ミス・アンダーソンの安穏なる日々(2)
魔法をもつ魔族ともたぬ人間が闘争を繰り広げる世界。
由緒正しい騎士執事の血統である魔族の少年・アーティは
いきなり一人前になった途端、ある使命を言い渡される。
それは人類最強の女傭兵、アンナ=L・アンダーソンの抹殺だった。
《血だまりを逍遥する淑女》《死の雨を呼ぶ碧眼》
《戦場に靡く黒髪》《魔族殺しのアンダーソン》――
数々の物騒な二つ名を所持する彼女相手に
アーティはどう立ち向かうのか?
あんまり殺伐としないおねショタファンタジー、ここに開幕!
(サークルサイトより転載)
※過去の感想はこちら
ミス・アンダーソンの安穏なる日々
一家に一台、アーティが欲しい!
「ミス・アンダーソンの安寧なる日々」を読むと、誰もがきっとそう思うでしょう。かくいう私もその一人。
場所は、魔族と人間の世界が共に存在し、対立する世界。
騎士執事見習いだった魔族の少年・アーティと、人間界最強の傭兵・アンダーソン。
羊のようなかわいらしく実直なアーティが、事もあろうにアンダーソンの暗殺を命ぜられるところからお話が始まります。
何よりもまず、アーティが可愛いに尽きる!
暗殺するはずの相手にご飯を作り、掃除をし、(強制的に)抱き枕にまでされてしまう、そんな健気なアーティのかわいらしさが、軽快な語り口で語られていきます。ご飯シーンの美味しそう率は異常。微笑ましい上におなかが空いてくる、恐ろしい小説です。
そんなアーティを翻弄する美女、アンダーソン。その見た目と実力とは裏腹に、片付けや料理がダメダメで、アーティの作るごはんを美味しそうに(そして、大食漢なので恐ろしい量を平らげる)食べる彼女は、最強設定でありながら、親しみのあるキャラクターになっています。
そして時折触れられる、魔界と人間界との関係や、魔法の原理などの世界観設定は必要な時、必要な分だけ語られます。お話の邪魔をしておらず、ファンタジーに疎い私は、ただただ作者さんの力量に感服する他ありませんでした。
。物語の後半は、場所を首都ロバスト・ルーツに移ります。大規模なお祭り「瞬夜祭」に潜む、大きな闇に立ち向かうミス・アンダーソンとアーティ。臨場感あふれるアクションや、派手でかっこいい攻撃魔法のシーン、そして熱い展開と、続きを読むのがとても楽しみでした。
全体を通して、緩急を付けられた展開や、丁寧な心情描写、魅力的なキャラクターたちが織り成す、素敵な長編ファンタジーでした。作者の世津路さんは、女の子同士のしっとりとした作品や、浪速の商店街の子供たちを主役にした人情もの、あるいは「報酬系」と呼ばれるダークなものまで、様々なタイプの作品を書ける、マルチな作者さんです。他の作品も常におすすめ!
「では、頑張ってわたくしを殺してくださいまし」
これにアーティがどう応えるのかは、読んでからのお楽しみです。