さんた・るちやによる十三秒間の福音


舞台は近世初期の長崎。吹き荒れるキリシタン弾圧の嵐と、殉教者たちの姿を刑場の役人たちの視線から描く表題作をはじめ、『平家物語』屈指の名場面「重衡被斬」に取材し、南都の夜を描く『或る罪人の死』、チャップリンの名作映画『モダン・タイムス』を幕末の上野戦争に舞台を移して翻案した『smile』の三作品を収録した歴史と伝奇の短編集。

(創作文芸見本誌開場HappyReading より転載)

 まず最初に断っておきたい。
この本には表題作「さんた・るちやによる十三秒の福音」のほか、「或る罪人の死」「smile」という作品が収録されている。
どちらもすばらしい作品ではあるが、大変申し訳ないが、今回はさんたるちやのレビューのみを書きたい。

 この物語は長崎の弾圧されたキリシタンと、処刑人の話だ。
いや、孫四郎を処刑人とするのは正しくはない。
剣豪であるが故に下級武士の務めとして、そうならざるをえなかったというべきだろう。(余談・唐橋さんの描く時代物はこういった当時の地味な役回りの人物にスポットを当てるのがすごくうまいし、時代考証をわかっているからこそできるのだろう)
 迫害され、悲惨な死に方をしていく殉教者たちへ、慈悲の処刑人と刀を振ることになる。苦しくも悲しい物語だ。
教えに従い、殉教していく人々。
そんな時、孫四郎は“るちや”と出会う。いや再会してしまう。
るちやは何を思い、どうしてその申し出をしたのか。
そして、その行為は孫四郎に、他の仲間たちに、人々になにを伝えたかったのか。
るちやによる13秒間の……福音、である。
しかも、さんたという冠がついている。
るちやはなにを伝えたかったのか、結果としてなにが伝わったのか。
それを考える、想像させる幅で余韻をもたせる、最高の短編である。
あなたは、るちやの13秒間になにを感じるだろうか。
これは福音なのか。


発行:史文庫~ふひとふみくら~
判型:文庫 70P
頒布価格:300円
サイト:史文庫~ふひとふみくら~

レビュワー:みすてー