メイガスとASMR

20xx Nyeon 8wol 9il / Suguk Schreiben

 「人間に臓器を機械にされた哀れな改造人間ども。さぁ、元人間の私の実験台になるのだ」
なんだかやけに高圧的なテレパスが届いたのは、前日、僕が部屋で読書をしていた時の話だ。
「ソラボル・昭和75年」という、メイガス時代の小説家、ミンギョ・パン・フェア―ドが書いた小説を読んでいた。
 人間の国がかつて様々な国を侵略した時のように自分たちを侵略したら……というテーマで書かれている物語だ。
 当時は荒唐無稽かつレイシズムにあふれた駄作、というレッテルを張られていたらしいけれど、今じゃごらんのとおり。
 僕たちは耳と尻尾を持ち、メイガス、という種族の名前を持つにもかかわらず人間にされてしまった。
 それだけじゃ飽き足らず、彼らは安田内閣というファシズムをこじらせた政権のもと、僕たちメイガスをおもちゃのように扱って、そして僕も改造人間になった。
 ちょっと話がそれたね。
 とりあえず僕はそんなことを考えていたら、僕たちレジスタンスの司令官をしてくれている元人間、ベカプからそんなメッセージがテレパスで送られてきた。
 
 僕たちはテレパスでつながっている。
 ちょうど人間がツイッターとかのSNSでつながっているのとおんなじ感じだね。
 僕は
「何を考えているんだい?」
 と書いたけれど、ハムンチャサなしのつぶてだったさ。
 それから気になったけれども寝る準備をして翌日に備える。
 彼女曰く改造人間(僕とか、空戦魔術師のトラジ・ナパルコ姉妹とか、海戦魔術師のコムナリとか、電気魔術師のメバルトとか、あとベカプもそうだね)で試したいことがあるからさっさと寝ろ、だそうだ。
 ベカプ、言葉ではすごくおとなしいくせに言葉に出すととても激しいことを言うんだよね。
 ちょっと言ったほうがいいかな。

 翌日、僕たちは眠気眼のままご飯を食べて、実験室へと向かう。
 僕たちは人間にレジスタンスをするために当然兵器のたぐいを作ったりするわけだけど、その成果を見たり、改造人間になったあとすぐにここで能力を調整したりしている。
 
「みんな。集まってくれてありがとう。みんなに試してもらいたいものがあって、ここに集まってもらったよ。いやだったら断ってもらっても……まぁ構わない。ただ結構楽しいと思う」

 ベカプはちょっと遠慮がちにそう告げると、全員の顔を見る。

「僕は構わねぇぜ? なんだかわかんねぇけど実験は大好きだ!」
 
 兎の空戦魔術師、トラジは言うととても楽しそうに姉であるナパルコを見た。

「せやな」

 ナパルコは無邪気に同調圧力をかけてくるトラジに少し驚いていたけれど、やっぱり楽しそうだ。
 この二人はいつもこうだ。
 そしてこうなる。

「姉さんなんだよぉ……つれないなぁ」

 ちょっと不機嫌になった。

「はいはい。今度おいしいお茶入れてあげるから」

 ナパルコとが言うと

「本当か! やっぱ姉さん大好きだぜ!」

 いうとトラジはナパルコに抱き着いた。
 ここまでこの改造人間の双子の姉妹のクリシェなのだ。
 まぁ、今日も元気そうで何よりです。

「なるほど。面白そうだが、僕に何かメリットはあるのか?」

 シャチのメイガスであるコムナリはベカプがテレパスで送信した情報を確認している。
 ただ怒っていたり、嫌がっているというよりも興味を抱いたみたい。
 まぁ、彼女の確認癖と追及癖は今に始まったことじゃないからね。
 実際楽しそうに尾ひれをばたつかせているし。
 僕もそうだけど、メイガスは感情を隠せない。
 僕の場合うれしければ尻尾がつい横に動いてしまうし、頭に来れば尻尾が立つ。
 不都合ではあるけれど、まぁ、昔は抑圧が多かったみたいだからそのころの名残なんだろうね。

「メリット……」

 ちょっとベカプは困り気味だ。
 まぁ、そうだよね。
 仲間内の実験で報酬がいるのか、って言ったらよくわからないよね。

「まったくみんなは子供なんだから! こんな実験になんて協力してあげないんだから」
 
 狐族のメイガス、メバルト。
今日は戦闘モードではないようだ。
 黒い狐の尻尾を振って楽しそうに笑っている。
 彼女のこれもまぁ、クリシェだね……。

「ならしなくていい」

 ベカプはそのクリシェを見越してか、そういうと研究室の別室へと歩いていく。 
 メバルトはそんなベカプに申し訳なさを感じたのか、申し訳なさそうに目線を落とす。
 するとベカプはちいさなカートにお菓子をもってやってきた。

