Outsiders

 艦内放送サキ専用チャンネルでアニメ動画を見ていると『お父さん』から、搭載シャトルが戻ってきたという知らせが入る。
「ハラさんが帰ってきた!」
 サキは動画を止めて、ガシャンガシャンと足音を立て、外壁沿いの通路に向った。『お父さん』の気密扉が閉まる音がして、次いで廊下に通じる扉が開く。
「ハラさぁ~ん」
 うにうにと扉から入ってくるアメーバ型人工生物に手を振る。ハラもサキを見て半透明の身体の中央にある緑の核をふにふに動かしながら、一部を触手のように伸ばして、ぶんぶん振り返す。
「サキちゃん、ただいま~。お土産買ってきたよ~」
 全身淡い緑色の全裸の少女が入ってくる。
「…………」
 サキは無言で内蔵武器のセーフティロックを外した。

「ハラさん! そういうのは『めっ』なんだよ!」
 ブオン……、サキの腕からレーザーブレードが飛び出る。可愛らしい女の子の声に似合わない物騒過ぎる刃に
「待って! サキちゃん! さすがのオレも、まっぷたつになっちゃうから!」
 ハラが焦った声を上げる。
「オレが二つになっちゃうけど良い?」
「う~ん、それはヤダな~」
 二つのハラが、うにうに動き回る光景を想像して、サキはブレードをしまい肘を折った。開いた穴から銃口がキラリと、ライトを反射して出てくる。
「火炎放射器もヤメテ! 燃えかすから復活するの滅茶苦茶疲れるからっ!」
 悲鳴が上がる。
「この子は違うから! 知り合いに頼まれて船に連れてきただけだから!」
 ハラは身体の中から、小さな映像キューブを取り出した。
「サキちゃんのお土産はこっちのアニメ!! この子は違うの!!」
 半泣きで後ずさりし、ずりずりと壁を這い登る。
「本当?」
 自分を目を丸くして見ている少女に、サキは聞いた。
「本当よ。私、保護してくれた先生に、ハラさんと一緒に行くように言われたの」
 少女がはっと我に返って頷く。
「ふ~ん」
 サキは銃口を下ろし、カシャンと首を傾げた。
「で、この子、誰?」

「へぇ~、この子『お花』なんだぁ~」
 床にペタンとあひる座りして身を乗り出し、しみじみと自分を眺めるサキに少女、ハナが照れた笑みを浮かべる。
「まだ、咲く前だけど」
「植物型の可動生命体なんだ。彼女のいた星が急速に環境悪化してね。このままだと蕾のまま枯れてしまうからって、植物学者の先生に頼まれたんだよ」
 武器をしまったサキに、ハラが触手を振りながら説明する。
「枯れるの?」
 サキの視界が水分含有量をサーチする画面に変わる。身長140センチの痩せ形の身体は、体表面のところどころが、0から10%の薄い黄色で示されていた。そこに触れようとしたサキの手を、やんわりとハラは伸ばした触手で止めた。
「サキちゃんの力で弱ったところを触ると痛んじゃうからダメ」
「は~い」
 素直に手を引っ込めるサキの頭を、ハラが優しく撫でる。
「『お父さん』にデータを渡して、今、艦内の空気をハナちゃんに最適にして貰っているから大丈夫だよ」
 核をふにふに動かして、ハラはサキに頼んだ。
「ゴンスケさんのところに、ハナちゃんのご飯をお願いしてくるから、艦内を案内してあげてくれるかな?」
 ゴンスケは『お父さん』の艦内有機培養工場の管理ロボットだ。
「は~い」
 サキは立ち上がり、そっとハナの手を握ると「こっちだよ」と歩き出した。

「すごいでしょ! あの先から、ずどんずどんってビームを出して『お父さん』が悪いお船を追い払うんだよ!」
 初めて『お父さん』に乗った人を連れていく船橋から、船首に並ぶ砲台をさして、はしゃぐサキに
「『お父さん』……」
 ハナが周囲を見回して呟く。
 船橋は『お父さん』の中で唯一、宇宙空間が直接眺められる場所だ。今日も青い培養液のカプセルに入った『赤ちゃん』を抱えたオギさんや、首だけでコロコロ移動する『猫』のタマ達、『お父さん』の住人が星を眺めながら散歩している。
「この人達も、みんなハラさんが連れて来たんだよ」
 もう自分でも覚えきれないほど長く生きているハラは、方々の星に知り合いがいる。彼等も自分のように『保護』されたのだと聞いて、ハナはサキに尋ねた。
「サキちゃんも?」
「う~ん……、あたしはね……」
 サキは、サキの本当のお父さんとお母さんが、休みに家でネットニュースを見て
『そろそろ、叔父さんの星に避難した方が良いね』
 相談していたとき、突然、目の前が真っ暗になって、気がついたら『お父さん』の中にいた。
「でね、なんでか解らないけど、この身体になってたの」
 カシャン、音を立てて銀色の堅い身体を指さす。
「初めは上手く動くことが出来なくて、ハラさんがいろいろ教えてくれたんだ」
 ハラは
『オレは遺伝子をいじられ過ぎて、宇宙がビッククランチでも迎えない限り死ぬことは出来なさそうだから』
 誤動作で何度吹き飛ばされても、サキが身体を自分の意志で、ちゃんと動かせるようになるまで付き合ってくれた。
「……そう」
 カシャカシャと内蔵された、いろんな武器を出したり、引っ込めたりしてサキが楽しそうに笑う。ハナはそんな彼女を見て何故か目を伏せた。

