農業法人で働いていまして。体力的には大変なところもありますが、お給料もそこそこ貰えますし、基本的にはシフト制なので収穫の最盛期以外はわりときっちりお休みも取れるし、おかげで興味の赴くままあちこちに出かけられるわけなのですが。
 で、ときどきイベントなんかをやってましてね。その時は職員総動員なんですね。先週末に「もっと野菜を食べようキャンペーン」の一環として、小学生対象の料理教室が企画されたんですよ。
 イベントごと自体は、もともとこういう華やかなのは好きですし、裏方頑張るぞー、って思っていたんですけどね。
 講師役つとめる予定だった人が、当日、熱発ダウン。
 急遽、誰が講師役やるんだーってなりまして、くじ引きで負けました。慌ててレシピと手順を覚えるというね! まあ私の場合は、イヤフォンマイクでサポートしてもらうという裏ワザが使えるので、包丁や火の取り扱いと、あと喋りが無難に出来ればオッケィかなあという目論見もありました。結論だけ言えば、まあなんとかやり遂げることができました。
 ちなみに献立は、「しろごはん、具だくさん豚汁、ほうれん草の胡麻和え、みかん」という豚汁定食。うん、簡単だね! 献立とレシピ自体はうちの法人のサイトに掲載しているものの一つで、資料としてそのデータを配ったんだけど、メニューを見た保護者が「給食みたいですね!」と大盛り上がり。小学生たちに、キミたちがお父さんお母さんに作ってあげたら懐かしんでくれるよ、と言ってあげたら、目を輝かせて「すげー!」と叫ぶ子、データタブレットを持ってぴょんぴょん跳ねる子、にんまり笑う子、と表情はさまざまだったけれど、わくわくしてることはすごく伝わってきた。じゃあ私も張り切って講師をしちゃうぞ、と。そう思ったわけです。
 と、一組の親子に目が留まったんです。
 タブレット端末を覗き込みながら、何やら不安そうな顔のお父さんと娘さん。娘さんは低学年かしら。お父さん、めちゃくちゃきれいな人で、娘さんもお人形みたいで、親子揃って異国情緒みたいなものを感じたので、話しかけてみたんです。「どうかしましたか?」と。外国人の方だったら慣れない献立で不安なのかな、とか、宗教的に使えない食材が入っていたかな、とか。
 そしたら、その親子、というかお父さんがアウェインの人だった。
 アウェイン、話では聞いたことがあったよ、もちろん。し、新聞だってちゃんと聞いてるんだからね! でも実際にお目にかかったのは初めてで、あーホントにきれいなんだなーって、失礼かもしれないけど思った。遠い昔に宇宙人に連れ去られて、その星で種を紡がれてきた人たち。近親相姦に陥って種として終わりそうになるとまた地球から人を連れてきて外の血を入れてって繰り返されて。数十年前に宇宙移民としてアクセスしてきて、交渉で人権を獲得したっていうのは一応世界史で習ったような。
 壮大な時間の流れに一瞬眩暈がしたけど、少しお話したら、「このメニューに馴染みがない・こういう教室みたいな環境に馴染みがない」というのが主な戸惑いのようで、豚汁定食は食べてみたいそうだし、この近くに住んでいるから教室に参加したとのことで、ちょっとアシストを手厚くやればクリアできるかな、と考えたよ。なんだ、普通の人じゃないか、と。ちなみにうちの野菜を贔屓にしてくれてるらしい。ありがたいことです。お父さんには「娘さんが受講者なので調理には手を出さないこと」、娘さんには「他の子と喧嘩しないこと」を約束して、職員にもこういう親子が来てると伝えました。娘さんは小学校に通ってるからか、そこまで戸惑いはなかったみたいです。お父さんが不安そうだから共鳴して不安になっていたみたい。
 さて、そうやって教室を始めたわけです。
 調理を始める前に、献立の栄養素とか野菜の育て方や旬について喋ったのだけど、イマドキの小学生ってきちんとしてるのね。ちゃんとこっちを見て話を聞いてくれる。私の小学生時代ってどうだったかなあ。ただ、真剣に聞いてくれたおかげでもあるのだけど、視線が私に集中していて緊張してしまったね。「もっと大きな声で喋ってー」とかも言われました。反省。話す内容は、本来の講師役が作った台本があったのでなんとか。ちょっとだけ間違えたけど、うまく誤魔化せました! ダメじゃん!
 炊飯器をセットしてもらってから包丁とか火を使う調理に移りました。豚汁の材料は先に全部切ってしまうようにしていたんだけど、えっそんなに大きく切るの、とか、わぁそんなに刻んじゃったか、とか。そういえば包丁の扱いが危なっかしい子はいなかったな。家でみんなお手伝いとかしてるのかしら。アウェインのお嬢さんもしっかりした包丁さばきで。
 豚汁をことことやってる間に胡麻和え。すり鉢とすりこぎを初めて見たって子も多かったみたい。班の中で役割分担をするように組んでいたのだけど、胡麻すりは全員がちょこっとずつやってました。すり過ぎて胡麻がペースト状になっちゃった班もあったのはしまったなあって思った。茹でて切ったほうれん草を和えて、胡麻和えは完成。だいたいこのくらいで豚汁が煮えるって台本に書いてあったけど、どんぴしゃでした。味噌を溶いて、盛り付けです。親子ごとにテーブルで食べてもらいました。
 受講者親子が食べている間に、私たち職員は調理場の後片付けに入ります。私は「アンケートを送付して」とイヤフォンマイクに小声で呼びかけて、受講者のタブレット端末にアンケートフォームを送信してもらってから本格的なお片付けへ入りました。お子さん向けと保護者向けの二種類のアンケートだったのだけど、どんどん回答が送信されてきました。
 細かい集計は後にして、アウェイン親子のものを読み上げてもらうと、お子さんからは「ちょっと難しかったけど美味しかった」、お父さんからは「野菜で満腹になるいいレシピ、娘が楽しそうでよかった、今度家で娘に教えてもらいながら作ってみたい、みかんが甘かったので購入したい」と好感触。他のアンケートでもみかんが好評みたいだったので解散に間に合うように販売スタッフに準備してもらったけど、肝心の……豚汁……あんまり言及されていない……。
 食べた食器の片付けは保護者含め受講者全員でおこなってもらって、最後にお子さんたちを集めての写真撮影で、プログラム、全て終了です。受講者が帰って行くのを見送っていたのだけど、アウェイン親子は別の親子と何かを喋りながら教室から出て行かれました。その顔はとても和やかで。お友達の輪も広がっていけばいいな、なんて思いましたのよ。
 そしてみかん。
 料理教室の帰りに購入する方がめっちゃたくさんいらっしゃって、凄い売上げになったんだそうです。……豚汁……っ!


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執筆者名:氷砂糖

一言アピール
普段は五〇〇文字小説で純文学カテゴリに出展していますが、今回はSFカテゴリにお邪魔します。アンソロ掲載作も収録したゆるいSFの連作短編集を頒布予定です。架空の体験レポ集です。SFはの読みは「すこしふしぎ」です。よろしくお願いします!

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