Text-Revolutionsアンソロジー「はじめてのxx」(2)
第1回Text-Revolutions 参加サークルさん有志によるテーマアンソロジー!
テキレボもみなさまと「初めまして」なので、テーマを「はじめての××」としました。
いろんな”はじめて”がぎゅっと濃縮された1冊です!
※この本の他の感想はこちら
Text-Revolutionsアンソロジー「はじめてのxx」
第1回Text-Revolutionsの参加サークルさんによるアンソロジー、「xx」の部分がちっともかぶってないことに素直に驚きました。
ほとんどの方が「はじめまして」なので、新鮮な気持ちで読めました。
読み手としての感想と書き手としての感想が入り混じっていますが、ご容赦ください。
「初めての革命」クロフネ三世さん
確かにあの扇風機(?)革命は革命的でしたね……と当時を懐かしく思い出しつつ。革命によって簡単に価値観がひっくり返る世の中はまるで「大富豪」のようにゲーム的で、まさに不条理。シニカルなニヤニヤ笑いもあって、冒頭を飾るに相応しい作品でした。
「争いの終わりに」高柳寛さん
ゾンビもの! 「僕」だけが唯一の生者、っていう終末感ひしひしの舞台なのに、どうしてか悲壮さはなくて、不思議に澄んだ空気を感じます。その中で「僕」に音楽ブームが(ビートルズ!)来たのは、何だか意味深なような。ラストシーンもすごく印象的です。
「湯気たつベランダ 見上げた夜空」世津路章さん
小さい妹の前で必死に「お兄ちゃん」するたろくんのまっすぐさと、彼を見守るまいねえちゃんのやさしい視線にきゅんきゅんします。言葉の選び方ひとつひとつが柔らかく温かくて、吟味されているなあと感じました。紅茶のようにじんわりとぬくもりが広がる物語。
「初めての恋 あるいは、恋する思考実験」添嶋譲さん
添嶋さんの作品は言葉がシンプルだからこそざっくり食い込んだり、ぶわーっと揺さぶられたりするのが魅力だなあといつも思います。甘酸っぱさも逆剥けをひっかくような苦い痛さも、全部まるごとひっくるめて、宝物のように思えてしまうのです。
「夜の一頁」野間みつねさん
少年はこの後、すっごいおっとこまえになるんだろうなあ、と確信を抱きつつ読みました。執筆されてる長編では彼のことが語られたりするんでしょうか。でも、男を成長させるのは女だよなあ、とも。
「初☆パーティー」ななさん
「見た目美少女の」という一言がイーシュさんのすべてを物語り、アレスさんの変態ぶり(失礼)も端的に伝わってきて、すなわち常識を備えているだけ損をするパターンですね……。「僕」の今後の苦労が想像されるとともに、デカイこと成し遂げる面子のような気がします。
「はじめての高尾山」広川伊砂緒さん
普段の、何でもない日常と非日常。その境目はほんの紙一枚分しかなくて、あるいは境目なんかないのじゃないか。そんなことを考えた作品でした。日常があるからこそ非日常と共存していられるのかも。
「初めての海外渡航」高森純一郎さん
私は海外に行ったことがなくて、海外でのフィールドワークなどのお話を伺っても憧れと共にうんうん頷くことしかできないのですが、上橋菜穂子さんのエッセイにも通じる好奇心とバイタリティを感じました。経験が作品になるって、本当に憧れます。
「まほろば町駅前交番」アヤキリュウさん
ラストシーンで鷲掴みされました。読み返してみると、「どうしてこの人はこんなに――ウザいんだろう」の「――」のように、心情描写が丁寧に織り込まれていて、緻密だなあとひたすらに唸っております。「ただのいい話」で終わらない爽やかさと力。
「玉雪開花」神楽坂司さん
小樽市内の精緻な描写に雪国の夜の鋭さを感じ、観光地としてしか知らない小樽を故郷とする律子の独白によって、同じ景色が少し色褪せて見える。この地の文の運びがすごく好きです。変わらないものなんて何もない、それは土地も人も同じ。
