掲示板と僕


 現代・SFを行き来する短編集。大学の掲示板で見も知らぬ”彼女”と交わす短文の交感「掲示板と僕」、タイムマシンで彼女が死んだ日に戻った最期の邂逅「愛するあなたと私」、ただ一羽飛び続ける巨大な鳥を見上げる憧憬「大空の鳥と僕」など6編を収録。

 どれもとても短い。短い中に感情を織り込めるには引き算の美学が必要ですが、引きすぎない良い所で立ち止まっていて、うまいと思います。

 タイトルにもなっている「掲示板と僕」だけは2編から成っていて本の最初と最後に挟み込まれているのですが、これが「本を開き、閉じる」のと同じ感覚で終幕をすとんと落としてくれました。
 掲示板にメモを貼りあうことで知らない人と会話をするというコンセプト自体はそんなに珍しいものではないと思いますが、引き算していく結果、ほのかな感情の余韻だけが最期に残るいい小説です。ぎりぎり触れあわない二人はきっとこのまま一瞬の邂逅を思い出にして未来へゆくのだなぁとほんのり心の底が暖かくなるのを感じました。

 「愛するあなたと私」は恋人が亡くなった日へタイムマシンで戻った男の失敗の話……ではなくて、この世の果てで愛する人に寄り添う絆の物語だと思います。失敗はした、けれど望みは叶った。強い気持ちほど優しいのです。悲しいけど、読後感のよい物語でした。
 
 他の短編もほのかに何かを感じさせてくれる残り香のある短編集です。普段エンタメを書いている人に読んでみて欲しいと思います。


発行:KK FACTORY
判型:文庫 52P
頒布価格:200円
サイト:桧瀧社 KK FACTORY

レビュワー:小泉哉女