旅人よ立ち止まれ


作者の風野湊さんが、世界一周の旅に出られ、その先々でしたためたエッセイや詩などの作品集です。半年間14か国の一人旅が繊細な筆致で描かれます。掲載国は、滞在順に、シンガポール→ベトナム→インド→トルコ→ギリシア→エジプト→イタリア→オーストリア→ポーランド→チェコ→ドイツ→イギリス→カナダ→ハワイ、です。
巻頭にはカラー写真、各章の扉にも美しい写真が載っています。

 一般的に言われている旅行記だと、いつどこを出発、どういうルートでどこへ行き、泊まった安宿の値段や食べたものの値段や味などが記録されるものですが、この『旅人よ立ち止まれ』はそういったガイドブック的な内容ではなく、あくまでも旅先で作者が感じたことが、文学作品として綴られているのです。
 なので、「旅」というものが持つ独特の緊張感、高揚、センチメンタリズム、浪漫、そういったものが肌に伝わってきて、実にうっとりとした世界一周の旅の追体験ができるのです。
 風野さんの文章はとても繊細で、透明感に溢れています。その豊かな感受性によって体験した出来事が、読み手にはとてもリアリティを持って伝わってくるし、それでいてロマンチックで、「旅」に対する憧れや想像力をかき立てて止まない。実に美しい、ガラス細工のような旅行記です。
 作者の見る世界、聞く音、嗅ぐ匂い、そういった五感のすべてが、私たちの知っている世界とは一切違う。作者の目や耳、鼻を借りて、読者は見知らぬ世界に誘われる。
 この本を一冊読み終えたとき、読者は間違いなく、「旅」の高揚とセンチメンタリズムの中にいる。空港、駅、港で感じる胸の高鳴りを、読書によって手に入れることができる。そういう、五感がしびれる旅行記でした。
 ユーミンのアルバムにも「旅」をテーマにしたものがあって、(松任谷由実『そしてもう一度夢見るだろう』)まさにこの音楽が体現している世界がこの本の中にあるように思いました。
 ぜひ、このアルバムを聴きながら、読書することをオススメしたいです。
 そして、表紙・カラー口絵はもちろん、扉として多く掲載されている世界の写真も必見です。


発行:雲の呼吸と同じリズムで。
判型:B6 124P 
頒布価格:200円
サイト:雲の呼吸と同じリズムで。

レビュワー:唐橋史