ホームレスと迷い犬


迷い犬と出会ってしまった若いホームレス。彼は犬を保護してくれる施設を探し当てるが、同時に自分も保護され、人生の再出発のチャンスを与えられる。

コミティア104で入手した本の中で、もっとも素直に心に響いた本。

『「営業のお仕事ならたくさんありますよ」』
『昼の公園のベンチに座って、頭を抱えるしか、もはや時間のつぶしようがなくなっていた』
(いずれも本文より)

自分にもおぼえがある。
行き詰った時の情けなくも、無力な「あの」感じ。
もっと精力的に何かをなさなくてはいけないのに、身体に力が入らない「あの」感じ。
今でこそ、中間管理職の偉そうなオッサンだけど、自分にも失業者だった時期はあるし、ホームレスとまではいかなくても、そこすれすれに「堕ち」た頃はあった。もう忘れかけていた「あの」感じを、この小説は思い出させてくれる。
ああ、あの時期を過ぎて、オレは「希望」をテーマに創作するようになったんだ…
今さらながら、そう自己確認した。

ホームレスの若者が、人から同情されるたびに「悪いのは自分…」と己を責めているのもリアルだ。人の責任にしている間は、まだ余裕、あるからね。
『「あんた、そのうち自殺したくなるだろうよ」』(本文より)
ドキリとするセリフだ。なんか、こう書いていると、いろいろネガティブな感じだが、『ホームレスと迷い犬』はそんな作品ではない。希望がある。大袈裟な希望ではなく、ささやかな希望。捨て犬と同じ施設に保護されるという、冗談みたいなシチュエーション下で、人が再生する物語。冗談っぽく茶化したり、斜に構えたりせず、とてもまじめに書かれた物語。
主人公とヒロインが最後にカップルに、なんて甘ったるいオマケもなくて、ある時期を過ぎたら、それぞれ別の人生を歩きだすあたり、ほのかなリアリズムも漂う。

作者は自作を「お説教臭い」というが、まじめに取り組めば、こういう書きぷりになってしまう。いかにも文学的な机上の絶望など、本好きの自慰。等身大の「不安」を描けた本作こそ、良作であると思う。感想と言いつつ、自分語りをしてしまったが、読者に自分語りをさせるということは、その作品が相手の心に届いた証しだ。

この本に、エールと賛辞を贈りたい。


発行:Natural Maker
判型:新書 52P
頒布価格:200円
サイト:Natural Maker

レビュワー:大和かたる