Text-Revolutionsアンソロジー「再会」(2)

arasuji
第二回Text-Revolutions参加の88名によるアンソロジー。
テーマ「再会」

※過去の感想はこちら
 Text-Revolutionsアンソロジー「再会」

sanka

kansou
【捧げものは全て】緑川かえで(黒の貝殻)
前回のアンソロにも登場した彼らとの「再会」という意味もあるのかな、と思わせるトップバッター。今回も「主」は酷いですが、ギュスターヴとセレナーデにとってはそれこそが甘い蜜なんでしょう。

【再会して再開したら最下位にも届かなかった細話】こくまろ(漢字中央警備システム)一部わからない用語があったので家人に質問しつつ読みました。若かりし日の己を越える挑戦と情熱、と書けば格好いいですが、やってることはコレですからね……。今回も楽しませていただきました!

【一期一会で終わらせない】たつみ暁(七月の樹懶)
長編の番外編ということで、キャラクター紹介も兼ねた人物描写が活き活きしてて素敵です。エレ可愛いなあ。おいしそうなごはん描写も個人的にポイント高いです!水菜おいしいです水菜(そっち!?)

【マッチ】きと(be*be)
短い中にぎゅっと凝縮された人間関係、思い思われる矢印の行方。安達の「マッチ」描写が素敵。燃えるような恋だったのかな。噛めば噛むほど味が出るような掌編。これ好きだわー。

【おばあちゃんに会いに行きます】セリザワマユミ(トラブルメーカー)
前回に引き続き、創作と日常の境目が揺らぐ一編。そういえば私もとんとお墓参りに行ってないなぁ……。地元を離れてお墓参りの機会が減った今だからこそ、ちょっとチクリときました。

【再会の金太郎】トオノキョウジ(クロヒス諸房)
金太郎meets何だかいろいろ! ウージーと聞いて某機関銃を想像し、こりゃ悲劇の予感……と思っていたのですが、前妻との遭遇という予想を超えた悲劇(?)が! どうなる! 金時! じ、次回……あるの?

【硝子は飛べないから犬にはなれない】ハギワラシンジ(深海の記憶)
掴もうとしてはするりと指の間から逃げてゆく、そんな不思議な手触りの短編。楽園と老人、硝子と禁忌、それに触れた僕の変容と咆哮。天地創造とその終焉、なんてことを思いました。

【雪、観覧車、珈琲】久地加夜子(ふぇにどら!!)
観覧車。私も大好きです。ゆっくりと天地をまわるゴンドラに乗っている間は現実から切り離されたようで、元の位置に戻るその動きが、巡り巡るいのちの連鎖のように思えて。切なくてあたたかい、缶コーヒーの甘みが沁みる作品。

【たましいのゆくえ】まるた 曜子(博物館リュボーフィ)
SFだー!(万歳!)VRやビッグデータ、人格の複製というSFスキーホイホイの要素と、まるたさんの真骨頂であるドメスティックな関係性が両立していて、ぐっときました。彼女亡き今、彼女が誰であるかというのは、彼女ではなく彼女を観測する者が決定する。観測者を観測する者。それでも故人のこころは、たましいは、生きている者の中に残るんだなあ、と。

【明けない夜はない】 天海六花(アメシスト)
人間とリザードマン。何の偏見もなく、違う立場の者同士が互いに歩み寄れば……と、現実の諸々を思いつつ読みました。

【アプリコットスピネル】藤和(インドの仕立て屋さん)
ラストに、えええそうなるの!? と少し驚きました。石言葉がそんな感じなのかと思ったけど、そうでもなさそうな……。

【タイムカプセル】風城国子智(WindingWind)
静謐さが漂う物語は、まるで映画のようでした。人気のない早朝の廃校、明けゆく空をバックにシルエットだけが浮かぶような。名も思い出せないのに思い出だけがよみがえる、そのあたたかい気持ちが静けさの中に灯っているようで印象的でした。。

【ずっと待ってる】瀬古冬樹(とーとくるす)
幼なじみ、身分違いの子どもたちの慕情。ちょっとニヤニヤするくらいの王道設定です。大好きです。未来の再会を夢見る二人に幸あれ。

【君と『彼女』とひまわり畑】猫春(ばるけん)
太陽の色に染まるひまわり畑にハープの音色が響くとき、現れる「彼女」。友人は、「彼女」と「僕の中にいた誰か」を再会させるためのキーマンだったのでしょうか。南仏のくっきり色鮮やかな背景に、一人たたずむ僕の寂しさと残されたハープの音色が心に残ります。

