凱歌(2)

arasuji

――たった一度きりの約束、それは希望という名のなにか。

栄えある騎士の国、イルナシオン。
貧しい平民の家に生まれたデュケイは、剣の才能だけを頼りに騎士位を得ようと努力を積み重ねていた。
友人のシャルロッテの紹介で高名な騎士アーソのもとへ弟子入りしたデュケイは、アーソの姪のルネと出会う。剣が生きるための手段でしかないデュケイは、強さを求めて騎士を志すルネとの考えの差異に戸惑うが、その凛とした姿勢に次第に惹かれていく。

シャルロッテやルネらとともに誇り高い騎士たらんとするデュケイの前に立ち塞がる、騎士制度の腐敗、旧態依然とした身分制度、政治の混乱。
ままならぬ現実に翻弄されつつも自らの騎士道を貫こうとデュケイたちはもがくが、その非力さを嘲笑うかのように、内乱の気配が兆していた。

騎士である意味、力を持つ意味、剣を使う目的と手段――斜陽の国に生きる、騎士たちの物語。

(第5回Text-Revolutions Webカタログより転載)

※過去の感想はこちら
 凱歌


kansou

「死んではならぬ、生をつなげ」

『凱歌』を読んで、何か書かねばという気持ちに急き立てられ、これを書いています。
そのくせ何から書き始めるのがいいのか、あまりにもいろんなことを考えすぎて、途方に暮れてもいるのです。

とりあえず、まだ『凱歌』を知らない「あなた」へ向けて、この作品の紹介をしてみます。
『凱歌』の主人公は、騎士の国イルナシオンに生まれたデュケイという青年です。冒頭ではまだ少年というべきですね。
騎士だった亡き父に憧れ、彼も騎士を目指しています。身分は低いのですが、騎士を養成する学校で国王の姪であるシャルロッテと友人になります。
彼女の計らいで、憧れの金剛騎士アーソ、そしてその姪ルネと出会うところから物語は始まります。

デュケイは本当に良いやつです。真面目で努力家で、清廉な好青年です。
騎士位を金で購う貴族も多い中、平民のデュケイはコネを利用して騎士になることを潔しとしません。彼は単に騎士位が欲しいのではなく、父やアーソのような誇り高い本物の騎士になりたいのです。
かといってデュケイも決して聖人君子ではなく、内面には様々な葛藤を抱える等身大の人間として丹念に描かれるので、あなたはデュケイにどっぷり感情移入し、『凱歌』の世界にいざなわれることでしょう。
作中の言葉を借りれば、あなたはいつの間にかデュケイや、彼の目を通してルネやシャルロッテと「つながっている」のです。

しかし、第一部で起こるある大事件に端を発し、イルナシオンの国運は坂道を転がるようにして落ちていきます。
国が傾いていく過程がとてもリアルで、私たちが生きる世界の歴史を振り返っても似たようなことがたくさん起こっていて、また現在にも起ころうとしています。
当然、そのさなかにあるデュケイたちも壮絶な体験をすることになります。
きっとあなたも一緒につらい思いをするでしょう。過酷な運命に呆然とし、涙を流すかもしれません。
それでもなお、私があなたに『凱歌』を読んでほしいと願うのは、過酷さの先にあるものを見てほしいからです。

冒頭の引用は、第二部の最後にある人物が言った言葉です。
「生をつなぐ」とはどういうことでしょうか。言葉通りに受け取れば、単純に生き永らえることのようにも思えます。
しかし最後まで読み終わったときには、あなたはこの言葉からもっと大きな意味を受け取っているに違いありません。
そしてもう一度物語の冒頭に戻って確かめたくなるはずです。彼らの生が、ずっとつながっていたことを。
そのとき『凱歌』はあなたの生ともつながって、力強い感動を与えてくれるはずです。

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発行:灰青
判型:156P/A5
頒布価格:800円
サイト:灰青
レビュワー:泡野瑤子