ねことしあわせ


「ねこ+しあわせ」をテーマに編集された猫アンソロジー。1冊丸ごと猫、ねこ、ネコ。沢山の猫たちが織りなすしあわせの形。 猫が心に開けた猫型の穴は猫でしか埋まらないのです。
 ──猫好きなあなたにも、猫が苦手なあなたにも「猫ってイイナ」と思える1冊です。

 猫はいい。本当に猫はいい。世間で言われているようなツンケンは実は少なく、大抵の子は甘えたがりのバカでクレバーからは相当遠い動物である。が、猫は擬態がうまい。「いかにも、余は全知全能のネコである」という顔をするのが素晴らしくうまいのだ。だから我々は時々騙されてしまう。
 猫が自分たちの気持ちや行動を読んだり添ったりするような気がしてしまい、猫たちはそんな我々のうわずみを舐めとって満足そうにあくびするのだ。この本はそんな猫たちと猫達が寝床代わりにもぐりこむしあわせをテーマに編集されたアンソロジーである。

 幻の猫から本は始まる。読後のほっとする感触が温めたミルクを舐めたときのようだ。続く自立した猫……とみせかけた物語。強がっても粋がっても猫は猫、頬がゆるむ。
 人と人の孤独の隙間に猫が身をくねらせ、柔らかに埋める猫の物語は最後の希望にほほえみ、追憶の猫を語り現在の猫を語るエッセイは暖かく乾いた風のように死を取り扱いながら見える光が胸に残る。

 猫の一人称で語られる小説は挿絵とセットで薄暮の切なさが目の裏に浮かび、続く子猫のお買い物はとにかく可愛らしくて微笑ましい。同じ子猫でも捨て猫を拾う物語は猫の治療の中で自分も癒される物語。猫は決して励ましてくれたりはしないけど、孤独の側には寄り添ってくれるのだ。

 ネコモドキ、SFの土壌にありながらノスタルジックで幻想的な雰囲気は「銀河鉄道の夜」を想起させる美しい世界。同じ鉄道猫でも実際の電車に猫を乗せて走らせる物語は地に足の着いたおとぎ話。ありえないが、楽しい気持ちになる。
 また猫と女はほぼ同義である。猫が独占欲で口を曲げることを我々は実際に見たことはないが「あるある」という気持ちにさせられてつい笑ってしまう。観覧車の接待猫たちには不細工だろうけど可愛いんだろうなとニヤニヤさせられ、それは夜の観覧車に揺れる群青色の物語に暖色の彩りを添える。

 最後に、いなくなった今でも大好きだよと呼びかけるエッセイはとびきり楽しい空想を運んでくる。ああ、猫カフェ! 暖かくほろ苦く、けれど甘くてカラフルな猫カフェ!猫を堪能して終わる本にふさわしい幕切れになるはずだ。
 沢山の猫たちの納められたこの本が、どこかの幸せの記憶と幸福の期待をあなたの胸に埋めてくれますように。


発行:StrayCat(Text-Revolutions)
判型:B5
頒布価格:600円
サイト:StrayCat

レビュワー:小泉哉女