【ララバイ・ブルーの幻】落山羊(ヲンブルペコネ)
藍子にとってはブルーの喪失が自身の喪失とイコールにも思えます。なくのが下手な藍子とブルー。再会と涙とふたたびの別れを経て、藍子が幼い日の傷にブルーという名の絆創膏を貼って少女を卒業する、ほのかな苦み。青系で統一された色彩が作品を彩ります。

【ゆめまぼろしのごとく】濱澤更紗(R.B.SELECTION)
擬人化小説は初めてです。擬人化にあたって、路線の長さや規格が考慮されているのでしょうか。詳しくないのでそのあたりはわからないのですが、擬人化という要素で、鉄道の歴史の移ろいがわかりやすく描写されていると思います。

【卵】海崎たま(チャボ文庫)
これすごく好きでした……! 愛ゆえに兄が与えた卵。愛は容易に憎悪に転じ、兄の愛たる卵を潰し、その殻を手にし眺める妹。ラスト一文が潔く美しく、どこまでも端整。

【君と君と僕と俺との間】遠藤ヒツジ(羊網膜傾式会社)
劇中劇のようでいて、どこまでが現実、どこまでが虚構、願望なのか一瞬ふっと揺らぐ瞬間が。誰かの信じる愛は無力、けれど虚構の中では枯れることなく咲き続けるのでしょう。

【出逢いと別れ、そして恩返し?】なな(7’s Library)
こ、この恩返しは期待していいのか悪いのか……。パリス君の受難体質からして、これはさらなるトラブル(?)の予感しかありません(笑)さっくり読めるライトファンタジー。

【旅先での一度限りの出会い】高森純一郎
前回のアンソロジーもそうでしたが、高森さんの人となりが伝わる、心のこもったエッセイ。いただいたものを、別の誰かに伝える、ペイフォワード。これは「彼女」への手紙でもあるのではと、そんなふうに感じました。

【遺書】つんた(みずひきはえいとのっと)
時間移民。本編未読なのですが、本来の歴史の時間軸から飛ばされた……というような解釈でいいのでしょうか。国王だったはずの彼が幼いながらにしたためる遺書、そしてワイン。どれにも詳しくないので私などが読むのは勿体ない!

【人差指】乃木口正(妄人社)
本格派ミステリ。四千字で殺人事件にチャレンジとは、すごいです。二回目を読むと、江川の心情が全く裏返って見える……! 多くは語りません、語れません!

【Still loving you. (会うつもりなんかなかった)】添嶋譲(言葉の工房)
おおお、添嶋さんのびーえる! という色眼鏡なしにしても、主人公の気持ちの熱、弾けそうなそれを言葉にした途端の急激な冷え、自覚、後悔と抉れた心のリカバリが切ない作品です。主人公がどこまでも透明な(=普遍的な)存在なのがまた哀しくて。でもタイトルがすべてを語る。

【再会小説【私の娘】】氷砂糖(cage)
超短編、掌編を主戦場とされている氷砂糖さんの真骨頂! 短い作品の魅力がぎゅっと詰まっています。小さな作品が集まって大きな作品になる、これすなわち宇宙の構造。さて、彼女にかける言葉は……月並みですが、「書いてくれてありがとう」かな。だからあなたに出会えたのです。

【七瀬君とモテと非モテの研究】柳田のり子(柳屋文芸堂)
あっあっ、七瀬君……! と外野から(後ろ後ろ!的に)呼び止めたくなるようなコメディタッチの短編。七瀬君の舞、見てみたいなぁ。
本編も気になります。代行お願いした私、勝ち組!(ドヤァ)(未読の時点で負けてる)

【春疾風、南より】凪野基(灰青)

【時告げ台の濡羽鴉】ろく(階亭)
前回のアンソロ掲載作のその後のお話。今回は鵺とのバトル! 自らの足を、戦闘力を、何よりの悦び、楽しみを奪った鵺との対決、悲壮さではなくて鵺を狩ることへの渇望が滲むところがたぎります。夜と血と硝煙のにおいの妖艶さ。

