サイファイボーイズエトセトラ


 「空想科学」をテーマにした5つの物語を収録したSF掌編集。
 遥かな宇宙への夢を描いた「向日葵、毒薬、宇宙船」、幸福を約束された理想郷をシニカルに描く「市民の幸福」、超常の力を振るうヒーローのアクションエンタメ「今宵、メン・イン・グレイが」、時間旅行の光と影を描く「ヴィシャス・サークル」、心を持ったロボットの冒険への一歩を描く「ブリキの木こりは夢を見るか」のテイストの違った作品5つを収録。

 SFより空想科学という言葉が似合う短編集である。
 収録された5つの作品はどれもテイストが違って飽きさせない。読み始めた当初は、別の作家たちによるアンソロジーだと勘違いするほどで、どの作品も個性が光って、それぞれ異なる主題を投げかけてくる。
 しかし、全体を通してメインになるのは、テクノロジーや未来の風景ではなく、そこに生きる人々の姿であり、掌編ながら重厚な人間ドラマを展開させている。なので、どれも短く読みやすい一方、寂寥感と悲壮感を伴う作品が多い。
 お気に入りは『市民の幸福』『ブリキの木こりは夢を見るか』のディストピアもの2作。特に『市民の幸福』は、淡々とした文章で無機質な世界を表現しながら、そこにナイフのようなシニカルさが光っているといえるだろう。人間の生きる意味を疑問として投げかけてくる。
 本作はまさしく「生きる意味を問う空想科学」である。


発行:シアワセモノマニア
判型:文庫版 72P 
頒布価格:100円
サイト:シアワセモノマニア

レビュワー:唐橋史