人外オチモノアンソロジー「もしそば」


「人外」の「オチモノ」をテーマとしたアンソロジー。
もしあなたの傍に○○が来たら? ありふれた日常が変わるちょっと不思議な短編集。

sanka

・「清く正しく爺さまと」 楠 瑞稀
するすると飲み込んでしまうような文体、そして出だしから勢いがあるトップバッター作品、コメディです。
落ちてくる人外は「貧乏神」です。
主人公のツッコミが素敵。会話のテンポが心地よくて、読んでいるとついにやにやしてしまいます。
それにしても身分証ってみんな持っているのでしょうか? 貧乏神は写真写りも悪そうですねえ。

・「夢は天蓋の」 中井かづき
ジャンルとしてはラブコメでしょうか。落ちてくる人外は「宇宙人」です。
レーダーにアブダクション等のやりとりが面白いですね。
関西弁によるノリもコミカルな会話にリズム感を与えている印象です。

・「明智くんと某さん。」 つづら織つくも
コメディが続きます。男子小学生が主人公のほのぼのコメディです。
落ちてくる人外は「喋る刀」の某さん。
読んでいると、「常識人は苦労する」という一言が浮かんできます。
「ちょべりばー」とか言っちゃう某さんが素敵です。売り込みしちゃう某さんはもっと素敵です。適応能力って大事なんです。

・「狐の嫁入り」 天野 みなと
ここで恋愛物が登場します。落ちてくる人外は「狐」です。
葛葉さんはなんて羨ましいんでしょう。
どこかに私のお守狐さんはいらっしゃらないかしら、とつい考えてしまいます。

・「太陽戦隊 サンシャインマン」 瑞沢カイリ
またまたコメディ。落ちてくる人外は「サンシャインマン」です。その正体については作品を読んでいただいて……ということにします。
とにかくサンシャインマンが可愛いです。ハァハァしているところ想像して和みました。
気軽な願掛けはするな、ということがわかるお話でしょうか。

・「見上げる春に君の笑顔を」 恵陽
ほのぼのとした可愛らしいお話です。親子の前に落ちてきた「人獣」との一日異文化交流譚。
もふもふ、いいですね。もふもふ。もふもふ。これ以上の言葉は必要ないでしょう。
私ももふもふしたいです。どこからか落ちてきてくれないでしょうか?

・「王サマの寄り道」 南風野さきは
再びコメディです。落ちてくる人外の正体については作品を読んでいただくことにして。
一人だけ「あれなもの」が見えてしまうせいで注がれる視線。
「大丈夫?」という問いかけに含まれるものの変化が辛いですね。頑張れお兄ちゃん。

・「鴉天狗の養い子」 篠崎琴子
しっとりとした文章で綴られる、空気感のあるお話です。落ちてくる人外は「守り神様」と言っておきましょう。
秘密を共有した主人公たちの今後について思いを馳せたくなります。「守り神様」にも変化が訪れるのでしょうか。

・「仕組まれたキセキ」 御剣ひかる
コメディタッチな恋愛物です。落ちてくる人外は「ネックレス」と言うだけにとどめておきましょう。
恋愛が主軸ではありますが、個人的には大阪のオバチャンのノリに注目です。テンポのよいやりとりが楽しいです。

・「時計と部屋と机と花」 陽雪
今度はシリアスなお話です。落ちてくる人外は「飛ばされた男」です。
とても静かな物語。二人の間にじんわりと漂う空気感がいいですね。

・「魔女と豆を食べる王様の話」 立田
独特の空気にじわじわと引き込まれていく作品です。落ちてくる人外は「魔女」です。
恋愛物という一言ですましてよいのでしょうか。語られる物語から、再び動き出す時。解放されるどころか、ますます絡まってしまった糸。
お互いがお互いの傍にいる理由を作っていた、というところにきゅんときます。

・「金属な人と七日間」 松果
心がほっとする、ほのぼのコメディです。落ちてくる人外は「ちっさいおっさん」。
「ちっさいおっさん」が可愛いです。その様子を想像すると頬が緩みます。口調がまたいい味を出しているように思います。
何気ない会話って大切なことですよね。

・「手のなかのポラリス」 だも
男子中学生が主人公のジュブナイル作品。落ちてくる人外は宇宙人「ポラリス」です。
この年頃の微妙な心境が、水泳という題材を通して描かれています。プライドと好奇心が、異性への理解の妨げになったり、ならなかったり。
彼らの変化が微笑ましいです。


発行:藍色のモノローグ
判型:A5 180P
頒布価格:1000円
サイト:藍色のモノローグ

レビュワー:藍間真珠

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