八奈結び商店街を歩いてみれば1,2


大阪の何処にでもある……あったはずのごくごく普通の商店街。
うどん屋の繁雄と和希、古本屋の千十世、妹の美也、歩くどじっ娘なずな、文房具屋の北村、商店街組合理事長壱之助。
騒がしく賑やかに冷やかし合い助け合い、日々過ぎていく商店街。
一巻では変質者。最新刊である二巻では万引き。
商店街を悩ませる数々の問題に立ち向かうのもまた、商店街の住人たち。

繁雄と和希の喧嘩が今日も響き渡り、なずなは何もないところで転び、千十世はその腹黒を遺憾なく発揮する。
何処にである、けれど、どこか引きつけられる日常が、ここにはある。

 日常ものの魅力とはなんだろう。
 派手すぎる事件は日常からはかけ離れてしまう。事件がなければ、たんなるだれた文章でしかない。
 ほどほどの事件がほどほどに起き、そして日常が繰り返される……だけでは飽きてしまう。

 次も読みたい。前も気になる。この先どうなっていくんだろう。そう思わせるのは明確なキャラクターであり、物語の中だけに閉じない背景だと考えている。
 繁雄と和希、千十世と美也の二組の兄妹はどちらも両親がない。繁雄・和希は何処までも賑やかでムードメーカーで。意地っ張りで頑固で真面目で妹思いで破天荒で、まだ二巻目だというのに登場と共に何をやらかすんだろうと期待させる(笑)千十世と美也は好んで陰に潜むように関わってくる。良いこと言うのになんでだか腹黒い千十世はちょっとカッコイイ(笑) 美也もついつい目が離せない。理事長の孫娘、なずななんてもう、出てくるだけで一事件(笑)
 直接描かれているだけでも彼らは皆、魅力的だ。
 そして。
 八奈結び商店街に生きる彼らは、年齢分の人生を背負い、年齢分以上の悩みも守るものも抱えている。でもそれは明確に描かれるわけではない。巻ごとに起こるありがちで、些細で、けれども深刻な事件の中で、ちらりちらりと表れる。彼らの思考や行動が、彼らの性格や考え方、そして過去に基づいているものだからだ。

 当たり前? 当たり前である。そう。物語として、小説として、当たり前なのである。しかし、この『当たり前』を自然に展開している物語は、実はそう多くない。とりあえず、同人イベントで行き合うことは結構少ない。(私の運の問題かもしれませんが……(涙)) この『当たり前』を支えるための丁寧な文章、緻密な物語の構成が何よりこのシリーズの魅力だと感じている。

 軽い気持ちで読み始め、ふむふむあるねあるねぇ、などと頷きつつ進め、まぁ、そうくるよねと納得し、あれれと『らしい』行動に首を捻りつつ。
 そうくる!? なんで!? え、何があったわけ!?
 1巻も2巻も物語は収束しているのに、残るのは引き込まれたまま戻ってこない気持ちと、疑問符の嵐……。

 ……ちゃんと計算され、無駄がないのに、ギシギシした感じもなく。ゆったりと、時には急流のように進んでいく物語なんて。なんて……なんて私好み……!

 関東の生まれで育ちの私から見れば、大阪弁もまた、物語を彩る重要な要素だ。テレビで見る限りではどこか乱暴な(ごめんなさい……)印象もある大阪弁だが、この物語では実に暖かく感じられる。手加減頂いているのかどうか判断出来ないが、ちゃんと意味も全部分かる(笑)けれど、テンポの良さは全く失っていない。(と、思う)

 作者の世津路さんとはイベントの設営でたまたま知り合い、知り合った縁でと初巻を頂きました。
 なにがしかの縁がないと手に取らないジャンルで、こんなにステキで好みな物語に出会えるなんて、なかなかない幸運です。
 他の作品も気になるところ……。

 続刊も期待しています。


発行:S.Y.S.
判型:文庫(A6) 76P
頒布価格:50円
サイト:S.Y.S.
レビュワー:森村直也