「初めてのハイブリッドポエム」にゃんしーさん
円城塔さんに似た、傍若無人さ(褒めてます、念のため)。文字は単なる文字でなく、テキストは単なるテキストでなく。見て楽しい、読んで楽しい作品。
余談)アンソロの表紙を見た家人が「ハイブリッドポエムって何と何のハイブリッド?」と言うので「秩序と混沌」と吹いておきました。
「はじめての風邪の日」青波零也さん
凸凹コンビのかけあいがすごく楽しくて、あれラブ? ほのラブ? とドキドキの展開の後の一言「やだよめんどくさい」がすごくきれいにオチていて、甘いだけじゃない奥深さ。こういうささやかなやりとりが、登場人物に深みを持たせるんだろうなあ。
「狂い子ふたり」ろくさん
短い物語の中に、夜の深さや鵺に魅入られた幼子の狂熱が凝縮されていて、本編への導入としてすごく魅力的な作品だと思いました。紹介のところで仰っていた「キャッキャウフフ」も見たいですが、これはこれで一種のキャッキャウフフなのでは……。
「はじめての桃太郎」トオノキョウジさん
確かに、大きな桃が川を下ってきたら見送るのが正常な反応なような。その後の息もつかせぬめくるめく展開、一大スペクタクル。遠投を終えたおばあさんが刈った竹の中に小さい女の子がいたりしたらどうしようと思っていましたが、杞憂でした。
「Do you like Strawberries Pill?」ひよりさん
嶽本野ばらさん風? と思いきや、「無向ミズ」という彼女の氏名が示す通りの超展開、これはもしや「ヤンデレ」担当!? いやいや、すごく勢いのある作品でした。「先生の影は、まるで夢の架け橋みたい」なんて描写が乙女なだけに、その落差が不気味。
「先輩の言うことは」姫神雛稀さん
高校生というにはやや大人びた二人の、でも初々しいやりとりが可愛い。老舗和菓子店という場所がらか、登場人物たちに品があるのも素敵です。撮影シーンの「一枚目は固く、二枚目は逃げた。/三枚目で、とても綺麗に笑った」がすごく好き!
「栖のはなし」南風野さきはさん
繊細で緻密に描かれた絵本を読み解いているような印象。描写の密度が圧倒的で、何度も行ったり来たりを繰り返すと、夏の夜の森に囚われてしまったように思える。逢瀬のシーンは美しく、同時に淫靡でもあり、人ならざるものの妖艶さにぞくぞくします。
「CANDY×GAME [宵月の森] 出張版」桂瀬衣緒さん
シリーズものの出張版とのことですが、つかず離れずの腐れ縁っぽい二人が可愛いなあとニヨニヨしてしまいました。強気なのに怖がりな悠里も、公隆の「嘘」も肝試しっていう舞台にぴったりで。これは本編が気になる……!
「セカンドキス」ひじりあやさん
夏の夜空の下、缶ビール片手にふたりきり。これって、ビールがよけいに苦く感じてしまうシチュエーションですよね。高校二年生っていうと、あれもこれもと手を伸ばしてしまういい意味で貪欲なお年頃。片思いのじわりとした苦さと、さっぱりしたポジティブさ。
「僕のお仕事」真乃晴花さん
今後苦労に苦労を重ね、戸惑い狼狽えるハーリィくんの姿が目に浮かびます。「仕事をさせるのが仕事」や「土足だと怒られる」などコミカルなやりとりと、副長官さんの屁理屈が面白い。これから(本編で?)どんな屁理屈が飛び出すのか、気になります。
「ラ・ドルチェ・ヴィータは知らない」まるた曜子さん
十歳差! というだけでたぎります。会話文がすごくナチュラルでこなれている感じで、わりと生々しい話をしているのに嫌味じゃなくて。ハツカノ、歳の差、ということはこれまでにも色々あったと推測されるわけで、こちらも本編が気になる……!
「みっちゃん」堺屋皆人さん
最後にやられました……! いろいろやられました……! うわあ完敗だ。でもでも、本当に○○なら(一応伏せます)鬼太郎を「幼い時に読んだ」ってことはないだろうし、って違和感はあったんですよ。何を言っても負け惜しみにしかなりませんが!
