ポルターガイスト
お元気ですか。
花束とお返事ありがとうございました。
お返事が遅くなってしまい申し訳ありません。
なかなか書ききることができなかったのです。
というのも知っての通り僕はどうしても昼間は疲れてしまいまして、
夜の少しの間しか筆を進めることができませんでした。
人間には夜型体質というものがあるそうです。それに似たものかもしれません。
夜といえば、なかなか手紙に取り掛かれなかったもう一つの理由が……
僕の住んでいる所が恐ろしい幽霊屋敷と呼ばれているのはご存じでしょうか。
600年も経つと色々なうわさ話が立つものです。
誰もいない台所からガラスの割れる音がする、真っ暗な塔の上を明かりがゆっくり上がっていくのを見た、墓地から不気味なうめき声が聞こえる、無人の部屋でピアノが鳴っている……そんなうわさを聞きつけて、時々暇を持て余した好奇心の強い方々がアポなしでいらっしゃるのです。そうして、屋敷の者たちは皆世話焼きでパーティーが好きなものですから、そういった方々が来ると部屋から僕を引っ張り出して歓迎のあいさつに駆り出すのです。
実際には、台所のガラスはうちの暴れん坊の猫のサリーが構ってくれない腹いせにしっぽを振って瓶を落っことしただけで(その後の叫び声は厨房のシェフのものでしょう)、塔を上がっていく明かりはお母様のランプです(彼女はとっても節約家なのです)。墓地の声はおそらく庭師の歌声でしょう(彼は歌うのが大好きなのですが、少々独特な歌い方なのです。今も聞こえてきますが、いつも楽しそうな彼の歌を僕は気に入っています)。残念なことに、無人のピアノは聞こえたことがありません。僕も時々気が向くとピアノを弾いていますが、もしもう一人いるのなら、連弾ができてうれしいのになあ、などと思っています。
このように、一つ一つ説明していけば不思議なことなど何もないのですが、人はどうしても面白おかしく想像してしまうのでしょうね。
こちらの木々も少しずつあなたの髪のような美しい赤色に染まってきました。あなたが綴ってくれる森の生活のお話は、外に出られない僕にとってすごく魅力的に感じます。もちろん大変なこともあると思いますが、あなたは太陽のように明るく、きっと元気いっぱいに毎日過ごしているでしょう。
これから少しずつ寒くなっていきますので、どうかお体に気を付けて。あなたと、あなたの家族の健康と幸福を願っています。もうすぐ夜明けなので、今回はここまでで。
追記
送ってもらった花を枯れないうちにしおりにしてみたので、特にきれいにできたものを手紙に添えて送ります。喜んでくれたらうれしいです。
サークル情報
サークル名:alacaji
執筆者名:麻野あすか
URL(Twitter):@as_ano_a
一言アピール
アンソロのため書き下ろした手紙形式の創作短編です。
ポルターガイストの手紙のはなし。
サークル「alacaji」は大体ソ連(1951~1961)とロシア(2033~2035)のモスクワ舞台の二次創作です。キャラ同士が話してるのを妄想するのが好きなので、掛け合いのセリフが多めの小説を書いてます。創作やそのほかを含む時は「dizzanima」で参加することもあります。