XXXの仮想化輪廻

arasuji

記憶喪失の青年ユークリッドは、見知らぬ部屋で目を覚ます。
姿の見えない観測者ダリアは、彼との出会いを信じて語り掛ける。
青年の記憶を取り戻すべく、聳える記憶の塔に挑む二人は、果たしてハッピーエンドを迎えることができるのか。

「僕は、都合のいい奇跡なんて望まない」
「私は、決して諦めない。彼と生きる未来を手に入れるまでは」

遠い日の記憶と記録を巡る、RPG風味SFファンタジー長編完全版。
本編二冊とおまけ設定資料集を一冊同梱した三点セット。
(Side: Euclid=288P、Side: Dahlia=276Pです)

イラストは夏浦詩歌さんにお願いしております。

(第5回Text-Revolutions Webカタログより転載)


 

kansou

300p近くの文庫2冊+オマケのA5フルカラー設定資料集で2,500円という、物語の長さも物理的な厚みも重さも価格も鈍器な当作品ですが、この価格設定が高いと思わないのは自分でも文庫を作ってるからでしょうか。しかもカバー箔押ししてあるんだぜこれ! むしろ良心的だよ!

さて、こちらの作品は『Side:Euclid』と『Side:Dahlia』に分かれています。1巻2巻とか、前後編とかの表記はありません。まぁWeb上の紹介ではタイトルが「ユークリッド→ダリア」の順ですし、ユークリッドが主人公ということは明記されています。
なので私は躊躇いなく『Side:Euclid』から読み始めましたが、これ「女の子の話が好きだ」とか「黒より白が好きだ」とか「鞄に間違えて入れた」とかいう理由で『Side:Dahlia』の方から読んじゃったらうわぁぁってなりますね。ハナからネタバレ――というか『Side:Euclid』を読んだ前提で話が進んでいくので、そのまま『Side:Dahlia』を読み進めるのは無理があります。
作者様の意図する通り、主人公ユークリッド視点の話→その裏側ダリアの話、と読んだ方が断然楽しめます(当たり前ですが)。というか物語の時系列もそうなっています。

いやぁ、それにしてもユークリッド素直かわいい。
なくした記憶を取り戻していく話ですから、初っ端はまっさらな状態なわけです。いわば疑うことを知らない赤子状態。不安そうな姿も庇護欲かきたてられます。これはダリアちゃんじゃなくても守ってあげたくなる。でも健気な頑張り屋さん。
ガーデニア、シスルとの再会を経て、最終的に思い出した結果はもうアレなんですけど、意志の強さは今の彼もかつての彼も変わらないなぁと。
そしてダリアちゃん。口調はイケメンだけど恋する乙女。そんな言い回ししかできないことを本人も悔しがっていて、それがまたかわいい。いいんだよ! 言葉は心を伝える手段でしかないんだよ!
もう『Side:Euclid』の割と序盤からジェラシー小出しにしてきてて、とにかくかわいい。
まっすぐに、ひたむきに、ユークリッドの心に寄り添いながら彼を導く姿に心打たれます。
そんなかわいい二人が手と手を(精神的な意味で)取り合ってつくりものの世界を駆け抜けるんですから、感情移入しないわけがない!!

『Side:Dahlia』の中盤くらいから「あれ、今回の試行は何か違うな」って空気が蔓延してきて、そこから一気に終盤まで怒涛の勢いで読み進めました。
ダリアちゃんの魂の叫びがね、もうホント、鳥肌立ちました。それに応えるユークリッドもね! お前ら最高か!

前向きで美しいハッピーエンドなので、読後感ほっこり。
本来の『彼』の身体が眠りについてからどれくらいの時間が経ったのかは分かりませんが、ダリアちゃんが「悪くない世界だ」と言うならきっとそうなんでしょうし、あれだけの修羅場(?)を乗り越えてきた二人が一緒ならもう怖いものなんてないでしょう。
幸せそうに笑い合う二人の姿が容易に想像できます。二人の未来に祝福あれ!

それにしても、青波さんの文章とても読みやすかったですね。
これだけ長いのに、一度も「分からなくて読み直す」ってことが起きなかった。唯一戻ったのも、伏線回収で「記憶」を「記録」と言ってたことをダリアちゃんが思い出したときくらい。
私もこんな風に魅せる文章を書けるようになってみたいものです、としみじみ。

あとがきで闇鍋と仰ってましたが、闇鍋上等じゃないですか! これだけ作者様の『好き!』を詰め込まれたものをいただけるのならいくらでもごちそうになるってものです。
カバー下のフルカラーイラストも最高でした。ダリアちゃんかわいい。
設定資料集といい、これだけこだわって物を作れたらホント楽しいだろうなぁ!

data

発行:シアワセモノマニア
判型:文庫版(A6) 564P
頒布価格:2,500円
サイトシアワセモノマニア
レビュワー:卯月慧