不香の花
舞い降りし
真っ白になりしあなたに 供えしか
あなたの呼吸は 穏やかとなりて
一切の
まぶたに手を置き そっと閉じ
手を取れば まだあたたかく
穏やかに眠る顔は 表情を成さず
痩せた頬と 薄い白髪を撫でると
もう何もできることはなく
生まれし日は 夏の嵐なれど
往きし日は 不香の花に見送られ
白き棺に収まりし 新しきあなたは
炎に導かれ 魂は風に乗る
あなたが きっと帰りたかった
山深き故郷にも 咲く花
伝えたかった言葉も
一緒に見たかった景色も
手にしたかった未来も
たくさん 抱えたままで
あなたと 叶えられずに
あなたが いなければ
わたしも この世界にいない
つないでゆく この命も 名前も
すべて あなたから貰いし物
抱えきれぬほど束ねた 想いの花は
枯れることなく 胸に宿り
忘れてもなお 咲き誇りし
不香の花よ
【不香の花】……「雪」の異称。
1…かおりのない花。※光悦本謡曲・葛城(1465頃)「担頭の柴には不香の花を手折つつ」
2…雪を花と見て、それをかおりのないものといった語。【出典:デジタル大辞泉(小学館)】
サークル名:暁を往く鳥(URL)
執筆者名:砂原藍一言アピール
現代日常・恋愛・学生・強い女子好き。通称、ローカル食アンソロジー東北編主宰です。
今回も東北が舞台の作品を集めたMAP企画・『東北においでよMAP』あります。
創作の原点に立ち返るべく、詩を書きました。