星と飴屑


高校生のみずみずしい恋愛、大学生女子ふたりの友情、社会人女子の失恋話とやっぱり友情の三篇を収録した短編集。
Text-Revoluton Webカタログ作品ページより抜粋)


sanka

前情報だけでも、エロさを期待して読まざるを得なかった。

社会人の、大学生の、そして高校生の女性の視点で語られる、それぞれの物語。
このうち二作目、平凡な学生である美和子が、学生企業家でハデめに振舞う秋吉との、少し歪な形の友情を語る物語、「胸に小粒星」に強く引き込まれた。
美和子は常に、彼女を姓で秋吉と呼び、秋吉は逆に美和子と名で呼ぶ。これがそのまま、彼女たちが互いに感じている(或いは保っている)距離感をわかりやすくしてくれている。

自分はこの物語を、とても卑怯な読み方で楽しんだ事を、ここで予めお詫びしておく。

作者である桜沢麗奈さんは主婦であり、某ジャンルの二次創作小説界隈でも活躍している同人小説作家である。加えて、WEB上の創作小説ポータルでは連載を抱え、かつ投稿とイベント頒布を続け、ファンも多い。
華々しい。まるで学生でありながらイベント会社社長としてひと財産を気付いた、作中の秋吉のようだ。作者は自らの立場の二面性を投影しているのかと、そう読む覚悟を少しした。
だが、どうやらそんな事は些細な要素だと、数ページ読み進めればはっきりわかる。

秋吉は一見オープンでほがらかな性格でありながら、その分、たとえば同業のライバルには敵意をむき出しにするし、他人のゴシップな噂話も平気で酒の肴にする。「むかつくのよね」と正直だ。
だが美和子は秋吉のそんな所を好きになれず、また好きではない事をしっかり伝えている。キレイではない事はすべきでないし、したくはない。美和子はそのスタンスを崩さず、秋吉は逆に「キレイでなくて何がわるい」と言い切る。
ただ、美和子はそれを理由に秋吉自身の事を嫌うわけでもなく、むしろ強い友情めいた何かを彼女に対して確か持っていると、自覚もしている。また秋吉も、自分の悪徳を嫌悪する美和子を、遠ざけるような事はしない。むしろ秋吉は、自身の持つあるトラウマを美和子に正直に話し、無為かどうかはともかく、確かに彼女を頼っている。

彼女たちのこんなやりとりを、ごく最近見かけた事がある。作者自身のツイッターだ。
思った事は言いたい。でも、それが決して良い事でない事はわかっている。
人と競う事なんてせず、自分の事をしっかりやればいい。でも負けたくない。
オンラインでもオフラインでも饒舌な女性だが、特にオンラインとなると、ぽろぽろとそんな呟きを洩らしているのを見かけた。

作者は非常に朗らかで前向きな人、という印象を自分は持っている。社会慣れしている感とも言うか、対人関係の強さや巧みさも備えた女性なのだと思う。おそらくは秋吉がそうしてきたように、生来の性格を通す為に身に付けて来た技術でもあるのだろう。
だが、それらを「美徳ではないのではないか」と躊躇っている美和子のような彼女も、作者の中には同居しており、どちらも切り離す事などできず繋がっているのだ。

エロい。なんというか、ほぼ無修正だ。
こんなにも正直にさらけ出された恥部から、最後まで目を背ける事ができなかった。

(歳の話は言わぬが花だが)内に住まうそんな二人と作者は、相当に長く付き合ってきたのだろう。
新宿西口大ガード横のやきとり屋で、秋吉と美和子が時折諍いあいながらも仲良く飲んでいる姿を、きっと長く見守ってきたのだろう。
そして、自身の内面の二面性のせめぎあいを、臆する事無く物語にし、加えてとても前向きなエンディングで綴じて見せた。作者は本当に前向きで強い人なのだろう。
ひと息に読み終え、ほうと声が洩れる程に感服した次第だ。

加えて三作目の高校生の恋の物語は、二作目のそんな緊張感などどこ吹く風の、みずみずしい清涼感。
肩の力がすっと抜けて、満足の中で本を閉じられた。さすが。ナイスデザート!


発行:灯
判型:A5 30P
頒布価格:200円
サイト:
レビュワー:トオノキョウジ

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