メリーゴーランド


『が ん か け』多々畳

女子の考えていることがわからない。
女子高生の考えていることも、
おばさんの考えていることもわからない。
ただ一つわかっているのは、
女子は花が好きだということ。
とびきりの花言葉を添えて、あの人に渡そう。

『フリーバード、ソングバード』遊佐はなえ

貝殻荘は平和なアパート。
ここの管理人であり大家でもある甲斐美耶子は、
変化を嫌い、安定をこよなく愛している。
そんな美耶子の平穏な日々は、
自分とはまるで正反対の男・井山透があらわれた時から、
徐々に変わっていく――。
ずるい大人たちの恋愛未満小説。

「メリーゴーランド」をキーワードにした短編2編が収録された作品集です。
+Lantern様の作品集はサイズ感もよく、表紙や中表紙の挿絵もとても可愛くて、
読みやすいところが好きです。

がんかけ

主人公が小学生の男の子という点が、個人的にはツボでした。
その小学生の彼が一歩引いてクラスメイトと接している様子が面白かったです。
親戚でもない、日常生活でも繋がりの薄い三人が連れ立って
遊園地に行って、一緒に時を過ごすうちに少しずつ距離が縮まっていく。
そういうほんの小さくて温かな関係性が、ユーモアのある文章と一緒に丁寧に
書かれていて、楽しく読めました。本当は、今、誰もがこういう繋がりを
心のどこかで強く望んでいるんじゃないでしょうか。そんな気がする作品でした。

フリーバード、ソングバード

貝殻荘、という下宿に近い雰囲気を持つアパートの管理人さんは、きちんと
決められた日常を過ごすことに安心を感じている人で、そこに外国を忙しく
飛び回るお仕事をしている新しい住人がやってきて…その二人の関係を軸に
お話が進む作品でした。
大人同士の落ち着いた物語でありながら、同時に胸がきゅんとなるような
恋のお話でもあり、読んでいてとても楽しかったです。
自分の暮らす生活の枠から出ずに過ごすことに安心を感じるのか、それとも
同じところに留まらずに方々を飛び回って過ごすのか。ある意味間逆なタイプの
二人が、それぞれに満たされなかったものをお互いのなかに見出していく
課程の物語であるのかなぁ、という風にも見えました。それは恋の道程であり、
恋の向こうにある未来の彼らの暮らしに繋がっているのかもしれません。
物語の先が少し見えてくるような、幸せで温かな印象の作品でした。


発行:+Lantern
判型:A5 114P
頒布価格:200円
サイト:+Lantern

レビュワー:ひよこ豆