短編集 夢の在り処

arasuji

今までにアンソロジー等に寄稿した短編四編を収録しています。
主にファンタジー。一編は少し怪談風の現代物です。
収録作品
「ジルコニアの涙」
詩織は亡くなった祖母の家を訪れた日に、ある青年と出会う。浦野と名乗った彼には何か事情がありそうで……。ペンダントとピアノが結ぶ夏の記憶。

「罪の先、輝く光」
夜しかない不思議な町でライラはエーリクと犬のヴァロと暮らしている。穏やかで幸せな日々だ。そんなある日、森からやってきた女性とライラは出会う。過去を抱えた彼女たちが行きつく先には光があるのだろうか。

「水際で待つ」
高校一年の夏。夏休みを目前にして浮き立つ達也。ふとしたことから幼い頃の体験と向き合うことになる達也だが、そこには恐怖が潜んでいた。少年が思い出す過去とは……?

「砂に見る夢」
シリルは十六の誕生日を迎える。忙しい毎日のなか、彼は夢を見る。鮮明な夢はまるで誰かの記憶のようだ。そんなある日、彼は不思議な老人と出会う。少年の見る夢は贖罪か希望か。

(第6回Text-Revolutions Webカタログより転載)

kansou

現代日本が舞台の作品、異世界ファンタジー風作品、各2篇収録の短編集
四篇すべて「あとをひく読後感」を持っている。
物語には結末があり、主題の謎の答えは提示されているのだが、人間関係や因果関係の一部に明快な答えが提示されておらず、それが独特の読後感を醸している。
「明快な答えが提示されていない部分がある」という点は、この作品集の場合、欠点ではないと思う。
人生のある区切りで、ひとつの問題には解答が見つかっても、ほかの問題は積み残したままであるように、すべての物語には過去があり、そして予測できない未来に繋がっていることを予感させる……そういう効果を狙っての作風ではないかと、私は解釈したが、どうだろうか。

「ジルコニアの涙」
自分の才能の限界と家族関係に悩む娘が、亡くなった祖母の家で祖母にまつわる秘密を幻視する物語
過去の哀しみを抱えたまま亡くなった祖母。その祖母と祖母にまつわる人々の涙を閉じ込めたジルコニアのペンダントに導かれる娘。
ジルコニアのペンダントの由来は明らかとなっても、娘の現在の悩みが解消されるわけではない。
過去を悼み、耐えてきた祖母のように、娘もまた、自分の人生にまつわる人間関係に向き合うのだろうか? それとも、祖母の妹のように自分の人生と人間関係から逃げるのだろうか?
答えのない『娘の物語』の結末を、思わずにはいられない作品。

「罪の先、輝く光」
 生前の罪のため、生死の境に留められ、罪を償い続ける男の物語。
「転生はない」と宣告された男に用意された「モラトリアム」のその先。
それは神の与えた特例なのか、つかの間の夢なのか……結末の解釈に幅があるが、どう解釈したとしても優しい世界の広がりを感じることができた。

「水際で待つ」
 夏期講習、一目惚れのあの子、輝く夏休み……水が苦手の少年に隠された残酷な『真実』
私自身、かつていじめを受けたことがあり、そのせいで読後感が非常に居たたまれなかった作品。
ただし、これは作品の瑕疵ではなく、作品が優れているためだと思う。
登場人物の心の動きと動機のリアリティ、結末の救いのなさ……幻想風の作品でありながら、異様にリアルである。

「砂に見る夢」
植物を癒やす能力を持つ主人公が幻視した、砂漠の街を救おうとしたふたりの青年の末路の物語
まっすぐに目的に邁進する青年と、対立する青年……諍うふたりに訪れた『和解』が、多少駆け足ではないかな、という気がしたのだが、砂漠の街が緑滴る世界に変容してゆくさま……ラストのイメージは最も美しい作品。

四篇、どの物語も豊かな表現と真摯な主題を持って、読者を魅了してくれる。
オススメです。

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発行:星の下に紫陽花
判型:A5 102P
頒布価格:400円
サイト:et cetera
レビュワー:宮田 秩早