人形小説アンソロジー「ヒトガタリ」(2)

arasuji

人形。ヒトガタ。
その儚さと輝き。

バンドマンと紳士人形、
原生人間とクローン人間、
着付教室の生徒とマネキン人形、
女神像と巫女。

ヒトの形をしたものと、それを取り巻く人々が織り成す四つの物語。

☆☆収録作品紹介☆☆

杉背 よい 『シンギング・オブ・粉骨』

ある日神様は無名のミュージシャン、ハスミが懸命に歌う姿に見入る。
神様は気まぐれに人形を男の元へ使わせることにした。その名も藤井。
姿はおっさん。藤井はハスミに囁いた。
「この藤井と、契約してみませんか──」

*****

柳田 のり子 『別世界』

市民のほとんどが人工子宮から生まれる未来都市で、自分の体を使って
妊娠・出産することに興味を抱いたクレマチスは、未加工の遺伝子を持つ
「原生人間」の男を探し始める……

*****

匹津 なのり 『繭子さんも私も』

着付け教室で和装マネキンの性格を妄想している「ぼっち」の主人公、麦子。
静かに傷付き続ける彼女のもとに、ビスクドールの瞳を持った不思議な女性が現れる……

*****

西乃 まりも 『弔う火』

五十年に1度、作り変えられる女神像。その節目の巫女と
なるために育てられたマナは、女神を祀る神殿へと居を移した。
そこで彫像の製作者・玉蓉と出会うのだが……

(第四回Text-Revolutions Webカタログより転載)

※過去の感想はこちら
 人形小説アンソロジー「ヒトガタリ」


kansou
人の形をした人でない物、それらと関わりを持った「人」の織りなす四編の物語

本当に実力のある書き手さんたちが「人形」を通して生きることの儚さ、力強さをありありと様々な角度から照らし出すアンソロジーです。一編一編の物語の読み応えにおおう! と天を仰ぎたい気持ちに。以下、各編の感想など。

杉背よいさん「シンギングオブ骨粉」
命を削り何かを残そうとする人間を見下ろす神様と神の使いである紳士の人形藤井さんと、ビジュアル系バンドのヴォーカリストの物語。この設定からして惹かれなくないわけがない。

藤井さんと神様、ハスミの織りなす関係性にハッとさせられました。身を粉にしてまで輝こうとする人間は滑稽に見えるのかもしれないけれど、だからこそ美しい。浮き彫りにされていく感情の行き来する様に心揺らされました。ある意味BLだな!と思ったとかそんな。(おいこら

柳田のり子さん「別世界」
「純正人間」が消滅しかけた別世界でのSF。クレマチスの科学者としての知的好奇心の無邪気な残酷さと「人間」である群青な対比。「人」の心とはなんなのだろう、それらを持つが故に「実験体」として見られる純正人間とは……と、深く問いかけてくるようなインパクト。

掌編ながら、作り変えられた「壁」の中の別世界の描かれ方、彼らを通して描かれる「人間」、「魂」のあり方に胸を打たれる一編。クレマチスと群青のわかりあえなさが悲しくも色鮮やかです。

匹津なのりさん「繭子さんも私も 」
婚約者に裏切られ、着付け教室でもどこか浮いている私がお人形のように可愛らしく浮世離れした「繭子さん」との交流を経て失ったものを取り戻していくお話(と、受け止めました)
麦子さんの心の叫びがなんとも痛ましく、それでいて飄々と軽やかで時にコミカルに描かれる文体には悲壮感がないのが不思議。無邪気で愛くるしく、いつしか寂しさを埋めてくれる「繭子さん」はまさしくみなのお人形さんとしての存在だったのかなと。
桜子さんとの不思議な交流、一歩を踏み出したことから着付け教室の人たちと打ち解けて新たな生活を手にした麦子さんが得たのは「愛」だったのではないかな、と。柔らかに振り返る戻れない優しい日々が淡く儚く、じんわりと胸に響きました。

桜子にあやのにシオンにたまき…なるほど! うどん食べて寝ちゃお、はkawaiiジェニー? と、ドール好きのわたしはなのりさんのお茶目な仕掛けに読みながらニヤ二ヤしてしまいました。えへへ。うちにはお城からやってきたあやのちゃんがいます。余談でした~。

※作中に登場するキャラクター名の桜子・アヤノ・紫苑・環はジェニーフレンドの名前
※Kawaiiジェニーは2007年に放送されたジェニー&オリジナルドールが主演する特撮アクション番組。「うどん食べてねちゃお♪」はファンの間でも話題になった一話でのジェニーの決め台詞。
※お城=国内でのリカちゃん・ジェニーの製造元である「リカちゃんキャッスル」のこと

西乃まりもさん「弔う火」
女神の魂の容れ物となる像と、彼女に仕える巫女、新たな女神像を生み出す役目を課せられた刻師の物語。あかん、何を話してもネタバレになってしまう!笑 閉鎖され、支配された世界での残酷さ。美しいものに夢を馳せること、生きること。
張り巡らされたいくつもの「世界」を織りなす心模様と、タイトルがずしんと迫るラスト。通して「人の形をした人でない美しいもの」に願いを投影する人間の愚かさ、残酷さ、そこにある魂の輝きにずしんと胸の真ん中を射られるようなインパクトでした。

四体の「ヒトガタ」を通して「人」の生き死に、魂のありようを問いかけてくるよう。決して愛らしいだけではない「容れ物」として役割を託された人形たちと、人間の織りなす重厚なドラマに魅せられました。
人形・ヒトガタに興味のある人、味わい深い人間ドラマを読みたい人におススメの一冊です。

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発行:ヒトガタリ巫女子会
判型:A5 116P
頒布価格:400円
サイト柳屋文芸堂
レビュワー:高梨來

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