同人ストレイドッグス最終回~打ち上げ花火~

 夏。太陽。砂浜。たくさんの人間。正座。
「気持ちはわかるぜ。だが、俺たちは一片の悔いもねえ」
「悔いなさい」
 蝶がごときひらひらとした水着の女性。彼女の叱責が即飛ぶ。
「考えてみろ曜子、俺たちは見たんだ。大和とゴジラの共演を。もう人生でやれることはやりつくしたに等しい」
 きわめて真剣な青銭兵六の説得。実に的確にまるた曜子の火に重油をぶちこむ。
「やりつくしたんじゃなくて、終わりそうになってるだけでしょう」
 お手すきの方は第一話から読み直し、彼女の叱責率の高さに気づかれたし。同人ストレイドッグス、元は文豪ストレイドッグスのパロディである。なお、気づいたところで得るものはない。
「だって姐さん、宇治金時に練乳とアイス追加したのおごってくれるって言われたんですよ!」
「美奈、第一話で私が言った言葉を思い出して」
「三千円で男の人についてっちゃダメ」
「今回のかき氷の値段は?」
「千二百円!」
「下がってるじゃないの」
「だって、戦艦とか浮くだけで動かせないんですよ私!」
「それは異能の持ち腐れだ美奈ちゃん。戦艦大和をこの現代に出現させるだけで、十二分すぎるんだ」
「話がややこしくなるし、千二百円なのだから黙ってなさい」
 よくそれだけけばけばしいのを見つけてきたな、というような水着の浮草堂美奈がしゅんとする。青銭兵六はじめ、あまたの少年の心を満たされた人々はイキイキしているが。
 異能ギルドテキレボ準備会が必要になるわけだ。異能に善悪はないが、知性の考慮もないのである。パーでも射的距離四千二百メートルのくろがねを出せたりするのだ。「僕が文系だからか……。見返りも求めず純然たる好奇心でゴジラを出現させてしまったのは……」
「最終回にして突然文系をステータスにするんじゃないの」
「いや、疑問はわかる。僕もゴジラは異能の対象が不確かだった。なぜなら、僕の異能は妖怪の説明をすることで妖怪を出現させる異能。ゴジラは妖怪かというと甚だ怪しい。だが、シン・ゴジラ版ゴジラのゴジラとは神の怒りを表す。ここまで言えばもうおわかりかと思うが、あえて名前を出すと、柳田国男は妖怪を神が零落したものという説を――」
 その瞬間、海に水柱が立つ。
「すげええ! 鎌田バージョンまで出た!」 少年の心を持つ大人たちが歓声を上げる中、海上保安庁の出動が始まった。

「ふっ。子供ですにゃあ。この砂浜での焼き鳥とビールという至福より多くを求めるとは」 アンニュイですにゃあ、という口調がちっともアンニュイではない。決め台詞が不自然になる好例である。そして、短パンにTシャツ姿のナコはほろよいである。
「人間は欲が深いですネェ」
 隣のちーず。が、黒猫を撫でながら返答する。我も我もと少しはしたなく崩した足元に猫たちが集う。藍色の浴衣の下、素足に汗が一滴すべる。古めかしい麦わら帽子の影のうなじにも。普段抜かない襟が抜かれている。耽美な崩れ。
「なんでちーず。さんの衣装説明だけそんなに長いんですにゃ」
「最終回にして水着回なのに、サービスが足りませんからネ。尺のこともありますし、急ぎエロティシズムを」
「もはやメタを恐れないですにゃ」
「異能名を出す余裕もありませんからネ。必死ですよ。まあ、どういう異能か説明できる話じゃありませんしねェ。まァ、しなくったって問題ない話だからいいじゃありませんか」
 青銭兵六「ジェフェリー=クロウズ」まるた曜子「羽化待ちの君」浮草堂美奈「ヘヴンズ・ドアー」青砥十「後輩書記とセンパイ会計」相沢ナナコ「コネコビト」ちーず。「愛しのナー」以上異能名でした! 出しました!
「地の文での説明が唐突すぎますにゃ」
「要精進ですネ」

 さて、彼らは知るよしもないが、砂浜からほど近い民宿に、不穏分子はくつろいでいた。
 テキレボ準備会に内乱を企む、「300字ポストラリー」の首領、桂瀬衣緒である。
 彼女の異能で「城ノ内探偵事務所」で、友達と錯覚させている相手と文字通話中だ。
 同時に砂浜での会話も聞いている。スピーカーから海上保安庁の上に、自衛隊の出動まで聞こえてくる。
『なるほど。世津路章と紗那教授には困ったモンやね。まあ、それに輪をかけて困ったことになったのはうちもびっくりしたけど』
 電子の人格集合体「春夏冬」
 一つの名前で何人もからレスがある。
『「ミス・アンダーソンの安穏なる日々」と「百獣の女王」は強力な異能故』
『しかし復活に暴走はつきもの』
『むしろ暴走メイン』
『暴走しないなら復活させる必要なくねw』
『んなわけねーだろ! ヤバいよコレ』
『浅草廃墟化』
『一端を担った身として心が躍る』
『躍るんかい。痛めろや』
 数時間、国家は戦艦大和とゴジラの対応以外できまい。国家の一大事の無駄遣いである。

「さて、どうすんねやろね。テキレボ準備会は」
 そう呟いた瞬間であった。
 ぽん、と宙から黒猫が出現したのだ。
 ここだけではない、全国あらゆる場所に同時刻、突如黒猫が出現した。
 くるりと猫返りをし、ちょこんと座る。
 赤いリボンがひらりと跳ねる。
 テキレボ準備会増殖式マスコット「れぼんちゃん」である
 ある者は驚愕し、ある者は感激し、ある者は二度寝し、ある者は写メを撮った。日本全国が革命の兆しに揺れた。
 あまたのリアクションを受けながら、れぼんちゃんは告げる。
 テキレボ準備会からの緊急連絡を。
「全異能者見物者にテキレボ準備会からお知らせ! 百戦錬磨の古兵ふるつわものから初陣飾るルーキーまで、浅草台東館に集合!」
 そしてわずかに笑った。
 なぜなら、これは打ち上げ花火でもあるからだ。
「お祭りのはじまりですぼん!」


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サークル名:浮草堂(URL
執筆者名:浮草堂美奈

一言アピール
ハードボイルドダークファンタジー、BL、燭へし等、やりたい放題個人サークルです。第7回では同人ストレイドッグスも冊子化。ご登場いただいた皆様は当然このまんまじゃありませんのでご注意くださいませ。

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