紡ぐ血筋

「ファンレター?」
「うん。どっさり来てるよ牧場に」
北海道新ひだか町、日高への国道を少し外れたところにある小規模な牧場「かわの牧場」。この牧場に、突然ファンレターやプレゼントが大量に届くようになっていた。
無理もない。この小さな牧場から、日本ダービーを制覇するかもしれない馬が誕生したのだから。

ファルコンウィンダムは決して期待されていた馬ではなかった。父こそ凱旋門賞を制しているガリレオズファーストだが、母方の血統が二流であること、そして父の血統からのスピード不足を懸念され、競走馬のセリでは値段が付かなかった。
いわば落ちこぼれ。買い手がつかないので、仕方なく、かわの牧場経営者の河野正が自分で持つことにした。
そんな馬が、ホッカイドウ競馬でデビューするや否や、破竹の快進撃。ハードな調教でスピードが開花したのか、3連勝で中央競馬に挑戦。京都2歳ステークスでもはじめての芝コース、はじめての距離も物ともせず、圧勝した。まさに、ダービー候補の誕生である。

こうなると、マスコミも放っておかない。
「落ちこぼれの星」として、ファルコンウィンダムの特集を組み、瞬く間に知名度が上昇してスターホースとなった。

「いやしかし、まいったねこりゃ。」
ファルコンウィンダムに届くファンレターの多くは、自分も落ちこぼれです、自分に勇気を与える走りが見たいです、という具合のものだった。
「でも嬉しいじゃないですか、それだけファンが多いということですから。」
「まあ、そうなんだけどな。」
「門別の厩舎には送らなくていいんですか?江頭騎手とか読んだら喜ぶんじゃないかしら?」
「門別には送らない」
「なんで??」
「手紙ってのはな。
くれるのは勇気や感動だけじゃない。重圧にもなるんだ。
手紙読めばわかるんだが、この手紙をくれたファンは、落ちこぼれた自分をファルコンに投影してる。つまり、俺たちは、ファルコンは、手紙をくれた、こいつらの重さも背負っていかなきゃいけないんだよ。手紙ってのは、そういうもんだ。重いもんだ。だから、俺らだけがその重みを受ければいい。厩舎の人間や騎手がこの重みを受けると、プレッシャーになる。たかだか重賞1つ勝っただけの馬に、騎手や厩舎の人間にそこまでプレッシャーかける必要もなかろう。
これは送らないでおこう。
ダービーが終わったら、送ればいいさ。」
そう言って、河野はダンボールいっぱいの手紙を倉庫にしまった。

プレッシャーを極度にかけることなく、手紙の重圧を受けなかった江頭騎手は、その類稀な手綱さばきで、ファルコンウィンダムを地方馬初の日本ダービー制覇に導くことになるのだが、それはまた先の話である。

サークル情報

サークル名:CROSSNEXT
執筆者名:タケモト
URL(Twitter):@cross_next

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AV業界と駅蕎麦と性風俗と水商売のサークルのはずが、何故か出してる最新刊はサウナの本と小説。

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