鳥類戦隊バードマン~平和な日曜は決め台詞の日

「ははは!」
 黒い雑魚そうな闘員を従えた、トカゲのような姿をした化け物が高笑いする。
「この東京マヨネーズ作戦で地球は我らアーキオプタリスクのものだ!」
「待てー!!」
「なんだ!!」
 化け物が見た方向には、五人の人影。男三人、女二人の姿。
「お前達の思いどおりになんてさせないぞ!」
 真ん中の男が叫ぶと、
「来たな、バードマン! このダークスネーク様が相手をしてやる! ここがお前らの墓場だ!」
 化け物も応じた。
「みんな、行くぞ!」
 真ん中の男の声に合わせて、全員が卵型の何かを取り出す。赤、黒、白、黄、青の色をそれぞれしている。
「孵化!」
 叫ぶと同時に、卵を真ん中から割る。中から光が溢れ、五人に降りかかる。それと同時に、五人の姿が卵の色と同じスーツに全身包まれる。
 顔だけは出ている状態で、もう一度、
「換羽!」
 叫ぶ。
 今度は顔も同じ色のメットに包まれ、腕のあたりから羽が生えた。
「バードマンがバードスーツを身につけるタイムは、僅か0.05秒に過ぎない。が、字面で説明しても仕方がないのでもう一度は見てみないぞ!」
 どこかから、ナレーションの声がする。
 鳥類戦隊バードマン。レッドピーコック、ブラックホーク、ホワイトクレイン、イエローアルバトロス、ブルーオーストリッチはそれぞれ、戦闘員たちとダークスネークに立ち向かっていく。必殺技を使ったり、ダークスネークが巨大化したり、巨大ロボを呼んだり、なんやかんやあって、
「アーキオプタリスク、ばんざーい!!」
 そんなダークスネークの断末魔の声とともに、バードマンたちは勝利を収めた。

 喫茶店「フェニックス」。薄暗くて、小汚くて、多くの人が「つぶれた?」とスルーするその店こそが、バードマンの秘密基地である。
 日曜のお昼ごろ。バードマンたち五人がそれぞれなんとなく秘密基地に集合したところで、
「俺さぁ、ずっと思ってたことがあって」
 レッドピーコックこと九条カイトがつぶやいた。
「何?」
「決め台詞的なの、俺たちに必要じゃないかって」 
 深刻な顔で言う彼に、
「決め台詞?」
 怪訝な顔で首を傾げたのが、ブルーオーストリッチこと石走アコ。
「ないじゃん? 俺たちには、なんかこう、かっこいい決め台詞が」
「だいたいわかった。『宇宙キター!』とか『その命、神に返しなさい!』とかだな?」
 見事にポーズつきで再現したのがイエローアルバトロスこと信天ガイ。
「え、ああ、まあそうなんだけど、何そのチョイス」
「魔法ライダーを探せ!」
「……いや、ネット版ネタはやめようぜ?」
「それじゃあ、鳥の力、お借りします! だな」
「……いろいろ言いたいことあるんだけど、戦隊でもってこいよ。俺たちは戦隊、だろ?」
「なんだ、イージーだな。それならあれだ。この星を……なめ」
「皆まで言うなー!! それはアウトだー!!! 二〇一六年中に鳥の戦隊がやるのはアウトだー!!」
 言いかけたガイをカイトが慌てて遮る。
「それもそうか。そう考えるとよかったな、レッドがイーグルじゃなくて。さすがに、な」
 ぽんぽんとカイトの肩を叩いて、ガイが爽やかな笑顔を浮かべる。
「ほっんと、ガイはヒーローオタクよねぇー」
 ミニスカートで足を組みながら、呆れたようにアコが言う。
「ああそうだ、レッドファルコンもレッドホークもアウトだったな」
「ホークはいるけど、ブラックだもんね」
「ああ、まあそうだけどさぁ」
 なんか妙な話をふっちゃったかな、とわずかに後悔しながら、カイトは話題に出たブラックホークこと高井アキヒロを見る。彼は一人、店の奥で本を片手にコーヒーを飲んでいた。
「あ、あのさ、アキは? なんかいいのない?」
 カイトの言葉に、アキヒロはゆっくりそっちを見ると、
「俺に質問するな」
 一言で切り捨てた。
「あ、ああうん、ごめん……」
 イケイケドンドン目立ちたがり屋のカイトは、いまひとつこの無口な二番手が苦手だった。
 そんな二人のやりとりなど気にせず、ガイとアコは話を勝手に進めている。
「わかった、これだ!」
 なにがわかったのか、自信満々に、
「俺はイエローアルバトロス! この世界の鳥全種と友達になる男だ!」
「それはダメでしょ。だって、ガイ一人分じゃない」
「そうか、俺たちは戦隊だもんな」
「そうそう、戦隊だもの」
「……君たち、戦隊ばかりにしてない?」
「してないわよー」
「じゃあ、これは?」
 逆立ちしながら考えていたガイが、普通に立つと、
「戦う愛鳥週間! ば~~~~~どまん!」
 妙にポーズをつけて、妙に「ど」にアクセントを置いて言う。どや顔で振り返るが、カイトがなんだか納得してなさそうなのを見ると、
「じゃあ、これだ! 鳥類愛護法違反により逮捕する!」
「ジャッジメントタイム!」
 横からアコがのりのりで口を挟む。
「いや、混ざってるし」
「おい。これだけは言っておく」
 と、そこに店の奥からアキヒロが声をかけてきた。
「敬意のない流用は、ただのパクリだ」
 本を見たまま続ける。
「過去ヒーローをリスペクトするのは、人間のルールではないのか?」
 沈黙。
「え。いや……」
「さすがっす!!」
 疑問の言葉を投げかけようとしたカイトをガイが遮る。
「その通りっすね、アキさん!! 大事なのは正義に燃える熱い魂の叫びですよね!! うぉー、燃えてきたぁー!!」
 なんだか知らないが、ガイはアキヒロに懐いていた。
「あー」
 余計な話をふったな、とカイトは完全に後悔していた。
「ってことはあれっすね! 今日のサブタイトルはさしずめ」
「サブタイトルってなんだよ、そういうメタいのはやめろよ」
 カイトのつっこみは無視して、ガイとアコが声をハモらせ、
「さぁ、お前のパクリを数えろ!」
「ハモらせるな!」
「荒れるぜ~、止めてみな!」
「何が荒れるのさ?」
「作者のツイッターが」
「荒れるほどの影響力は作者にはないから安心していいんじゃない?」
「それは逆にヤバイバ~」
「いや、だからそういうメタいのはさぁ……」
「いやぁ、世知辛いねぇ、染みるねぇ~」
「決めセリフ考えたら次はあれ、考えようね」
「あれ?」
「エンディングのダンスと」
「エンディングとかないからねっ!?」
「ミニゲーム」
「ミニゲームはあれだろ。レッツ、鳥類かくれんぼ! 四つのエッグの中のどれかに鳥類が隠れているぞ! 何色に入ってるかリモコンのdボタンで予想! ポイントを貯めて景品をゲット!」
「dボタンとかねーよ!」
「テキストコンテンツだもんねー」
「そこじゃないよ! メタ発言はやめろよっ!!」