【ここから始まる】藍間真珠(藍色のモノローグ)
己の技量に自信があるからこそ、井の中の蛙状態だったことを知って受け入れ、戸惑うティット少年が素直で可愛いです。自らがゼロであることを知ったからこそのはじめの一歩。壮大な物語が感じられます。

【死神】雨宮小夜(色漆)
「私」は事故から生き延びたはずなのに、死に損ねた……というか、彼女に導かれ損ねた悔恨と、来るべき日を心待ちにするような期待感は、死の枠組みから外れたところへ至るのが自然なことなのかもしれません。なるべくして「私」は死に神になったんでしょうね。

【八月七日の夜に】汐江アコ(まりあ骨董)
か、可愛い……! そして甘酸っぱい青春ラブストーリー。私は七月七日が七夕の文化圏ですが、梅雨の最中のこと、雨・曇りばかり。八月七日は晴れて逢瀬の叶うことも、願いの叶うことも多いのかもしれません。

【カラフルクッキー☆スーパーイリュージョン】ひざのうらはやお(そりゃたいへんだ。)
放送部、校内放送を牛耳ってるんじゃ……? ひいては、学校を裏から支配してるんじゃ……? とうっかり思ってしまうほどハイテンションな学校放送。むしろラジオ。かなことリスナー(学生!)の再会、ということ……なのかな。

【彩会】紗那教授(教授会)
これぞ、ダイレクトマーケティング! ステマの三文字を鼻で笑うがごとき威風堂々たるマーケティングに、ただただひれ伏すしか。圧巻です。

【おしゃべりな女の子】瑞穂檀(チューリップ庵)
マリコがすごく可愛いです。健気で家族思いで、お人形だから言葉を発することはできないけれど、感情豊かで。だからこそ切なさがぐっと迫ってくるのでしょう。

【繰り返すは安易な終わりの類型】空想金魚鉢(MATH-GAME)
このダークで救いようのなさそうな歪んだ世界観、大好きです……! 長編のバックグラウンドなのでしょうか。兵器として消費される少女の無垢な祈りが、欺瞞に満ちた鈴音を苛む。本編があるなら、とことん救いのない、あらゆる希望や祈りや願いをねじ伏せるような展開希望です……!
(余談ですが、往年のラノベ「ブラックロッド」三部作を思い出しました)

【百年目の再会】野間みつね(千美生の里)
軍からマークされるほどの超能力者で不老の「俺」、決して幸せな人生ではなく、辛い思い出が積み重なる中から現れた、眩しく光輝くような青春の一コマ。「俺」の行く末が気になります。

【つがい】篠崎琴子(てまり舎)
美しい描写と、心をひっかくような傷が印象的な一編。この雰囲気、大好きです。甘やかな幻想をかたくなに守っていた少女、けれど現実は無情に、無常にうつろいゆくもので。幻想に拒絶された少女の悲痛な叫びがじんじんと響きます。

【はい、題名は、「再会」にしようと思っています、これがその】Pさん(崩れる本棚)
流れる、飲み込まれる、奔流、ライブ感と疾走感、疾風怒濤の連想ゲーム、思い出したかのようなトリビア、唐突なようで計算され尽くしたカウントダウン、甘いアイスコーヒーのように増してゆく密度、急速に収束する文字列は世界の終焉にも似て。

【嘘と箱】南風野さきは(片足靴屋/Sheagh sidhe)
エイプリルフールよりももう少し「嘘をついてもいい」が日常に溶け込んだ一日。哲学的なような、謎かけのようなことを言う少年(?)は切り貼りされたような非現実感で「ぼく」を困惑させる。嘘、というスパイスと小悪魔的存在の少年が独特の手触りを残すお話。

【夏風の向こうに】青銭兵六(POINT-ZERO)
都会に憧れ、地方から出てきた「僕」。厳しい現実に揉まれて心身ともにぼろぼろになった「僕」を、懐かしい光景が無言のままに受容する。両親の思い出、ボタンを押さないと開かない電車の扉。再出発のときはすぐそこに。

【自然光の貴婦人】森村直也(HPJ 製作工房)
地底都市から地上へ、そして美術館へ。暗いところから光射す明るい場所へ老婦人に導かれるうち、読み手と植村とが重ね合わされるようで、幼い心に憧憬と陶酔とをもたらした絵画との再会が、美化された思い出に彩られた初恋を反芻されるほろ苦さを経て昇華されるカタルシスを余すことなく味わえます。

【Re-Union In The Sky】綾瀬翔(skyparametric)
先の「繰り返すは安易な終わりの類型」にどこか似た設定で蘇り、敵対を余儀なくされるかつての恋人。恋人が羽をもがれ墜ちる悲しみを憎悪に塗り替えるその手口、立ち向かうエースパイロット・ホール。ヒコーキもの好きにはたまりません。そして、いつ聞いても交戦宣言はかっこいい。
(余談:次回以降のテキレボでエースコンバット二次小説とか再録発行したら欲しい、って方いらっしゃるでしょうか……)

【勿忘草 ~My good old sound~】蒼井 彩夏(風花の夢)
前回アンソロと同じく、魔女ソフィアが人々の記憶を優しく揺り起こすシリーズ。創作もですが、芸事は始めたての真摯な情熱を忘れないこと、重要ですよね。小手先のテクニックや増長、手抜きを覚えるとすぐダメになってしまう。自戒も込めつつ。

【平和なら笑っていられる今宵なら六等星も綺麗に見える】笠原小百合
月のない夜の暗さ、満天の星空、街灯に照らされる表情豊かなミホ。情景が易々と想像できるがゆえの、キュッとする青さが懐かしい。ささやかな小さな彼らの世界、その平和がいつまでも守られますよう。

【土中からの色】江間アキヒメ(【日本史D】編纂部)
(歴史詳しくないので、ウィキペディアさんにお世話になりつつ)これはもしや、にわかに話題の日本住吸血虫の事案……? 史実を下敷きにしつつ、真相は(まさに)闇の中といったホラー仕立てになっています。ラストシーンも、果たしてそれは……と、いい意味でのモヤモヤが拭えません。

【僕の上司と先輩】真乃晴花(Natural maker)
今回もやらかしてくれます、副長官。ルーとのやりとりは高度な論理戦のような、単なる屁理屈のなすりあいのような。ハーリィのぽわんとした明るさと苦労人気質ににやにやしてしまいます。

【遠き日に、白はいざなう】耀華(旅人たちの紡歌)
剣の勝負で勝ち逃げされたかたちのウェルバーニア。魔力判定会議で選抜され、特殊なのは自分だと思っていたのに、そこでも選ばれたのはフーリエスで、若さゆえの自信過剰がもたらすその悔しさと羞恥。それをばねに約束を果たし、再会を遂げた二人を照らす陽光の清々しさ!

【ある画家、あるいは精神の渇き】山本ハイジ(ikuraotome 出版)
冒頭の一文がすべてを表しているような、創作活動が持つ暴力的なまでのパワーに唸る一作。妖艶な魅力を持つ影次は、妻の喪失を埋めるばかりか、画家としての「わたし」の転換点になるのでは。そんな昏い予感を秘めた物語。

【恩返し】高柳寛(KK FACTORY)
ニヤニヤしてしまう面白さ。「おっさん」のキャラがインパクトありすぎて、たかしじゃないけど目が離せません。これがラノベのヒロイン系美少女だったら、たかしはどうしたかなあ(笑)

【のぼりさか】ゆみみゆ(愛的財産)
冒頭の一文から引き込まれました。雪の背負う決意と後悔、そして過去。その重さに負けぬほどの疾走感、痛いほどの切実な願いに、感情移入しながら読んでいました。山頂を越えて、そこで雪と翔が出会った物語の結末も素敵。

【小さな食堂にて】藤堂美香(白玉)
長い時を生きる語り部と人とのラブストーリー。登場人物のネーミングもあってか、描写が色鮮やかです。常葉と蘇芳のラブの傍らで、時雨と珊瑚もラブいように思えたのは私だけでしょうか……。

【春の灰】望月あん(border-SKY)
地の文が端整で艶やか。静謐で乾いているのにどこか官能的でもあって、有機的なのに無機的な……たとえば「骨」のようなイメージ。桜の終わりかけの季節だというのに、すべての色が褪せたように感じられました。兄の喪失による主人公の心象ゆえでしょうか。そして、主人公がねえさんのことを密かに想っているように読めてしまったのですが……。

【そこに在った風景】谷町悠之介(ナキムシケンシ)
MMORPGは遊んだことがないのですが、煽られ罵られ嘲笑されても初志を貫く主人公がカッコイイです。なかなかできないですよ、これは。

【太陽になんてなれなくても】前転リネン(リンネルフランネル)
気になっていた元クラスメイトと兄が結婚、というだけでもショックなのに離婚の知らせを聞いて動揺しないはずがないですよね。趣味を趣味として続けること、偏見を偏見と認めること、その勇気。

【奇譚・夢守人黒姫 再会の桜】服部匠(またまたご冗談を!)
既存作の番外編ということで、世界観やキャラクター紹介、アクションシーンまでがぎゅっと詰まった一作。黒姫と青子の一筋縄ではいかなそうな関係もすごく気になります……!

【秋子さん】にゃんしー(おとそ大学パブリッシング)
校舎に四角く切り取られた空、灰色の思い出の中にあって、秋子さんだけがくっきりと鮮やかな印象で描かれる。主人公にとって秋子さんは安全地帯だったんだろうなあと思います。モラトリアム、そろそろと様子を伺うようにおとなになってゆく少女たちの繊細な、ときに狡くもあるいっとき。

【美少年興信所~語りかける我ら・抄~】鳴原あきら(恋人と時限爆弾)
衝動を押し込めた悪ふざけ、だったはずが、思いがけぬ再会と、満潮音に導かれるようにして開かれてゆく新しい扉。知恵蔵の鬱屈した思いが青春に、情熱に形を変えていく。何か新しいことをしたいとうずうずするような作品でした。

【まほろば町保育園】アヤキリュウ(ここち亭)
アズサ先生の失言、大地先生とお残りのチサちゃんとの交流。一度読み終えてほろっとしながら読む二回目の味わいがとてもとても、いい。チサちゃんの「だいち先生もまだ遊びたいの?」など、二回目だからこそ刺さってくる仕掛けがたくさんです。

【かぼちゃのタルト】青波零也(シアワセモノマニア)
おいしいものを食べたときのように、思わずニヨニヨしてしまう作品。おいしいもの好きなアキの作ったかぼちゃタルト、おいしいに決まってます! 甘味が彩る甘くて爽やかな短編。

【ナイス・トゥー・ミー・チュー】ムライ タケ(そりゃたいへんだ。)
うっかり死んでしまったタカハシ。完全に死んでしまう前に誰か一人にだけ挨拶をすることができるが、挨拶をしたい人もすぐには思い浮かばず……。タカハシの生きざまはともかくとして、その思いが昇華されゆくラストシーンはすごく素敵。ハムスターは助けられなかったけど、空を見上げる子どもらの幾人かを、彼女は救ったのかも。

【あの時負けた】迫田啓伸(侍カリュウ研究所)
高校野球もの。まさかの敗北と再戦、グラウンドに立つ前の、「素の」高校球児たちの交流。熱くて爽やかな一編。

【再会】庭鳥(庭鳥草紙)
ジャパネスクはむかーーし読んだ記憶があるけどほとんど何も覚えてません。それでも、氷室さんの軽妙な文体が懐かしくなるような、朗らかでやさしい瑠璃姫の語りでした。随所に見られる、歴史物の書き手さんらしい表現が上品で新鮮に感じられました。
余談ですが、「筒井筒の仲だった」、そう、筒井筒は正義。

【医者は白衣を着ていた(【零点振動】番外編)】宇野寧湖(ヤミークラブ)
長編サイキックミステリーの番外編とのこと、こ、これは本編が気になります。クールでハードボイルドな切り口、甘すぎず、けれど含みをたっぷり持たせた羽鳥と槇の関係性。こんな、「天才肌の精神科医」に「君の病理を分析するぞ」なんて言われてドギマギしない人がいるでしょうか!!

【三日月の夜に。】伊織(兎角毒苺團)
猫又の登場あたりから、「すこしふしぎ」かな、と思っていたら「とてもふしぎ」でした。謎の生命体(麒麟……?)、五年後の再会と恩返し。天変地異を目の当たりにしてのあの落ち着き、語り手さんもただ者ではないとお見受けしますが、明けぬ夜はなく、世界は凪へと巡っていて、ふと肩の力が抜けるような気がしました。

【薔薇が運んだ幸運】kiyonya(招福来猫)
人魚の国、という設定に心惹かれます。両親の不仲に心痛めるジタル、ふとしたきっかけで出会った人魚の王子ピート。ジタルがピート王子の話し相手に、という幸運は、きっとジタルの誠実な生き方に対するご褒美だったんでしょう。本編はBLとのこと、これはきっと甘くていいお話……!

【ご冗談でしょう、ラインズマンさん】わたりさえこ(ナタリー)
不条理と難癖の連鎖。スミス、ラインズマンという名詞は、この不条理が誰にでも当てはまるものだと思わされますし、実際こういうこと「あるある」ですよね。そんな負の連鎖を断ち切るのは……。読後感爽やかな一編。これも大好きなお話です。

【明日また再会しよう】姫神雛稀(春夏冬)
年若い起業家、学生ベンチャーならではの熱気と貪欲さむき出しの夏文と、そのストッパーながら内心はよく似た彩斗。でも、パーティで再会した瑠知の扇情的なファッションに焦る彩斗は「おとこのこ」という感じがして可愛いです。前途洋々な若者たちの、煌びやかな夜。

【300 字SS】桂瀬衣緒(SiestaWeb)
ついのべほどストイックではなく、けれどテクニックを要する300字短編。序破急、というか、短い物語ゆえの展開の小気味良さ、キレとオチを楽しめる5編。

【オパールグリーンの、たちまち】月洛(un-protocol net)
眠る前と後での自己の連続性、考えたことあります。考えたところでどうしようもないと諦めましたが……(低スペック)白くてふわふわのと過ごす不思議な数日。もしかしてこの白いのは、平行世界の自分を乗り換えるためのものなのかなあとぼんやり。

【迷子と精霊】せらひかり(hs*創作おうこく。)
訳ありさんの旅路。演出がハリウッド級のメリンダがカッコイイです。一度死んだというベリルの苦労性は元からなのかメリンダのせいなのか……。番外編とのこと、本編が読んでみたいです。

【ふたたび、学び舎で。】呉葉(えすたし庵)
娼館の町で女装して暮らすエマ。見事に順応していると思いきや、内心は野望と希望にあふれ、どうにかして自分の力で生きたいと願っている。合理的で頑張り屋さんのエマにエールを。あっ、洒落じゃないですすみません。長編の親世代の子供時代とのことですが、彼らのお話でもどんぶり飯いけそうな気配がします。

【熱煽る風】水城翼(葱文庫)
うだるような熱気の中、昔馴染みの面々とタイムカプセルを掘り返すことに。空白の時間を経ての現状、けれど変わらないノリのやりとり。タイムカプセルに入れたものを手に、友だちと騒ぎながらも再発進のための起爆剤を得たような、静かな熱を感じる作品でした。

【いたいけなぼくとおねえちゃんのおゆうぎ】世津路 章(グルメアンソロ(仮)とこんぽた。)
前回アンソロのふんわりほっこり路線とは真逆のテイスト。引き出しの多さに脱帽です。読みやすく、すらすら読めてしまうがゆえに、一気にラストシーンまで転落してしまうというか、もう戻れない絶壁を感じます。さあ、たのしいおゆうぎの時間。

【百万回のおはよう】八坂はるの(てまり舎)
冬眠し、春の訪れとともに目覚めるゆすると、彼のことを憎からず思うふさこ。ひねくれた思いもまっすぐな思いも、ゆするにとっては春の陽射しに似たものなのでしょう。幻想的で可愛らしい短編。

【電波の届かない街】かわいたかき(砂色オルゴール)
いかに文明の利器に、スマホに頼り切っているか自覚しつつも、スマホなしの生活はもう考えられません。電波障害が回復した途端に息を吹き返す町の様子は、まるで電波こそが命であるかのよう。

【二回目の再会】高麗楼(鶏林書笈)
史実が物語風の解説を伴って語られる、まるで歴史番組を見ているような作品。こういう、地味だけれど密なつながりを示すような、知られざるできごとがもっともっとあるのでしょう。

【あいをこめる】小高まあな(人生は緑色)
愛。「I」、アイデンティティ。それはあるか、そして必要なものか。作中ではアクセサリー作りだけれど、どんなものづくりの世界でも共通ですよね。普段は意識もせず、なあなあになりがちなことを柚香が鋭く問いかけてきます。

【ゆめの境界線】ほた(月兎柑。)
戦死した人々の無念が、子どもの夢になって現れる。ソラとホトの場合は無念といっても、恨みつらみや怨嗟ではなくて、戦友を思う気持ちのように感じました。だからこそ、幼馴染みという近しい間柄で生まれ変わることができたんじゃないでしょうか。

【ラジオと青年】行木しずく(空涙製作所)
蛍石ラジオ、いわゆる鉱石ラジオというやつでしょうか(原理よくわかってません)、蛍石の光る性質を備えたラジオって、そのアナログな感じも含めて素敵ですね。フリマでの運命的な再会、蛍石ラジオから聞こえてくる声。激務で消耗した心に寄り添う温かさ。

【いちばん長い、あの夏の日のこと】堺屋皆人(S.Y.S.文学分室)
心をなくした男と、まるで鏡写しのような存在の男と。失った心の空洞の奥へ奥へと進んでいくかのような、狂気に近づくがゆえに、それとは紙一重である正気に見紛うような。そして赦しと解放。考えれば考えるほど、恐ろしい作品。

【日差しに融ける】小野秋隆(蕪研究所)
陽炎がたつ、うだるような暑さとほのかな憧憬を捧げた少女の喪失。はっきりと描写されていないからこそ残る、ざらりとした「融け残り」のような感触が雪美の未練に重なるよう。東京、その賑わいと複雑に絡み合う道路、猛スピードで行き交う車は、ひとりの少女を飲み込むには十分で。

【彼女の世界は壊れた時計】なんしい(押入れの住人たち)
ごちゃごちゃにもつれた時間を生きるミティカ。正解を選ぶまでの無限回の試行、そしてループ。死ぬことさえも不正解、ただ前に進むだけに思考と出会いを重ねるミティカの明るさが切ない。
(余談:「オール・ユー・ニード・イズ・キル」映画版、大好きです。原作未読ですが)

【終わらない晩餐、進む秒針】とや(さらてり)
上機嫌で大量のご飯をつくる彼女と、何やら気の進まない様子の「俺」。互いにプロとして人生を全うするカッコよさと、その裏返しの無常感が独特の味わい。

【さねかずら】かなた(そりゃたいへんだ。)
夏の日の陽炎のような幻想的な一編。祖父のさねかずらを手入れする葵、祖父を訪れる、あちらとこちらのあわいにいるようなこども。これからもきっと仲良くできることでしょう。
(余談ですが「そりゃたいへんだ。」さんにはどれだけ個性豊かな書き手さんが所属していらっしゃるのか……!)

【午後十時】緋臥 灼(春夏冬)
これが二時間前じゃなく二十日前くらいに書かれていたとしたらすごいのですが(笑)ともあれ、間に合ってよかった。

【星の彼方より】轂 冴凪(うずらやの小金目倉庫)
ハイテクとローテク(?)。宇宙の先の先まで旅するほどに技術が進んでも、地球ではラーメンを啜っている。ラーメンを食べに宇宙から帰ってくるひとがいる、生活と科学技術の近さに、SF好きとしてはグッときます。

【昼の相席】斉藤ハゼ(やまいぬワークス)
あの日のその後。前回アンソロの続きで、非日常が日常に薄められつつある日の偶然。毎日生きてきたはずなのに、いつの間にか時間が経っていたことに対する置き去り感、ネットで得られるたくさんの情報と実際に会うこと、見ること、体験することの差異。そしてそんな今日も昨日に積み重なっていく、けれど揺れる感情はそのとき限りのライブ。

【小さな喫茶店での奇跡】色水良子(春夏冬)
喫茶店の常連さん。まさかのエンカウントにあわや……! でしたが、雨降って地固まるというか、終わりよければ全てよしというか。コーヒーショップではなく、喫茶店だからこその出会いが微笑ましいです。

【二十年ぶりの再会】小稲荷一照(かんだ紅茶倶楽部)
紅茶、飲むけど私の場合、水分と牛乳の摂取でしかないので(もったいないからTBしか飲まないですよ)、ちゃんと知識のある方が羨ましいです。趣味は趣味として、懐かしい味を楽しむ。……ほ、ほうじ茶?

今回もバラエティ豊かな作品に唸ったり悶えたり萌えたり、楽しませていただきました。
イベントはもう終わってしまいましたが、次回開催が待ち遠しいです。

今回のアンソロ、とても分厚いのでつまみ読みされる方もおられるかもしれません。そんな方にも、通して読んでいらっしゃる方にも、「こんなふうに読んだよ」というのが伝われば幸いです。

data
発行:Text-Revolutions
判型:A5  480P
頒布価格:1000円
サイト:Text-Revolutions
レビュワー:凪野基

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