灯京奇譚』神楽坂司さん(MATH-GAME)

短い物語ながら、作り込まれた世界観とそれをスムーズに提示する運び、「私」の口調や言葉の端々から察せられる酩酊とインモラルの香りが見事。計算づくのようで、憑かれたように書いたようにも思える幻灯京の世界。ニヒルさと「私」の気ままさが良い味を出しています。

『Help me!』宇野寧湖さん(ヤミークラブ)

「零点振動」の番外編。槇先生と羽鳥さんの、きわどいバランスを保った関係がたまりません……! どこか歪で、だからこそ愛おしい。猫をめぐる騒動を経て、二人の距離が変化するのかと思いきや、虚無に突き落とされたかのようなラストシーンが絶妙。

『とある猫の半日』香月ひなたさん(月日亭)

実に猫らしい猫! ときにふてぶて……もとい気怠げに、ひなたで微睡み、人間の相手をしてやり、いそいそと集会に出かける猫。何でもない半日の描写から浮かび上がる、猫だからこその気紛れと優しさが素敵。

『空を見る使い魔、地で眠る使い魔~大魔法使いモルドラの二匹の遺産~』維夏さん(砂色オルゴール)

魔法! 使い魔! ファンタジー! 長編の導入のように、コンパクトに見せ場がまとまっています。ほのぼのファンタジー、その一方で不穏な気配。キーとなるのはわけありの白猫。壮大な物語を感じます。

『コネコビトカフェ開店の日』相沢ナナコさん(タヌキリス舎)

不思議な路地のどん詰まり。コネコビトがひとりで待っているちいさなカフェのお話。童話風のやわらかな筆致、その中できらきら光る「おいしそう」な数々の描写。こんなカフェがあったらいいなって思う人だけが訪れるのでしょう。カントリーマアムは正義!

『かぎしっぽの猫を追って』ななさん(7’s Library)

かぎしっぽの猫にまつわる断片を取り上げて矯めつ眇めつ。パズルのピースがぴったり合うかのように思えて、何か足らないようでもあって。かぎしっぽを追って不思議の路地へ入り込むようなお話。路地の先に救いや希望があることを祈りつつ。

『里帰り』轂冴凪さん(うずらや。)

前回のアンソロのラーメンを思い出してお腹が空いたなあと思いながら、友を誇らしく思う気持ちと宇宙が隔てる時間の残酷さ、それを乗り越えてゆく友情。胸熱です。外見からは同い年と思えない差ができても、内面はかつてと同じように。

『或る黒猫裁判の速記録より』濱澤更紗さん(R.B.SELECTION)

利権だ悪魔だと何を仰っているのか、と首を捻っていましたが「黒猫は便利」のあたりでああなるほど、とニヤリ。人よりも犬よりも確かに便利です……お世話になってます。

『小春日和のころ』平坂慈雨さん(みつたま)

不思議なたたずまいのコーヒースタンド「三角の店」のとある一幕。「准将のところにはメスしかいないと思った」って、辛辣ながら准将の人となりを端的に表してていいなあ、とツボったのです。会話文がスタイリッシュで素敵。小さな魔女と金眼の黒猫。魔法使い組と軍の人間であろう准将との関係など、本編がとても気になります。

『黒い猫』乃木口正さん(妄人社)

濃厚ミステリ、再び! この文字数で本格ミステリ。タイトルの「黒い猫」は作中に登場する作家の飼い猫のことでもあり、そして……ということですよね。ミステリ好きさんはぜひ。

『しあわせな猫の飼い方』斉藤ハゼさん(やまいぬワークス)

すごく切ない……。猫として厳しい環境で暮らすのか、それとも飼い猫として人為的に種としての「猫」のいくつかを放棄して餌を与えられ、家という檻の中で飼われるのか。どちらがしあわせか、それを判断して決断するのは当の猫ではなく人間で。ヨウとせり子の暮らしも何だか危うげではあるけれど、しあわせって何、とシンプルな問いにはっとします。

『チーのはなし』セリザワマユミさん(トラブルメーカー)

「~な猫だった」の繰り返しがぐいぐいと胸に迫る、チーとの思い出。これがアンソロのラストを飾ること、そして斉藤ハゼさんの作品と並んでいるのは偶然ではないと信じています。猫を愛でたくなる、めっちゃいい話。

以上です。
色も形も手触りもさまざまな「猫」、堪能しました。猫飼ったことないのが人生における損失のような気がしてきました……。
自分で書くのは犬の話が多いですが、犬も飼ったことありません。
なので、たぶんきっと偏見まみれだろうなと思うのですが、作者さんに届きますように。

ちなみに私、猫を飼ったことがないので、猫の生態や性質に触れている部分があればそれは「一般的に言われていること」か「個人的なイメージ」のどちらかで、後者多めかもしれません。つまり「効果の感じ方には個人差があります」。

また、感想テンプレートを配布してくださった森村直也さんに、この場を借りてお礼申し上げます。
いつも有難うございます。

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発行:Text-Revolution準備会
判型:A5 366P
頒布価格:1000円
サイトText-Revolution準備会
レビュワー:凪野基