金鯱くん

 へにゃぽちゃんの机にはサボテンのひとがいます。「金鯱」というおなまえです。世の中にはいろいろなサボテンの方がいらっしゃいますが、それぞれかっこいい名前がついているのです。金鯱くんはみたらしだんごくらいの大きさの、ちっこいまんまるなひとです。
「へにゃぽ!」と、今日も金鯱くんにあいさつをします。金鯱くんはものしずかなひとですが、へにゃぽちゃんにあいさつをされるとうれしいです。「こんにちは」と、いいます。「にゃぽ……にゃぽ……」と金鯱くんのとげとげをしげしげと眺めているへにゃぽちゃんです。みどりのまんまるに、金色のトゲが映えています。

 こんこん

 ノックの音がします。へにゃらぽっちぽー兄さんかな。どうぞおはいりくださいな。
「へにゃらぽっちぽー!」
 こんにちは。
「ぽぽぽー!」
 金鯱くんを見つけた兄さんは浮き足立っています。なんてかっこいいとげとげなのでしょう。
「ぽっちぽー! ぽっちぽー!」
 あいさつもそこそこに、金鯱くんの植えられたちいさな鉢をつかんで踊り始めました。
「あ、どうも……」とあいさつを返そうとした金鯱くんは、持ち上げられてびっくりしています。「にぎやかな方ですね……」という声は、ぽーぽーとさわいでいるひとのせいで聞こえません。
「へにゃぽ! へにゃぽ!」
 あわてて兄さんを止めます。いきなり一緒に踊ろうとしたらびっくりしてしまいます。
「めがまわりました……」とつぶやく金鯱くんに、「ぽっちぽー……」とへにゃらぽっちぽー兄さんが謝ります。ゆっくりとお話をしましょう。
「ぽっち、ぽっち、ぽっちぽー」
 兄さんはとげとげをほめたたえますが、「いえ、そんなことはないのです……」と恐縮する金鯱くんです。
「ぼくはまだひよっこなのです」
「おとなのりっぱさには全然およばないのです……」
 恥ずかしそうに話します。へにゃぽちゃんが「せかいのかっこいいとげとげ」という本を持ってきて「にゃぽ!」と開きますと、おとなの金鯱氏が「ででん」としている写真が載っています。金鯱くんはおとなになるとどでかい姿になるようです。へにゃらぽっちぽー兄さんのからっぽのあたまよりも、しもぶくれなおなかよりも、よほどおおきな球状の金鯱氏です。
「ぼくもおおきなまんまるになりたいのです」
「そして、りっぱな花を咲かせるのです」
 へにゃぽちゃんとへにゃらぽっちぽー兄さんにお伝えする金鯱くんです。

 へにゃらぽっちぽー兄さんは、金鯱くんを膝の上に乗せたへにゃぽちゃんと一緒に電車に乗っています。がたんごとん。いろいろなサボテンの花を見てもらい、参考にしていただくのです。がたんごとん。かっこいいとげとげとりっぱな花を求めて農園に向かいます。がたんごとん、着きました。
「へにゃ?」「あれ?」と、首をかしげるへにゃぽちゃんと金鯱くんに気付かず、兄さんは「ぽ!」と、誇らしげに指差します。とげとげのついた深緑色の茎の先に、真っ赤な花があざやかに咲いています。りっぱです。りっぱなバラの花です。

 どうやらここはバラ園のようです。赤や白や黄色、桃色のバラが咲き乱れ、紳士のひとや淑女のひとがゆうがに紅茶を飲んでいます。
「あの……」
 胸を張ってにこにことしているへにゃらぽっちぽー兄さんに、金鯱くんは遠慮がちに話しかけます。
「バラの方々とサボテンたちは、すこしちがうのです……」
 とても言いづらそうな金鯱くんです。
 あれ、ちがうのですか。兄さんはきょとんとしています。どうやら、かっこいいとげとげとりっぱな花があってもサボテンではない方もいるみたいです。
「ぽっちぽ……」
 しゃがみこんでしまいました。金鯱くんにサボテンの方々が咲かせている花を見せたかったのです。
「いえ、バラの方々はとてもおきれいですし、参考になると思います……」
「へにゃ、へにゃ、へにゃぽ!」
 落ちこむへにゃらぽっちぽー兄さんをなぐさめます。

 兄さんはすみっこでしょんぼりとアリの行列を眺めています。それはそれとして、せっかくなのでバラの絵を描くことにしたへにゃぽちゃんです。天に向かって堂々と咲いている赤いバラの前に座りました。色鉛筆の緑色と黄緑色を使い分けて茎や葉っぱをひょうげんするのです。花びらのあざやかな赤はしっかりとしたタッチです。
「にゃぽ!」
 完成です。
「あら、うつくしいわたしをうつくしく描いてくれているじゃない」
 赤バラさんはうきうきしています。
「ゴージャスなわたしにふさわしいゴージャスな額に入れてゴージャスに飾らせていただくわ」
 気に入っていただけたようでなによりです。