「研究に参加してくれたらこれあげる」

 おそらくベカプお手製の時空冷蔵庫に入れていたのだろう。
 ずいぶん昔にみんなで作った餅のケーキが並んでいた。

「これって……前につくった……」

 僕は思わず言うが、ベカプはにらみつける。

「スグク。君たちイヌは静かにすることを覚えたほうがいい」

 怒られちゃった。
 まぁいいや。
 あ、僕はスグクって言います。
 犬のメイガスです。
 よろしくね。

「わ……私も参加するわ! お……お餅ケーキに誘われたわけじゃないわ。女性としてすべきことがあるものなのよ! ね、ナパルコちゃん」

 メバルトはどこか助けてほしそうな目でナパルコを見つめる。
 でもそんな彼女に

「せやな」

 と、ナパルコは貼りついた笑顔で言った。
 まぁ、そうなるよね……。
 一方でメバルトは

「ナパルコ! 反応してよ!」

 と、慟哭にも似た声で言った。

 ベカプはその一部始終をじっと見つめ、それが収まったころにヘッドホンを渡した。

「これから聞こえる音声に従って、イメージしてみて。今回のテキレボのテーマはイマジン。イマジンしないとれぼんって猫に怒られてしまう」

 テキレボ、っていうのは分かるようでわからないけれど。はめてみる。
 耳がついているところなんてみんな違うから、その姿はどこか滑稽でもある。
 コムナリに至っては耳なんてないからね……。

 *

  しばらくするとやたらとなまめかしい声が聞こえてくる。

「息をすって……吐いて……」
 
 その声に合わせてゆっくり吸って、吐く。
 なんだか自分の意識になっていくような気がするから不思議だ。
 
「すって……吐いて……」

 静かな空間に呼吸の音だけが響く。

「なんだか耳がぞわぞわするな……」

 コムナリは不快そうに何か言っていたが、これと言ってベカプは対策を取ろうとはせず、ただ無視を決め込んでいた。
 たしかに魔力異常で音が聞こえすぎる君にはつらいかもね……。

 でもそんなことを言っている間に目の前にぼんやりと神社の映像が浮かんでくる。
 赤い大きな提灯に、たくさんの外国人。
 ――浅草かな。
 浅草。
 メイガスたちが内地に修学旅行に連れていかれると必ず立ち寄るという街だ、
 僕も高校の修学旅行で行ったけれど、たいして面白い街だとは思わなかったなぁ……。
 まぁいいや。
 僕はその近くの地下鉄の駅で途方に暮れていた。
 ここを上がれば今日の目的地に近い。
 しかし階段は急で上がることができない。
 なにも手に持っていないはずなのに、なんだか手が重たく感じる。
 近くにあったスーツケースを僕は手に取って、力を入れる。
 体がいくら強化されているとはいえ、持ち上げるのはきつい。
 どこかから焼きそばのいい匂いがする。
 なんだかおなかがすいてきた……。
 
 僕はそんな邪念を打ち払い、荷物を持ち上げる。
 息が上がることはないけれど、この中に何が入っているのだろうかととても気になった。

 それからしばらくバス通りにそって歩いていく。
 有名な三社通りの方ではなく、マンションやコンビニの見える、浅草というシニフィアンがなければ普通の住宅地のような街を歩いていく。
 そして5分ほど歩くと、僕は達成感をもってキャリーケースを置いた。
 ポシェットの中から携帯電話を取り出してメールを読む。
 そこには猫の絵が描かれたpdfが添付されていた。
 気づけば僕はいつも着ている青いメイガスとしての服ではなく、オレンジのシャツにつなぎの平服を着ている。
 しかもなんだかおしりと耳がさみしいと思ったらなくなっている。
 メイガスとしての自慢が消えていることに僕は一瞬焦り、へんな汗が流れてきた。

 エレベータで6階までビルを上がると、テーブルがたくさん並べられていた。
 僕は番号を確認して荷ほどきをする。
 今の僕が何をしているのか、理解できない。
 それでもこうしないといけないという感じがした。

 中には僕の絵が描かれたオレンジの小説がたくさん入っている箱があった。
 こんなもの作ったっけ、とすこし疑問を感じたけれど、心を急き立てるような感覚に襲われてそれらを並べていく。
 想像以上にテーブルが広いことに感動し、そして2脚座席を確保したことで荷物が置けることに感動する。
 本を並べ、ディスプレイをしてみるとなんだか自分のお店を持てたようでとてもうれしかった。