「勿忘草 ~初めてのお客様~」蒼井彩夏さん
互いを思いやる叔母と姪。直接の血のつながりがなくとも、親子の情は確かに存在していたのだと優しい気分になりました。初めてのお仕事に関する後悔を抱いてきたソフィアも、これをきっかけに魔女として成長するのでしょうね。
「最近のアレは、はじめるまでがハードモード(はじめての次世代機)」こくまろさん
これすごいわかる……! 箱360を買って遊んでしばらく放置したのちに再開したら似たような状況になってギャー! ってなったことを思い出します。こちらはゲームソフトで遊びたいのであってそれ以外のことは! 思い出し笑いで苦しかった作品。
「初めてのパワーストーン」セリザワマユミさん
これは決して「なんてことのない日常」ではない気がしますが……。フィクションでしょ? と言うよりフィクションですよね? と確かめたいです。この調子ではお墓を探し当てた後もいろいろあったのでは。笑いとホラー(オカルト?)の配分が絶妙です。
「伸縮小説『初めての時間泥棒』」氷砂糖さん
このアンソロ中でいちばん好きかもしれません。仕掛けも、ストーリーも。100字でもちゃんとした掌編小説なのに、言葉を付け加えていくことでどんどんと深みと奥行きが増していく。言葉って、物語って、すごいなあと感嘆せずにはいられない一編です。
「litte Lady ~初めてのプレゼント~」天川なゆさん
幼い見た目を気にして尖った態度を取り続ける「彼女」、彼の穏やかさでこれからはどんどん丸くなるのかな、と二人の未来を想像してしまいます。まるきり「他人のコイバナを楽しむ姿勢」ですけども……!
「梅田はダンジョン」水城麻衣さん
梅田はダンジョンです(断言)。すぐ様変わりするし、三次元的つながりもわかりにくいし。泉の広場のあの独特の「浮いた」感は、どこかとつながっていても不思議ではないなあ、と地元民の雑感混じりに読みました。鳥たちの人情味あふれる大阪弁が可愛い。
「初めてのしごと、そして日の出」谷町悠之介さん
ラッパを吹き損じたらどうなるのかしらとか、時間が巻き戻された記憶(意識)があるならその重複はとかつらつら考えてしまうのですが、時間ってファンタジー向きの素材ですよね。新しい朝にふさわしい「はじまり」を感じさせる作品でした。
「ファースト・エンカウント・イン・コースティクス」鷹無冴子さん
刺すような真夏の太陽、きらめくプールの水面、その奥に潜む何か誘惑的なものに惹かれてプールに飛び込む「俺」と水泳部の少女のエンカウント。とても短い作品ですが情景描写が鮮やかで、短編映画のよう。ふたりの間に散る火花まで見えるような。
「それは最初で最後の、嘘」ありすうちゃさん
何気ない一言を気にして髪の毛を伸ばしてしまったり、でも、誘われたからではなく自らの意志で行動したいと思ったり、リカードの女心が可愛かったです。片思い中の女子って本当に可愛い! 恋人同士もいいけれど、その一歩手前もまた、味わい深くていいんですよね~。
「「さよなら」も最早面倒くさい」小高まあなさん
隆二とマオのじゃれあいが可愛かったのですが、後半のシリアス展開にほろっときました。面倒くさい、の一言に隠されたたくさんの想いに、本編で語られているのだろうふたりの背景を垣間見たように思います。
「さよなら」森村直也さん
こちらも大好きな作品。世界の内側に「私」がいるようでいて、「私」がいるからこそ世界が存在するとも言える。世界に許されたいか、世界を許したいか、という裏返しの問いの末の決断。淡々と語られるがゆえに、許すということの残酷さが際立ちます。
「はじめてのダンス」育美はにさん
恋心と芸事。昔からテーマになってきましたね。背景などは想像するしかないのですが、リアにはジョーが必要なのではないかなと思います。ジョーは自分自身のことをリアの成功の妨げになると思っているようですが、恋もまた経験のひとつとして。
「空の青さは」凪野基
_(:3∠)_
「外の世界の話」藤和さん
まさに運命のクッキー! チーズクッキーへの熱い思いもさることながら、「今までクッキーに向けられていた気持ちが、彼の方を向いた」っていう結びの一文がすごくいいなあと思います。それまで冷静だった地の文に、いきなり違う色が混じったような。
「初めての同人誌」小稲荷一照さん