「金鯱さんとおっしゃる方、きらきらと金色に輝くすばらしいトゲをお持ちですな」
「いえいえ……あなたの花こそ、しっとりとしたうつくしい黄色です」
 黄色いバラの方と金鯱くんが話をはずませています。おたがいのとげとげが刺さるので握手はしませんが、ふたりはなかよしになりました。トゲ談義に花が咲きます。

 ぼんやりとアリさんやアブラムシさんたちを眺めているへにゃらぽっちぽー兄さんの周りには、色とりどりのバラの方々が集まってきました。ぞろぞろ。
「バラとサボテンをまちがえるとは、うっかりしたひとですね」
「しかし、りっぱな花を見せようとバラ園に来たのは正解です」
「なにせ我々バラの花はなにものにも代えがたいうつくしさを持っておりますからな」
「すみっこでちぢこまっていては、すばらしいバラの魅力を堪能できませんぞ」
 わいわいと話しかけます。
「バラ園は、紳士淑女の方々にも、あなたのようなそうでない方にも、分け隔てなくうつくしいバラを見ていただくための施設なのです」
「バラはうつくしい!」
「バラ万歳!」
「バラ!」
「バラバラ!」
 なぐさめてくれているようです。

 黄バラさんの案内で園内をまわる金鯱くんです。こんにちは、金鯱と申します。ぼくはサボテンなのです。
「サボテンの方がいらっしゃるとは珍しい」
「水がなくても育つってほんとうですか」
「光合成はどこでやっておられるのでしょうか」
 お話好きのバラの方々は金鯱くんに質問をします。
「りっぱな花を咲かせていただくよう、応援しています」
「しかしまあ、金鯱少年のとげとげは非常にりっぱですね」
「トゲに関しては我々バラも、サボテンの方々に学ぶべきところがありますな」
 やいのやいのと金鯱くんを歓迎します。

 楽しくお話をしていたらいつのまにやら日が傾いています。閉園の時間がやってきました。
「今日はありがとうございました」
 金鯱くんはお見送りにきてくれたバラ一同に向かってとげとげのあたまをぺこりと下げます。
「ぼくに花が咲いたら、見せにきます」
「バラの方々に負けないりっぱな花を咲かせます!」
 元気に宣言をする金鯱くんです。
「バラよりりっぱな花を咲かせるなんて、いせいのいいことを言うわね」
「せいぜいがんばりなさい」
 赤バラさんがにこにこと応えます。
「来年、大きくなった金鯱少年がやってくるのを心待ちにしているぞ」
「りっぱな花を見せてもらおうじゃないか」
 みなさん金鯱くんの再訪を楽しみにしています。
「いや……来年はちょっと……」
 なんだか歯切れが悪い金鯱くんです。
「ぽぽ?」
 なぜだろう。疑問をぶつけるへにゃらぽっちぽー兄さんです。バラのひとたちも首をかしげています。
「にゃぽ! へにゃぽ!」
 へにゃぽちゃんが説明します。持ち歩いている「せかいのめずらしいはな」の本をみなさんにお見せしましょう。どれどれ。
 なんと、金鯱の花は三十年くらいして初めて咲くそうです。
「ぼくはいま三歳なので、花が咲くまではもうしばらくかかるのです……」
 申し訳なさそうな金鯱くんです。
「なんと!」
「なんと!」
「なんとなんと!」
「へにゃらぽっちぽー!」
 赤バラさんも黄バラさんもバラの方々もへにゃらぽっちぽー兄さんもびっくりです。
「そのころ私は枯れているだろうが、私の子孫に会いにきてくれないか」
 黄バラさんが金鯱くんにお伝えします。
「ええ、りっぱな花を咲かせて、みなさんの子孫の方々にみせびらかしにきます!」
 金鯱くんは約束をしました。

 帰りのがたんごとんでよだれを垂らしながらぐーすかと寝ているへにゃらぽっちぽー兄さんです。いただいたバラの花をあたまに刺しています。
 へにゃぽちゃんも、膝の上に金鯱くんを乗せたままうとうとしております。りっぱな花を咲かせた金鯱氏が植えられたおおきな鉢を、よいしょよいしょとバラ園に運ぶへにゃぽおばちゃんの夢をみています。へにゃらぽっちぽーおじさんのはげあたまにどでかいトゲがぶすりと刺さって、「へにゃらぽっちぽー!」と叫びます。


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サークル名:へにゃらぽっちぽー(URL
執筆者名:へにゃらぽっちぽー

一言アピール
こんにちは、へにゃらぽっちぽーと申します。既刊の「ぽぽぽ」に収載の短編を投稿いたしました。
へにゃらぽっちぽー兄さんやへにゃぽちゃん、そのほかのひとたちがのびのびとびろーんとすごしている短編集を売っています。当日、へにゃらぽっちぽーブースまでひやかしにきていただけるとうれしいです。

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