土曜日の嘘

「さよなら」

僕は君に初めて嘘をついた。最初で最後の嘘だ。
君を一番傷つける―分かってもなお僕は嘘をついた。
大好きな君。
君は少し笑って頷いた。
その笑顔が僕には深く胸に突き刺さる。
胸の奥がチリチリと焼きつく感じを覚えた。
それはよく晴れた土曜日だった。

金曜日。僕たちは2人で最後の夕飯を食べた。
何時も通りのよくある日常だった。
「いつも通り」じゃないのは僕が明日告げる一言を前提に過ごしているからだ。
僕だけが「いつも通り」じゃない。
「―でさ、って聞いてる?」
君はそんな僕に気付いたのか、不思議そうにこちらを見ている。
「あぁ、うん、それで?」
話を続けようとしたが、
「もう、いいよ」
そっぽを向かれてしまった。
なんだか心にしこりを残したようだったが、仕方ないと思った。

君はテレビを見て笑ってる。
その笑顔がもう見られなくなると思うと胸がギュッとした。
だけど時は来た。これは君のためでもある。

これから君は僕と別れていい男に出会うだろう。
僕のことなんか忘れて、楽しい日々を過ごすんだ。
それで結婚して子供が産まれて幸せな家庭になるんだ。

大好きな君の未来を願う。
このまま僕といてはいけない。
なぜなら僕は嘘つきだから。

涙を流したのは火曜日だった。
2人付き合いだしてから飼っていた犬が亡くなったのだ。
交通事故だった。
マロンという名前で栗毛色の秋田犬だった。

君と僕がケンカをした時は一緒に悲しみ、
楽しいときは笑い、2人の思い出の一部だった。
君の部屋にはマロンの写真がたくさん飾られている。
人や動物は何故産まれてくるんだろう。
始まりを数えたらキレイな言葉しか浮かんでこない。
これがマロンの残していったものなのか。
変わりに落ちていく目から溢れる雫。

これが本当の「サヨナラ」だ。

そして僕は君に
ウソの「さよなら」を告げる。

君のことはずっと忘れない。
涙を堪えるから口の端は落ちてくるし、視界はぼやける。

海風と暖かい日差しが君をいつも以上にキレイに見せた。
この嘘を噛み締めるだけ。


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サークル名:ever.b.green(URL
執筆者名:mあんずk

一言アピール
テキレボ初参加になります。よろしくお願いします。

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