 三人がわいわいやっているのを聞きながら、アキヒロは一つため息をついた。
「どうしました?」
「鶴姫」
 キッチンからでてきた、ホワイトクレインこと鶴丸ヒメが尋ねる。
「ダメですよ、眉間にシワをよせて……キープスマイリングですよ」
「そうは言ってもなぁ」
 本を閉じると、「五人揃って、バードマン!」「お、初心にかえった感じ?」「でもどうせすぐ六人目、七人目がでてくるでしょう? 夏映画前に」「だからメタいのやめろよ!」「そうだぞ、俺たちに夏映画なんてない!」「そうねー、ちゃんとした本編があるかも怪しいもの」「メタ発言禁止ー!」などとやっている三人に視線を移す。
「あいつらを見ていると、バードマンになったことを後悔したくなる」
「あらあら」
「平和を守りたいという気持ちは確かだが……、だからと言って家族や友人たちに何も告げずにここにきた意味が本当にあるのか、この戦隊でそれができるのかが不安になる」
 ヒメは困ったように笑うと、
「アキさんは真面目ですね。わたしは……楽しく平和が守れれば、それが一番いいと思いますけど」
「だめだ。こんな腑抜けた戦隊じゃ……俺にあこがれてくれている近所の少年レンの夢を壊してしまう」
「そうかしら? どちらにしても、正体を隠すように言われてはいますけど、連絡ぐらいすればいいじゃないですか」
「いや……今の俺には、あいつに連絡する資格がない」
 ずーんっと落ち込んだアキヒロを見て、
「あらあら、アキさんは面倒くさいですね」
 笑顔でさらりとヒメは言う。と、そのタイミングでキッチンからタイマーの音がした。
「あら、ご飯できましたよー」
 ヒメの言葉に、わいわい盛り上がっていた三人がそれぞれ返事をするとキッチンに向かう。
「ほら、アキさんも」
「ああ」
 ちなみに、調理当番は日替わりだ。
 それぞれ自分の分のお皿を持つと、なんとなく決まった定位置につく。
「さぁ、ランチタイムだ!」
「いただきまーす」
「あっついなこれ」
「鍋焼きうどんだからねー」
「しかしあれだなアーキオプタリスクのやつら、いつ動きだすかわかんねーから気を抜けなくて大変だよな」
「でもま、それが平和を守るヒーローの使命ってやつっすよ」
 そんな会話をしながらお昼ご飯を食べる。
 存外福利厚生のしっかりしている、アーキオプタリスクでは土日祝日は休みであり、また出動時間は午前九時から午後五時までと決められている。労働法的にもかなり平和なその組織体系について、バードマンが知るのは、もっとあとになってからである。


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サークル名:人生は緑色(URL
執筆者名:小高まあな

一言アピール
小説(たまに絵)書きでハンクラもしたりして、一人ヴィレヴァンなサークルを目指してます。鳥と妖怪と特撮ヒーローが大好きな鳥散歩主催です!この話は、パクリではなくリスペクトとオマージュです。鳥小説アンソロジーには鳥使いを目指す少年「レン」の話が載っているので、そちらもよろしくお願いします!

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鳥類戦隊バードマン~平和な日曜は決め台詞の日” に対して2件のコメントがあります。

  1. マスケッター より:

    ぶわっはっはっは! 何が『孵化!』ですか! 勝手に戦闘シーンを飛ばさないで下さい! 最近拝読した中では一番楽しめました。

  2. 浮草堂美奈 より:

    笑いました(爆)
    発言がメタくて生々しい(爆)

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