ぎょくおん(2)

arasuji
共依存めいた関係にあった姉から逃げるように東京を離れ、
さびれた温泉街の旅館で住み込みの仕事を始めた男・郡司。
いっさいの連絡を絶ち一年になろうとしていたが、心は吹っ切れない。
また、常用している薬の副作用による乳汁分泌に悩まされ、
消極的な死に憧れを見出していた。
ある日、姉とそっくりな少女と出会い、郡司はひどく混乱する。
「あれは姉の生霊だ。おれの戦争はまだ終わっていなかった」
妄想を克服しようとするうち、旅館の社長の姪・七美から秘密を打ち明けられたり、
同僚・アランと関係したりする。
やがてゲンバクよろしく、郡司に降ってきた圧倒的な痛みとは──。

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※男性の母乳、同性・異性間の性行為に関する描写を含みます。直接的・詳細な性表現はありませんので、年齢制限は致しません。逆にそういったえろすを期待して読むとがっかりすると思います…。

(第4回Text-Revolutions Webカタログより転載)

※過去の感想はこちら
 ぎょくおん

kansou
ジャンル:オカワダというか、オカワダ文学でした。
文学でした……。
私はこれをセンター試験に登場させて国語の試験を受ける全受験生を混乱させたいです。
掘り下げようと思えばいくらでも掘り下げられるような気がするんですよね!
少女とは何だったのか、ロバの耳の穴とは何だったのか、くらげとは何だったのか、いろんな方とそれぞれの解釈を語り合いたいなと思いました。

お恥ずかしながら、私は最初タイトルと冒頭の雰囲気の場末感(温泉街のみならず代々木上原も!)から本当に戦時中のお話なんだと思い込んでいたんです……。
スマホ(しかもLINE)が登場するので、現代日本のお話なんだということが分かるのですが。
でも、郡司の生きている世界は、現代日本でありながら、戦時中の荒廃した日本を連想します。
戦中の軍国主義的な風潮でもなくて、戦後の復興していこう!みたいな暗さの中にポジティブがあるような日本でなくて、太宰治的な、おれはもうダメなんだ~的な、退廃的な戦時中です。
温泉街のさびれた感じもそれに拍車をかけています。
ゲンバクの投下、わかる……。これはもうどうしようもなくとどめを刺された。これ以上戦えない。
まさかコンセントの中の死がこんな形で降り注ぐとは思っていませんでしたけれども。

郡司自身はものすごい静かな人なのに、いつもバクダンが降り注いでいるように感じられるのも、彼の中には本当はもっと熱く激しい感情があるのかも、もしくはもっとすごく『やられている』感じが彼の中にあるのかも、とか、いろいろ考えます。

あと、冒頭のロバの耳の穴に来た女性といい、姉さんといい、郡司のお母さんといい、七美のお母さんといい、母一人子一人の組み合わせがいっぱい出てきたのも面白いな~と思いました。
ここは私の勘繰りすぎかもしれないけど、姉さんと郡司の関係も母一人子一人に近いものを感じます。姉というより、母親みたいだな~、と。きょうだい愛でも恋愛でもない、かといって絆とかいうチープなことばでも表現できない、姉さんと郡司の関係は、近づきすぎたお母さんと息子の関係に近いかな~、と思ったりしました。

追記。
アランの牧師のバイトが生々しすぎて笑いました。
しかもこんなノリでセックスするアランが結婚の誓いを立てさせるのか……と思うと世の中の仕組みって不思議ですよね。

data

発行:ザネリ
判型:文庫(A6)162P
頒布価格:400円
サイトオカワダアキナ
レビュワー:清森夏子

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