訳詩 思い人/とこしえ
「思い人」詠み人知らず
わたしの思う、あのお方。
大海近くにいらっしゃるのよ。
あのお方には、何を贈ろう。
綺麗な
聞けばあなたに
この贈り物は、もう要らないわ。
砕いて焼いて、灰を散らすの。
これから先はもう思わない。
あの時のこと、覚えているわ。
恋しいあなたと別れる時に、
きっと
悟ったでしょうね。
今 秋風はさわさわと吹き、
はやぶさは低くかすめ飛ぶ。
東の空にお日さま昇れば、
わたしの心をわかってくださる。
***
[原題]
有所思 思う
[作者]
不明
[解説]
名もなき女性の悲しい恋の歌。出典は『
南の、呉の言葉を話す彼女には、海の、さらに南に恋人がいます。遠くにいるあの人に、何を贈ろう。彼女は考え、両端に真珠がついた、玉で縁取られた、
しかし思い人は彼女を裏切り、彼女は贈り物を燃やしてしまいます。思いを断ち切ろうとするけれど、浮かんでくるのはあの人と過ごした夜。朝になってあの人が去って行くとき、庭の鶏や犬が気付いて、鳴いて吠えてしまったから、きっと
そう思えば断ち切りがたく、お日さまだけはわかってくれるとうそぶく彼女。この「有所思」という題材は後世に愛され、多くの詩人が恋心を歌いました。
***
「とこしえ」
六頭の龍は留め置けず、
太陽の駆者ぐるぐると。
時の流れに感じ入る、
秋になっては夏を求めて。
海は
わたしの
不死の国へとゆかせてよ、
天駆る龍は御せないの。
徳があってもただのヒト、
決して戻せぬ過ぎたカコ。
年は流れる水のよう、
胸から溢れる嘆きの言葉。
***
[原題]
[作者]
[解説]
なんだか難解な感じがするこの詩は「
六頭の龍とは、太陽をひっぱり時の流れを司ると考えられていた龍のこと。海がけものを変えるとは、むかし、海にもぐると雀は
原題の「
作者の
サークル名:華亭の鶴(URL)
執筆者名:時任三文子/久志木梓一言アピール
主に3~4世紀の中国を題材に、さまざま創作しています。今回のアンソロ参加作は、テキレボ7の新刊、横長の『訳詩集 僕の五臓を引きちぎります』に収録予定です。訳を時任三文子が、解説を久志木梓が担当する合作本です。ほか小説等もあり。よろしくお願いします。