私にとっての「初めての同人誌」はどんなだっただろう、と懐かしく思い出しながら読みました。出来栄え、売れ行き、感想贈答、いろいろ思うことはあれどその試行錯誤の過程が楽しいものですよね。ところで紅茶の話も気になります。
「猫珈琲喫茶」猫春さん
不思議の国のアリス的な、と思っていたら何と、そういうことでしたか! こちらもラストでやられた! と嬉しい悔しさを味わえる作品です。作中の登場人物(?)たちを見守る視線と作品を通して感じられる優しさにほっこり。
「枯らす女」朝来みゆかさん
慌てて掃除をする春菜の様子、枯れたカランディアを目にしたときの焦り、LINEの何気ないやりとり。ささやかな日常が丁寧にいきいきと描かれています。これから人生を共にするふたりの「はじめて」が農場育成アプリって、すごく微笑ましいです。
「初めての友だち」緑川かえでさん
ダーク。すごくダーク! ギュスターヴとセレナーデ、絶望こそが快楽である彼らにとって、友だちというのはおままごとのようなものなのかもしれないけれど、そのつながりを否定してしまうと、彼らを人たらしめている支えが失われてしまうのかな。
「奇蹟を抱く」桜沢麗奈さん
凛とした桜の姿勢、生きざまが美しく、眩しい作品でした。芯のある女性はすごく素敵。桜が持つ、瀬里との分かちがたい絆は由埜から見れば単なる妄執でしかないのかもしれないけれど、いつかその奇蹟の種が芽吹く日が来ることを願わずにはいられません。
「約束してね」藍間真珠さん
間口の広いやさしめSF。でもしっかりSF! お父さんの仕事を誇らしく思っていて「宇宙に絶対はない」ことを言い訳だと言いつつ、心の奥底では理解していたからこそ、素直になれない部分があるんだろうなあ。
「初めてのラブレター」橙河さゆさん
自分宛てのラブレターに「宛先間違ってますよ」とメモを添える高橋君も、宛名も差出人も書かずに置いてしまった委員長も、初めてのラブレターに緊張し、落ち着かなかったんでしょうね。そんな浮き足立った二人がとっても可愛い!
「当世乙女初乗」蒸奇都市倶楽部さん
漢字多めの固い地の文とスチパン風の世界観がすごく合っていて、個人的にすごく好きな感じです。乗り物好き、地の文好き、描写好きにはたまらない作品でした。好奇心が強く行動力のある楓が、彩度の低い背景からくっきり浮かび上がるよう。
「転機 ―拾遺 闇胡蝶事件帖―」島田詩子さん
御前かっこいい! おとこまえ! 多少の下心はあったようですが、穂積くんがころりと(?)いってしまったのも納得の懐の深さです。御前や人のよさそうな長田さんが「闇胡蝶」として活躍する背景も読んでみたいと思わせる、躍動感のある作品でした。
「初めての永遠」鳴原あきらさん
複雑な姉妹関係、と思いきや、前半の会話部分に後半の伏線が全部含まれていて、一読した後すぐに二周めを読んでしまいました。彰子と芙美の永遠についてのやりとりもしっとりと艶めいていて素敵です。初めての永遠、というタイトルに思いを馳せつつ。
「はじめてのアンソロジー」藤木一帆さん
うわあどえむ……と思いつつ、そのお題・裏お題を自分ならどうするか、と考えてしまうあたり私もどえむの一員なのか、それともモノカキの性なのか。アンソロジーは書くのも読むのも刺激になっていいですね。お題だけでも見に行ってみようかな……(沼)
「悩ましい僕の、最初で最後の解放」りささん
何重もの入れ子構造、そしてループ。作中の毒や棘にウウッとダメージをもらいつつも、こういうメタ構造はすごく好きです。革命に始まったこのアンソロジーの終幕に相応しい、見事な解放(?)でした! 狙って書いたわけじゃないというのがまた恐ろしい。この偶然もまた、アンソロジーの醍醐味ですね。
最後に。
ボリュームたっぷり、読み応えのある一冊でした。
どの作品も違うカラーでちっとも飽きずに読めますし、WEBカタログと併せてサークルチェックに役立つのではないでしょうか。
文章系サークルさんにとって、文章でのサークル紹介はもちろんのこと、実際の作品を読んでもらえるのは何より強力な宣伝です。
この機会をくださった運営さまに感謝を。
拙く、短い感想でしたが、書き手さんと読み手さんをつなぐ一助になればと思っています。
当日、直接イベント会場に伺うことはできませんが、イベントの成功をお祈りしています!
発行:Text-Revolutions
判型:A5 228P
頒布価格:500円
サイト:Text-Revolutions
レビュワー:凪野基