野の涯ての王国~魔女と幻術王~

arasuji

「では、わたしは、子を産まなくともよいのですね」――野涯国(のはてこく)の王妹ホルダは、13歳のある日、兄から縁談を知らされる。相手は国内屈指の諸侯、インゼル侯。しかし彼には「不名誉な噂」があって――
 その結婚は、彼女にとって、人生の始まりに過ぎなかった。

(第5回Text-Revolutions Webカタログより転載)


kansou

 とってもとっても、とーってもいい話でした!
 前作『女王の結婚』から読もうとされる方が多いかと思いますが、個人的には断然こちらを先にオススメしたい。
 というのは、前作も思い入れと情熱に満ちた良作でしたが、本作のほうが文体も構成もいっそう洗練されており、物語としての完成度が高いと感じられるためです。『魔女と幻術王』でこの世界観に心を掴まれてからのほうが『女王の結婚』がいっそう楽しめる気がします。
 もちろん前作未読でも全く問題ないです。もし「『女王の結婚』を購入したけど読み終わっていない」という方がいらしたら、ぜひこちらから先に読んでいただきたいです!

 さて、肝心のストーリーについて。政略結婚で年上の諸侯マンフレートに嫁いだ少女ホルダが、穏やかな夫と妙齢の女詩人リシルデに同時に魅かれていく。穏やかな序盤は優しい愛の物語を予感させますが、とんでもない! 先に待つのは生死を賭けた、凄まじいまでの愛憎。めくるめく激動の展開で目を離せません。
 特に美しくたくましい北欧美女リシルデが素晴らしくて! 彼女のホルダに対する、あくまで穏やかでありながらも凄絶な愛。魔法と魂を巡る駆け引き。ファンタジーでしか描き得ないこの愛憎の壮大さは、読んでその目で見てくださいとしか言えません。見て!!!!

 風景描写もまた素晴らしく舞台を盛り上げていていいんです……。
 実に四カ所くらい泣くところがありました。
 私のお気に入りは、愛と憎しみの果てにぼろぼろに傷ついたホルダが、また新しい愛に出会う場面。三人目への新しい愛が生まれる時、過去の二人が彼女の名を呼ぶ声を思い出すところ……。過ぎ去った愛を忘れてしまうのでなく、それこそが彼女を形成しているという、一人の人間の連続性に胸を衝かれるんです。

 そしてこれだけ情念がぐちゃぐちゃになった後で、最後に心を吹き抜ける爽快感が素晴らしい。読後感がとてもいいです。兄や大魔女、どんな時も変わらずホルダを見守ってくれる人たちの存在がこの物語を包んでいて、そこに救いがあります。
 安心して最後まで読み切っていただきたいです。

 ちなみに。この作品、物語も面白いのですが、その上結構えっちです。 健康的な美少女×北欧美女(美少女が鬼畜攻!)。紳士を交えて3Pもあります。美青年二人もあります。優しい愛の物語と見せかけて、まったく油断できません。

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発行:鹿紙路
判型:A5 111P
頒布価格:800円
サイト:鹿紙堂奇想譚
レビュワー:並木 陽

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