海底657フィートのモルゲンロート

巨大な船体から、これまた巨大な槍が。山のような火山のような何かに突き刺さるのを、みかんはぼんやりと眺めていた。

「ぺっぺぺぺー」
「ぺぺぺぺぺぺーぺぺぺーぺー」
「ぺぺぺーぺぺぺっぺーぺー」

大人二人は流れるBGMを口ずさみながら、ハイタッチをしている。画面の中のタカミネ(可愛い女の子になっている)は、せっせと丸いものを運んでいた。

「勝ち確だ」
「いやー撃龍槍サイコー、神に感謝する」
「感謝だ感謝」

ゲームの中のタカミネ(可愛い女の子)は、二本の包丁みたいな剣をびゅんびゅん振り回して、大きなドラゴンとかトカゲみたいなやつとかを狩っている。これはそういうゲームだって聞いた。馬みたいな生き物が雷を撃ってくるのに苦戦してたみたいだけど、今は……なんだろう? 大きい山?
火山だ。一言で言うなら火山。真っ黒い身体に画面の中のタカミネはどんどんよじ登っていって、ざくざく斬ったところからは血じゃなくてマグマが噴き出す。だから、火山。

「タカミネ勝った?」
「まーだ勝ってない」
「そっかー」

このゲームの面白いところは、別にこの中にいるドラゴンとかトカゲとかは、タカミネのことなんて全然興味なかったりもして、むしろ別のドラゴンとケンカしてたりするところ。真っ黒くて大きい角のドラゴンが、同じ形だけど違う色のドラゴンをぶん投げるところは、タカミネがやってる横で見たことがある。例えば他にもそういうのはあって、最近はなんでも振り回しちゃうようなモンスターが出るようになったんだって。怖いなあと思った。タカミネはそれのことをジョーって呼んでたけど、お父さんの名前に似ているのでちょっと複雑。みかんのお父さんあんな怖くなかっ……なかったと思うし……どうだったのかな? もう分からない。昔のことだし、覚えていないし、そもそももう確かめられない。
縄張り争い、って言ってた。そう言われるとみかんにも分かる。それは、とっても大切なことだ。自分の住む場所を守っていくのは、超大事。すごく大事。あとは、ご飯を食べることも同じくらい大事。トカゲみたいなやつは、ご飯を丸呑みにして食べちゃうんだって。味分からなくていいのかなあ?

「ねえねえ」
「ん、何」

タカミネがゲームをやっている時、絶対邪魔しちゃいけない時と、そうでもない時は、だいたい分かるようになってきた。今は余裕そうなので大丈夫。画面に二匹いたり、なんか強そうなやつを相手してるときは、絶対だめ。だめったらだめ。俺だけじゃなくて一緒にやってる人に迷惑がかかるから、と言われていた。このゲーム、海の向こうの人とも遊べるんだって。すごいね!

「このお山は倒すとどうなるの?」
「お山……あーマグダラオス? こいつはなーなんつったらいいのかな……」

タカミネはお外の生き物にも詳しいけど、画面の中の生き物にも詳しい。どこに巣があるかとか、そういうこともすぐ分かるって言ってた。どこが弱いとか、そういうのも。

「まぐだらおす」
「ゾラ・マグダラオスな。こいつ……この人……いや人じゃないけど、死に場を探しに来てるのね」
「死ぬのにタカミネたちじゃましてんの?」
「いや違う違う。こっちにもわけがあって……」

お山の名前、難しすぎて覚えられない。
お山が死ぬとき、たくさんのエネルギーがびゃーっと出てばーっとなるとみんな死んでしまうので、申し訳ないがお山さんには死ぬ場所を変えてもらう。そういう『作戦』らしい。
せっかく自分で死ぬ場所を探しに来たのに、邪魔されるのはかわいそうだなーと思う。でも人とか生き物がたくさん死んじゃうのも大変だ。

「そんで、ここじゃちょっとすややかに眠れないな……って思ってもらって、ゾラ・マグダラオスを海に誘導したわけ」
「海に」
「そそ」
「海に行ってどうなるの?」
「そこで多分……多分、死んだんじゃねえかな。多分」

何回もお山さんの相手をやってるのを見てたけど、それはゲームだからしょうがないんだろう。このゲームはいっぱいいろんなものが必要で、そのためにたくさん狩りをするゲームらしいので。
お山さんの他に、大きくて青くてひらひらしたびゃーって光るやつも、タカミネは何度も狩りに行ったりしていた。青いひらひらさんはわけのわかんないビーム(ってタカミネが言ってた)がすごい強いから、もう絶対邪魔しちゃいけないやつ。

「死んだあとは?なんかびゃーってなってばーってならないの?」
「海ん中だから大丈夫なんじゃねえの?そこまでは分かんねえわ……」

ああでも、とタカミネが言う。これならみかんも分かるだろう、と続けて。

「ゾラ・マグダラオスっつーか、超大型古龍が死んだあとには、そこに新しく生態系が生まれると言われてい……たはず。このゲームの中じゃあね。つまり、海の中に新しく世界ができるっつっても過言じゃねえかな、多分」
「ふーん……」

生態系。
みかんは人間ではないので、頭ではないところでよく知っている。みかんたち人魚の敵になれるのは、大型のサメやシャチくらい。人魚よりも下――弱い生き物のほうが、この世の中にはたくさんいる。人間も物理的にはそうだけど、人間は頭がとても良くて、いろんなものを作ったり、すごく大きいものを動かせたりするので、みかんたち人魚は、たぶん簡単には勝てない。
例えばタカミネは今すぐここで殺せるけれど、全部の人間を殺すより先に、人魚が全部狩られてしまう。……と、思う。人間はお船に乗って、お船の上からお魚のいる場所を当てたりする。それは、能力ではなくて、技術だ。人間がとても頭が良くて、いろんなものを使えて、今までの積み重ねがあってできるもの。だから人間は強くて、余程のことがなければ、この頂点から退くことはないだろう。

「海の中に、新しく」
「うん」
「海の中に、新しく、かあ……」

みかんは海のことはわからない。多分、身体はとても覚えているんだろうけど、みかんの頭はさっぱり海のことを知らない。
どうしてかっていうと、みかんは水族館で生まれた人魚で、そして今は理由あって田舎の山で暮らしている。みかんって名前も、本当の名前じゃない。本当の名前は、お山さんよりも長い名前。

「何だ急に。恋しくなったか? お前行ったことないだろ」
「ないよ! だってタカミネのせいだもーん」
「俺のせいだもーん、って言われても全く言い返せないし困るわーマジ……困るわ……」

海に、行きたいと思ったことが、ないわけじゃあない。
海に行ったら、どこかにいなくなってしまったお母さんに会えるかもしれない。けど、今はここから離れられない。離れるわけにはいかない。
わたしがいなくなったら、多分タカミネは死んでしまうから。

「いいよ別に。みかん行けるようになったら一人で行くしー」
「えっ俺は? シキお姉さんは誘ってくんないの?」
「シキついてきてくれる!? じゃあさそうよ! みかんとデートしよ!」
「ヒューッみかん好き!」

お山さんは最期、海の中でしあわせになれたんだろうか。
お山さんは最期に、人間に邪魔をされてしまって、嫌じゃなかったんだろうか。
そう思っていたけれども、みかんは山に住んでいるけど根っからの海派だから、きっとお山さんの最期は海の中でよかっただろうと思う。
深く潜れば夜がやってきて、そうして全ての帳を降ろす。死んだ身体を徹底的に利用し尽くし、そこに繁茂するいきものがいる。そうしてできた土台の上に、また成り立っていくいきものたちの手の取り合い、あるいは足の引っ張り合い。
お山さんにとってはちっとも懐かしくないだろうけど、わたしにとってはそれが、ひとの記憶よりずっと深いところに刻まれているのだ。わたしみかんがいつか帰らなければならないところとして。
それがいつになるのかは、わたしローラも知らない。

「ねーみかんもそれやってみたーい。あのなんか強くてかっこいいやつがいい」
「強くてかっこいいやつ?」
「振り回してるやつ! 変形するやつ!」
「チャアクかスラアクだと思うけどどっちも初心者向きじゃねーぞあれ」
「ええーじゃあぴょんぴょんするやつ……」
「大人しく片手から入れ片手もジャンプできるようになったし」
「それなんかださいからやだ!」
「全世界の片手使いに謝れ」
「ユラユラ広域片手楽しいよ見た目もあれだし人間助けてるし」

でも少なくとも、まだまだ先でいいと思う。
わたしローラよりわたしみかんのほうが、ずっと楽しそうに生きている。

「そういえばなんでタカミネは女の子でやってるの?」
「そりゃお前女装備の方がえっ……デザインがかっこよくてかわいいから!」
「(キリン装備……)」


Webanthcircle
サークル名:まよなかラボラトリー(URL
執筆者名:紙箱みど

一言アピール
人魚!人外!トラック!説明!!みたいなサークルです。元気に西に動きました。
そのときにハマっているものが見事にアンソロに反映される。狩り楽しい。

Webanthimp

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