愛しのナー


 中堅作家・山本光太郎の担当となった新人編集者・大貫優衣。人間嫌いの気があると噂の作家の元をたずねると、そこにはナーさんというお婆ちゃん猫がいて、彼女が二人をゆるやかに穏やかに、やがてしっかりとつなぎとめていく。サイン会を経て光太郎は小説家になった理由を語る。それはナーとの出会いと、傷ついた過去の物語だった。

 ちーず書店さんはもう古株さんになるのかな。ずっと昔、まだ書き始めたばかりの頃の作品を2作ほど拝読させていただいたことがあるが、格段に洗練されたというのがまず印象。少しギャルゲーの香りがする台詞交換が主体で進む物語だったので、もう少し情景描写を入れたらどうかというような書評を書いたような記憶がうっすらとある。
 この頃から恋愛物がメインで書いておられたと思うのだが、私が少し同人を離れてたのでその間のことは分からない。悔しい。もっと読めるものあったはずなのに。

 猫ときたら飛びつかずにはいられないので即決だったのですが、これずるい……前の書評のときも結末がずるいと書いたと思うけど、これはないわーほんとないわー号泣したのどうしてくれるんやー俺の涙腺どないなっとんのやー……ほんとに。

 一応恋愛のカテゴリにいれてあるが、これってむしろ高校生の頃の光太郎の傷をナーさんが舐めとってくれた話だと思うんですよ。
 優衣と光太郎のちょっともどかしい距離の詰め方も、季節の風景と共にゆっくり二人が変化していくのも、そこに一匹の白猫がたたずんでいるのも、ほのぼのとしたいい光景だと思う。蛙をおっかけて田んぼへダイブするナーさんも、廊下の端でちょっとだけ待っているナーさんも、生きたいと強く叫ぶナーさんも、全て猫だしOKというのと同じように。

 結末が不満か、というとそうではない。むしろこれしかないだろと思う。あんなに泣かせてバッドエンドだったら呪い殺すところだ。というか、ちーずさんはどうしてこんなに暴力的なの? これ暴力だよね? 涙腺に対する暴力。ひどい。悔しい。感動した。号泣した。泣き過ぎて悔しい。


発行:ちーず書店
判型:A5 100P 
頒布価格:200円
サイト:ちーず書店

レビュワー:小泉哉女