その水に口をつけたW氏の顛末


「だからあたしは水になるの。
水になって、H2Oになって、その小さな小さな分子の、その一部になるの。
あたしの存在は極限にまで希釈され、すべてのものにいきわたるの。
あたしは誰のものでもあって、誰のものでもなくなるの」

冴えない中年用務員・W氏は或る晩、プールに忍び込み水中で踊る少女と出逢う。
その舞踏のうつくしさに圧倒されたW氏は彼女に懇願しその観客者たる資格を得る。
それからふたりには奇妙な交流が芽生えるが――

『少女+キーアイテム+※※欲求』をコンセプトにお贈りする
《報酬系》シリーズ第二弾。
独占せずにはいられない、僕らのための妄想譚。
(著作者サイトより)

sanka

このシリーズは単純に好きです。
ホラーともファンタジーともつかない、絶妙さ。物語は絡みつくような粘度を帯びて、けれど、触れれば壊れてしまいそうな繊細さも兼ね備えている。誰でも秘めている狂気は、それ故に純粋で。……その熱狂はいつか味わってみたいとすら感じながらも、踏み込んではいけない一線を確かに感じさせる。
シリーズを通しての独特な三人称もまた雰囲気を添えている。淡々と。他人事のように。けれどだからこそ、物語は際立つのだ。
月光の下の儚くも美しい物語。そして『報酬系』の名の通りのその、結末。

シリーズ前作の「例えばC君が箱を出るに至る話」も合わせて、続刊も期待しながら、シリーズ通して浸りたい……。


発行:こんぽた。
判型:文庫(A6)32P 
頒布価格:100円
サイト:こんぽた。
レビュワー:森村直也

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください