私と僕の異世界旅行記~猫編~

 じーっ。
 そんな効果音がつきそうだ。
「……空鵝くうが
「ん? なに、舞弥まいや
 声をかければ、やっとその視線が外れてこちらを向いた。そのことに覚えた優越感を無視しながら、再び声をかける。
「いや……なんでそんなに見てんの」
 思わずそう言ってしまったのも無理はないだろう。空鵝が見ていたのは猫だ。どう見たって猫だ。確かに舞弥達は異世界から来たが、元の世界にもいたような生き物だ。どこかけだるそうな視線でこちらを見る生き物は、舞弥の知る言葉では猫と呼ばれていた。
「僕、この生き物初めて見たんだよね」
「はあ? 猫を? 元の世界でも居たじゃん」
 へーねこって言うんだ、なんて暢気な言葉。
 思わず呆れた声が出そうになって、飲み込む。なんで猫を知らないのか気付いたからだ。
 話によれば、空鵝は元の世界で幼い頃から「実験材料」として捕らわれていたらしい。事実、舞弥と出会ったのは、人体実験を行っている施設だったし、空鵝は異常なまでに常識を知らなかった。
(こいつって猫を知るよりも前に、つまりかなり小さい時に、あいつらに捕まったってこと……)
 思わず眉間にしわが寄る。同情するつもりはないが、それでも空鵝を捕まえたであろう大人に対して、怒りがわいたのも事実だった。
 が。
「あ、猫ってにゃーって鳴くんだねー」
 なんてへらへらと笑われるものだから。
 思わず溜め息が出たのも仕方ないだろう。
「あんたねえ……」
 頭痛がした気さえした。なんかこいつのことで悩むのが馬鹿馬鹿しいと思えてきた。もう良い。こいつの過去に関して考えるのはやめよう。
「あ」
 空鵝の声にその視線を追えば、先程まで視線に耐えていた猫が、とうとう耐えきれなくなったのか、すたすたとどこかに行ってしまった。
「あーあ、残念。触ってみたかったなあ」
「……猫って警戒心強いから、難しいと思うけど」
 そうなの、と名残惜しさを微塵も感じさせずに、こちらを向いた。
「それにあんただと、力の加減間違いそうだし」
 仮にも人外。今までも何度か見た。その力を。人間とは違う、恐怖を抱くほどの力を。
「大丈夫だよ」
 するりと、手を握られる。
「ほら、ちゃんとこうやって、手を繋げられる」
 そう言って笑った空鵝の瞳は、らしくない程に優しい。
「~~っ!!」
 声にならない悲鳴を上げ、手を振り解くと、背を向けて歩き出した。
 まいやー? なんて暢気な声が聞こえる。だが、振り返ってなどやるものか。
(なんで、手を握るなんて、そんな。それにあんな表情、初めて。それだけで、それだけで)
 思わず歩みが速くなる。
(顔が熱いだなんて、嘘だ!)
「舞弥って猫みたいだねー」
 そんな声が少し遠くから聞こえた。
 未だに理解できないくらい、自由気ままあんたにだけは、言われたくない!


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執筆者名:黒塚朔

一言アピール
黒塚朔(くろつかさく)と言います。普段はいくつかの世界観で、異世界ファンタジーなNLをメインに書いてます。読みやすく、楽しめる小説を書くことを心がけています。少しでもそう思っていただけたら嬉しいです。

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