「綺麗になったね~、ハナちゃん」
 ハナが『お父さん』に来て一週間。ゴンスケの作った栄養剤を飲んで過ごしているうちに、枯れかけていたところはすっかり治った。手足も更にすんなりと伸び、身体の起伏が大きくなり髪もピンクに染まって、ハナは綺麗に『咲いた』。
 そんな彼女をハラがゴンスケの工場の裏に連れて行く。
「うわ~」
 そこにはゴンスケが作った、ふかふかの土を敷いた小さな畑があった。そして……。
「誰?」
 畑の真ん中にはハナによく似た薄緑色の男性が立っている。ハナより鮮やかな赤い髪をして、甘い芳香を放っていた。
「あの人はハナちゃんの仲間だよ」
 ハラが答える。
「先生からハナちゃんの話を聞いたとき『お父さん』の保管庫に同じしゅの『雄花』の種があったのを思い出したんだ。それでゴンスケさんに頼んで、ハナちゃんが咲くまでに間に合うように、彼を促成栽培して貰ったんだ」
 ハナが男性に駆け寄り、二人が堅く抱き合う。
「さて、二人だけにしてあげようか」
 ハラはサキの腕とゴンスケのマニピュレーターに触手を巻き付けると、二人を工場の外に連れ出した。

 それから三日後、サキがハラと一緒に畑を訪れると、男性がハナに膝枕をされたまま、茶色に枯れて、息を引き取っていた。
『雄花の役目を終えたんだね。満足そうな顔をしている』
 男性を畑に埋めて、更に一月後、今度はハナがサキの膝枕に頭を乗せていた。
『ハラさん、サキちゃん、ありがとう。この子をお願いします』
 ハナがカサカサに枯れた腹から堅い黒色の種を取り出す。
「解った。サキが大事に守ってあげるから」
 約束して受け取ると、ハナもまた満足そうに笑って、息を引き取った。
 サキとハラとゴンスケで、ハナを雄花の隣に埋める。ゴンスケに渡された白い花束を、サキは二人を埋めた土の上に供えた。
「ハラさん、二人はこの後どうするの?」
「しばらくしてから、ゴンスケさんが畑の土ごと分解ポットに入れるって。そしてリサイクルされて、培養工場の原料になるんだ」
 ハラも花束を供えながら、核を小さく縮ませる。
「……良いなぁ。こうして自分の生命を次の世代に繋いで、他の生命も繋ぐサークルの中で『生きて』いくんだ。……オレなんて、その『輪』に入れないもんなぁ~」
 ハラが乾いた笑い声を上げて畑を後にする。サキはハラと花束を交互に見た後、種をそっと抱きしめて、彼の後ろを追った。

「サキちゃ~ん!」
 船橋でハナの種を抱いて、宇宙空間の星々を眺めているサキにハラが声を掛ける。
「『お父さん』がハナちゃんの種が育つのに最適な星を見つけてくれたんだ。今からそこに向かうから、着いたら星に降りて、一緒に植えてあげよう」
「うん!」
 サキは種に、そっと頬ずりをした。自分の銀色の堅い身体とは違い、種はどこか暖かい感じがする。
「ねぇ、ハラさん。サキ、ハナちゃんの種から産まれた赤ちゃんと遊べるかな?」
「遊べるよ。『お父さん』に星を巡回航路に入れて貰って、時々尋ねてみよう」
「うん!」
 そうして二人でハナの種から芽を出した子供を見守る。ハラの話だと、ハナのしゅは発芽も成長もかなり時間が掛かるらしい。
 だったら……サキと遊べるようになるころには、サキは『元の身体』に戻っているかも……。
 その話をするとハラがとても悲しそうに核を縮めるので、サキは黙って回路の中だけでシミュレーションした。
 サキの『元の身体』。初めてあったハナによく似た、ふにふにと柔らかくて暖かい女の子の身体。それなら、赤ちゃんを傷つけずに抱っこしたり、一緒にぎゅっと手を繋いで、飛んだり跳ねたり、駆けっこも出来る。
「サキがハナちゃんの代わりにお姉さんになってあげるから、たくさんたくさん遊ぼうね~」
 ハラが種を植える星の映像を見せてくれる。青い海に覆われた緑の大地が点在する綺麗な星だ。
「サキの星にそっくり~」
「生き物のサークルがきちんと回っている星だよ。ハナちゃんの子が、そこの一員になって『輪』に入れれば、きっとハナちゃんは喜ぶだろうな」
「ふ~ん」
 よく解らないけど、ハラも嬉しそうだ。サキは、もう一度そっと種に頬ずりをした。

 とある銀河には星々を巡る幽霊船の噂がある。
 星系間戦争で滅んだ、ある星系の航宙母艦が、特殊潜入工作兵や破壊工作機兵等の残兵と、たくさんのワケあり『住人』、そして小さな女の子の霊の憑いた制圧用ロボット歩兵を乗せて航海しているという噂。
 彼等は、どこかに行くあてもなく、星々をただぐるぐると回って旅をしているのだという。


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サークル名:一服亭(URL
執筆者名:いぐあな

一言アピール
オンラインで主に人外キャラを中心にファンタジー、オカルト、SFを長編から掌編まで書いています。
既刊は人情SF短編集「マミーと僕と青い空」、新刊は「絶望の向こう側」。開拓惑星、近未来、仮想空間、天の川銀河系が滅んだ遠未来等、様々な時代、場所で生きる人達の小さな物語の読み切りSF短編集です。

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