雪行路


妖鬼士伝/華央鬼記

 唯一の肉親であった姉を略奪され、孤児院で労働に従事しつつ、独り立ちする日をじっと待っている少年、相翰。黄鈴となのる少女が孤児院に現れたその夜、彼の元にさらわれたはずの姉が戻ってくるが、姉は弱っていくばかりで……

 通じ合う言葉があれば、通じ合わないとき、一層虚しい。
 一人の女をめぐる齟齬と慟哭の物語。

(サイトより転載)

妖がいて、それらと契約し使役する者がいるという、『妖鬼士伝』というシリーズの一篇です。
その設定に惹かれて購入したのですが、私好みで大正解でした。

読み始めてすぐに、こまやかで密度の高い文章に惚れ惚れしました。
まるで細雪のようにしっとりとした湿度を持っています。
言葉の端々から古代中華の世界で息づく人々の呼気が伝わってきて、その雰囲気に浸ることができます。

昔蛮族に攫われたはずの姉・祥苓が、主人公・相翰の前に姿を現したことによって、物語が不気味に動き出します。
かつての悲劇がもう一つの悲劇を呼び、それは薄氷に入ったヒビのように、姉弟を呑み込みんでしまいます。
姉と弟、親と子、また妻と夫。さまざまな家族の絆を横糸に、そして蛮族との確執を縦糸に、
その織りは一篇の悲痛な絵巻を構成するのですが、
最後には、雪に触れたあとに知る人肌のように、ほのかに残る温かいものもあるのです。

古代中華の雰囲気が好きだったり、妖魔系のしっとりしたファンタジーがお好きなかたにぜひお薦めしたい本です。


発行:ショボ~ン書房
判型:A5 44P
頒布価格:300円
サイト:ショボ~ン書房
レビュワー:

前の記事

エッセンシャル技使い

次の記事

出雲残照