2020年12月23日 / 最終更新日時 : 2020年12月22日 anthology_ex2 EX2 Webアンソロ「手紙」 棕梠の姫 そのコンクリートの塀を城壁と呼んでいた。広い広い敷地を囲って、高さもあり、壁の上には有刺鉄線が張り巡らされいかめしい。書道教室の行き帰りにいつも通る道で、城壁の作る影は湿っていた。苔が生え、蟻や蜘蛛が這っていた。蟻を目 […]
2019年9月12日 / 最終更新日時 : 2019年9月12日 straycat 第9回Webアンソロ「imagine」 三、四人立ち いつかの正月、獅子舞は神社を練り歩き、見物の子どもたちを順に噛んでいった。おれだけ噛まれなかった。となりにいた姉があたまをぱくりとやられ、きゃっと声をあげ、つぎはおれの番だとどきどきしていたのだが見過ごされた。おれの背 […]
2019年2月4日 / 最終更新日時 : 2019年2月3日 straycat 第8回Webアンソロ「花」 インド水塔 朝七時三十分の光は斜めから射し、影は青みを帯びている。橋の上の小石の粒、砂粒ひとつひとつにも影がある。ごく小さいが、ちゃんと斜めに伸びている。男の子は発見し、よろこんだ。一月。弱い光がしかし金色に、橋やベンチを照らして […]
2018年6月5日 / 最終更新日時 : 2018年6月4日 straycat 第7回Webアンソロ「海」 サーモとカティ 生前、伯父は庭に缶詰を埋めておいたという。庭といってもマンションの共用庭だ。防災グッズのつもりだったのよと伯母は言った。伯父が亡くなったのはもう何年も前で、伯母は缶詰のことをすっかり忘れていたらしい。掘り返してみること […]
2017年9月15日 / 最終更新日時 : 2017年9月14日 straycat 第6回Webアンソロ「祭」 イビサの泡パーティー 腋の下にはちいさないぼがあり、茶色くくすんで木の実に見えた。 「だから、きれいに剃っても意味ないの」 叔母はぼやいた。しかしあらかじめ不恰好なら気楽だと、ノースリーブを好んだ。毛はなかった。腕は白くなめらかだ。 い […]
2017年1月22日 / 最終更新日時 : 2017年1月20日 straycat 第5回Webアンソロ「嘘」 飛ぶ蟹 サワガニにかんしては騙された。海から十分ほど歩いた山のうえに父の別荘があり、海水浴のあとは水着のまま坂をのぼった。小二の夏だったと思う。父と手をつないで歩いていて、側溝に蟹がうずくまっているのを見つけた。青白い小さな蟹 […]
2016年10月17日 / 最終更新日時 : 2020年8月21日 Review Review ぎょくおん(2) 共依存めいた関係にあった姉から逃げるように東京を離れ、 さびれた温泉街の旅館で住み込みの仕事を始めた男・郡司。 いっさいの連絡を絶ち一年になろうとしていたが、心は吹っ切れない。 また、常用している薬の副作用による乳汁分泌 […]
2016年9月6日 / 最終更新日時 : 2016年9月5日 straycat 第4回Webアンソロ「和」 講和条約と踊らない叔父さん 叔父さんのガールフレンド、ゆみこさんがかつての相棒と講和条約を結ぶという場に同席することになった。三年前に絶交してそれきりだったが、ついに和解するのだという。貸し借りしていたものを清算するらしい。ようするに僕には全然関 […]
2016年3月28日 / 最終更新日時 : 2020年8月21日 Review Review ぎょくおん 共依存めいた関係にあった姉から逃げるように東京を離れ、さびれた温泉街の旅館で住み込みの仕事を始めた男・郡司。 いっさいの連絡を絶って一年になろうとしていたが、心は吹っ切れない。 また、常用している薬の副作用による乳汁分泌 […]
2016年2月23日 / 最終更新日時 : 2016年2月22日 straycat テキレボWebアンソロ 飴と海鳴り その夏、湯田郡司ゆだぐんじを悩ませていたのは海鳴りの音だった。どおお、どおおという遠雷のような唸りがまとわりついて離れない。身体を内側から揺さぶられ、骨ごと震わされている気がして、頭痛がひどい。はじめは何の音だかわから […]