半島と海峡の狭間で


1970年代初頭、韓国大使館員として中華民国・台北に赴任したキム・ギョンナムは、当地で日米両政府が大陸・中華人民共和国に接近し、台湾の国際的孤立が高まるという緊迫した状況に直面する。国民党一党独裁下の台湾と、軍事政権下の韓国。反共を国是とする両体制を行き来する彼は、しかし同じ資本主義陣営に属するはずの日米が大陸の共産党政権へと接近していく中、自国の、そして赴任先の政治体制に少なからぬ疑問を抱く。やがてその疑問は、彼の外交官としての立場を危ういものにしていき…。
冷戦体制下の1970年代、日米両国と同じ西側陣営に所属していながら、大陸中国との修交という選択肢をとることのできなかった反共分断国家・韓国の視点を通じ、東西両陣営の対立がアジアに残した痕跡を描写した作品です。

※サークル公式サイトより抜粋

本作は1970年代初頭、大きく動いたアジア情勢を、主人公のキム・ギョンナムを中心にして描いていきます。変化していく国際関係に対して揺れ動く人々の姿がリアルで、息の詰まる展開が続きます。南北に分かれた朝鮮、二つの国に分かれた中国にとって、国交の変化は様々な問題を孕んでおり、次々に疑問が投げかけられます。それまで国際世界に承認されていた中華民国が、国交を断絶されるとはどういうことなのか。反共の仲間として中華民国と友好関係を持っていた韓国はどうすべきなのか…。
作者の視点は実に鋭く、反共を訴えるあまり、かえって政府が社会主義化している韓国・中華民国を皮肉だとする捉え方には唸らされます。キム・ギョンナムが出会った台湾の少女チャン・メイアンは、自分達の本来の言葉を話すことすら許されていませんでした。
堅苦しい歴史小説のように思えるかもしれませんが、エンタ-テイメント性に満ちたストーリー展開や、未来への希望を持たせたラストなど、非常に完成度の高い作品です。何より、アジア諸国の一員として、現代の私達が知っておくべき歴史が本作にはあります。


発行:高森純一郎
判型:その他 100P
頒布価格:300円
サイト:高森純一郎の創作小説
レビュワー:春秋梅菊