 どこかからなんだか小ばかにしたような鼓笛隊の太鼓の音が聞こえてくる。

「みんなの!平和を!みんなで守ろう!まーえ! うしろ! みーぎ! ひだり!」
 
 ノリはいいけれど正直なんだか恥ずかしい。
 この瞬間、僕はいま自分が何をしているのだろうかとわからなくなった。
 なぜ本を売っている? この音楽はなに?
 昔、大学で「ハイパーシミュラークル」を習ったときに見た「マトリックス」のネロのようにも感じられる。
 電話はどこだろうか。
 なんだかせかされるように電話をかける。
 しかし一切電話はかからず、だからといって「スグク君」といってエージェントがやってくるわけでもない。
 逆にそのことが恐ろしくてそわそわしてくる。

「すみません、ここはどこですか?」
 僕は隣の人に聞いてみる。
 隣の人は朝顔柄の和服をおしゃれに着込んでいた。
 
「えっ、ここはテキストマーケットですけど……」
 
 テキストマーケット?
 なぜ僕はそんなところにいるのだろう?
 こんな本を作ったこともないし、こんなところにいる理由もわからない。

「僕は聞きたい。僕はなぜここにいるんだい? 僕は誰なんだい? 僕には立派な尻尾と耳があるはずなんだ。なのに今の僕にはない。どういうことなんだ?」

 しかし僕の姿を見て和服の女性は困惑し、

「落ち着いてください……」

 と、僕の背中をなでた。
 しばらくすると係員の人がやってきて、僕の顔を伺う。

「僕はなぜここにいるんだ? 僕はさっきまでソラボルで寝ていたはずだ。なのになぜだ?」

 僕のことばに困惑した係員は、僕をどこかへ連れて行こうとする。
 しかし僕はよくわからなくなりその場で蹲る。
 すると世界がゆがみ、音が斜めに弾けだす。
 その音に僕の意識は吹っ飛び、目の前が真っ暗になった。

「ここは……」
 
 僕は目の前に広がる真っ白な空間に目を細めた。

「スグク、音声を変えるよ」
 
 言うと白い二尾のしっぽがふわりと揺れる。

「戻ったのか……」
 僕が今までどこか異世界に行っていたことを思い出した。
 
「ゆっくり息を吸って……吐いて……1、あなたの身体から力が抜けていきます、2、あなたの目の前に現実が広がっていきます……」

 その音声に従って、自分がいま、アジトの研究室にいることを再認識した。
 10を数え、僕はゆっくりと息をつく。

「お疲れさま。どうだった?」

 ベカプはイヤホンを皆から集める。

「なんてーか、同人誌即売会ってなんだか楽しいな。僕も出てみたくなっちまった」

 トラジは楽しめたのか、目をキラキラさせていう。
 
「たしかに一万円出されたときは本当に腹が立った」

 コムナリもなかなか楽しかったのか、珍しく目を細めている。

「同人誌なんてお子様の売るだと思っていたけれど、いいわね」
 
 と、オタク文化が嫌いだったメバルトもちょっと恥じらい、もじもじしながら言った。
 ちぇっ、僕もそんな体験してみたかったなぁ……。

「僕はみられなかったよ……」

 僕が事情を言うと、ベカプはちょっとばかり豆鉄砲をくらった鳩のような顔で見つめた。
 そしてがっかりして僕を見つめる。

「そう……私の脚本じゃダメだったか……」

 メバルトは必死にベカプを励ますが、かえってプライドの高いベカプは面白くなかったのか、

「私の精進が足りなかったみたいだ」

 とつぶやいた。

「でもこれ、うまくできたらいい兵器にできそうだ」

 言うと、ベカプは少し嬉しそうにはにかむ。

「これを改良して人間を洗脳するために使いたい。うまくすれば人間をレミングみたいに集団自殺させることもできるかもしれない」

 ベカプは2年前まで人間だったはずなのに、今では人間を憎むメイガスになっている。
 彼女のメイガスへの愛を感じてなんだかうれしかった。
 
 トラジたちもその妥当性に関して考え始め、話を始める。
 人間を洗脳する方法はいま、もういくつか持っている。
 戦いは武力での勝利がキモではあるが、それ以上に国民の思考を変えてしまったり、沿線の雰囲気にさせたりすることも重要だ。
 
「うん。いい考えだね。開発、頑張ってみてよ」

 ベカプの目は控えめながらもキラキラと輝く。
 そして僕から目をそらすと、嬉しそうににやにやと笑った。


Webanthcircle
サークル名:孝子洞のシャチ(URL
執筆者名:LangE

一言アピール
ポッピーでパンキーなケモミミレジスタンスものを書いています。よろしくお願いします!


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