匣ノ街


老朽化した地下都市で、
人間兵器《ジキル》として、旧時代の負の遺産《ハイド》と闘う、
青年と少女の物語。
心の在り処を探す退廃的SF小説です。
テキレボWEBカタログより転載)

 人類が地上を捨て、地下深くにコミュニティが形成した近未来が舞台のSFファンタジー。人類を襲う機械の獣《ハイド》と、それに対抗すべく薬物投与により身体改造された《ジキル》。ある出来事をきっかけに《ジキル》となった少女・イソラの物語。

 物語自体は非常に濃縮されているのに、決して激情的にならず淡々とした三人称。それが却って、イソラたちの生きる現実がいかに残酷で容赦ないものなのかを映しだす演出になっています。作中でも、比較的私たち読み手の現実と似通う生活・価値観をもつ人物は出てきます。ですが主な視点はイソラ――当たり前であるはずのモラルも救済も存在しない下層区で、人殺しも辞さず生き延びてきた少女――のものです。その徹底された描写ゆえに、物語を通してイソラの中に沸き起こる変化が激しく心を揺さぶります。

 一部の人間の傲慢と欲得のために閉ざされていた世界に亀裂が走る時、粛々と立ち向かうイソラ。物語が始まったときとは確実に違うイソラの姿が、その意志が、胸を打ちます。敢えて“その後”を描かないラストも印象的な余韻を残してくれます。


発行:螢石
判型:A5 68P
頒布価格:400円
サイト:螢石
レビュワー:世津路 章


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.