わたしとあなたのあわいのことのは

arasuji

近未来世界を舞台に少女たちの関係性を描いた短編集。
「変わり者のあなたと諦めの悪い私」
「心ばかりの悪だくみ」
「雪が溶けたら」
「イマジネイション憧憬」
の4編を掲載。

(第6回Text-Revolutions Webカタログより転載)

kansou

優しいディストピアだ──世界が今の形でなくなっても、運命や環境が自分たちの力で変えられなくても、そこにいて手をつなごうとする少女たちはいつもけなげで美しい。

短編4本が収録された短編集である。「変わり者のあなたと諦めの悪い私」「心ばかりの悪だくみ」「雪が溶けたら」「イマジネイション憧憬」の4本がおさめられ、表題作というのはないが全体通しての印象題として「わたしとあなたのあわいのことのは」が冠せられている。
どれも短編であるので詳細なあらすじは省くが、どの話も百合と呼ぶほど濃厚ではないけれど濃密な少女たちの関わりが中核となっている。そこにどことなく不穏だったり管理的だったりする世界の匂いが漂ってガラスドームの中のミニバラのごとく綺麗でせつない。主人公の少女たちは世界を嘆くでも変革するでも反発するでもなく淡々と「そういうもの」として受け入れていてそこに物語の主題はないが、彼女たちの孤独や憧憬をかきたてる背景としての設定としては十分機能を果たしている。
特に後半2本「雪が溶けたら」「イマジネイション憧憬」の2本は押し殺した好意が息苦しくて甘い。主人公の少女たちは決して英雄のような強さはないけれど友達を思いやる気持ちや憧れ、あるいは微かな苛立ちや自分への怒りなどをじっと向き合う強さがあり、とろやかに甘い物語にぴりりと強いアクセントを与えているように思う。

ジャンルはSFということになるのだろうが、さらりと設定は流されていく──それがあたかも大したことではないというように。
そして後に残るのは、派手さはないが身体の芯からじんわり温まる、優しいディストピアだ。世界が今の形でなくなっても、運命や環境が自分たちの力で変えられなくても、そこにいて手をつなごうとする少女たちはいつもけなげで美しい。

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発行:藍色のモノローグ
判型:文庫(A6) 46P
頒布価格:300円
サイト:藍色のモノローグ
レビュワー:ふてくされパンダ