チーのはなし

 モーニングで「チーズスイートホーム」という猫漫画がはじまってしばらくのことだった。私は、私だけのチーに出会えた。
 漫画のチーと同じ柄のその猫は、当時は飛び込み営業の仕事をしていた私が、営業をかけたペットホテルで保護されていた。
 なんでも大雨の日に道端で雑巾みたいになっていた子猫を見つけて保護していたのだという。ペットホテルという性質上、売り物のケージでそのまま飼うわけにもいかず、拾ってしまったものの困っていたところだったらしい。
「うちの子、十九歳まで生きたんですよ」
 先代のチロのことをそんな風に話したら
「猫って十九年も生きるんですか?!」
 お兄さんにすごくびっくりされた。そしてその瞬間、お兄さんの中で「こいつがこの猫の飼い主だー!」と決定してしまったらしい。
「この子! この子をお願いします!」
 チロを亡くして一が過ぎようとした頃だった。ペットロスもようやく抜けてきた頃になって、チーは私の家に来ることになった。

 チーは、チロと比べてみても同じ猫科の生き物なんだろうかというくらい性格の違う、大雑把な猫だった。
 チロが気位の高い神経質な猫であったのに対し、チーは甘ったれで何もかもが適当な猫だった。
 チロは毎日、丹念に自分の体を舐めまわして毛づくろいをしている毛並みの整った猫だった。触り心地もトロトロのツヤツヤの猫だった。
 それに比べて、チーは毛づくろいというものを殆どしない猫だった。背中部分の毛皮には、私がうっかり零したらしい飲み物が乾いてガビガビになっている部分があったりした。
「お前、猫なんだからもうちょっと綺麗にしようよ、ねえ」
 ブラッシングをしながらチーに文句を言ったことがある。

 お鼻とお鼻をくっつけてお鼻ちゅーが二人のご挨拶だよって教えたら、一日一回必ず自分からお鼻ちゅーしようようとねだりに来る猫だった。
私がベッドで夜眠るときは布団の中に必ずもぐりこんできて、一緒に腕枕して眠りたがる猫だった。朝は目覚まし時計のアラームで、一人と一匹は同時に目を覚まし、私が布団の中でで大きな伸びとあくびをすると「息臭いよー」って感じで前足の肉球を私の唇に押し付けてくる猫だった。
寝室のある二階からリビングのある一階に、お互いの顔を見合わせながら、一段一段下りるのが毎日の日課だった。
 手のひらサイズの熊のぬいぐるみを投げてあげると、走ってくわえて持ってくる犬みたいな猫だった。チーもこの遊びが好きだったみたいで、遊んでほしくなるとぬいぐるみを加えて私の前に置いてきた。
「投げてー」
目で、そう言っていた。
おかげで一時期は、朝起きると私の枕元には丸めたティッシュやピンが取れて使えなくなったブローチなど、ガラクタばかりがお供え物のように置かれていた。
「なんで投げてくれないのー」
 不思議そうに顔を覗き込まれたこともあった。

 私が猫を飼い始めたのが実家にばれてからは、チーは私の家と実家を往復する日々を送るようになった。元々猫好きの両親だったので、結局チーは実家にとられてしまった形になってしまった。
 チーは実家でもやんちゃで考えなしの猫だったらしい。
「あいつ、お風呂に飛び込んじめえやんの」
 父がゲラゲラ笑いながら話してくれたことがある。父が風呂に入ろうとして風呂の蓋を外したところ、背後から走ってきたチーがそのまま湯船に飛び込んでしまったそうだ。びっくりしながら湯船の中で泳ぐチーを救出してバスタオルで拭いてやって、ひと騒動だったと笑いながら話してくれた。

 そんなチーという猫は、二年でこの世を去った。もともと腎臓に障害があった猫だったらしい。水ばかり飲んで様子がおかしいと両親から連絡を受け、連れて行った動物病院でもってあと一週間だと言われた時は目の前が真っ暗になった。
「もう、猫なんて飼っちゃ駄目よ!」
 母はヒステリックに叫んだ。言われなくてももう猫なんて飼わないよ。再び迎えることになったペットロスに私はうちひしがれてしまった。

 チーの存命中に戯れに撮ったチーの写真の存在に気付いたのは、悪霊騒動からしばらくたってからのことだった。私はsさんに写真を見せた。
「ねえ、なんでこの写真のチーはこんなに光っているの?」
 出窓に敷いた座布団の上で寛ぐチーの写真は何故か白く光っていた。
 何かの光の加減なんかじゃない。明らかに発光していた。
「悪いものじゃないよ。守ってくれてたんじゃないかな」
 sさんは静かにそう言った。
「守ってくれてたの? 私のことを悪いものから守ってくれてたの?」
 悪霊やらなんやらから、チーは私を守ってくれてたということなんだろうか。
「私のせいで死んじゃったってこと…?」
「私のせいって言い方はやめなさいよ。小動物との縁は、その人を守護するためにやってくることなんだから」
 わー、また変なこと言ってるよこの人―。こわいよこわいよこわいよー。
 けれど。
 チロもチーも、私を守護するためにやってきたってことなんだろうか。
 だとしたらチロもチーもありがとう。またどこかで会えたらいいな。

 また猫と、ご縁があったらいいな。

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執筆者名:セリザワマユミ

一言アピール
「初めてのパワーストーン」「おばあちゃんに会いにゆきます」の続きです

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